感想:僕の妻は感情がない (4):フレーム問題の先にある未来

誰かが人間以外の存在と夫婦や家族になる。
もし現実にそんな人がいたら、どのような家族関係を育むのか? そして周囲はどんな反応をするか?
それを極めてリアルにシミュレーションしたのが本作だと思いました。

本巻ではタクマの叔父が、ミーナは飽くまでも人間のように人権が保護されていないロボットであり、人間の女性と同じような夫婦の権利が認められていないことの不平等を指摘します。
いくらタクマが夫婦だと言っても、もし心変わりすれば一方的に「妻」から「ロボット」に格下げできてしまう関係だからです。
その指摘を受けてタクマはミーナを妻として両親に紹介することを決意します。

本巻で描かれた両親の反応は「大人」だと思いました。
理解も共感もできないけれど、タクマが幸せならそれでいいと受け入れて、ミーナとも仲良くし、法的なロボットの所有権を話し合います。
良い両親であると思うと同時に、理解を諦めて突き放した態度であるとも感じました。
叔父も両親もミーナを「ロボット以上」と認めたわけではなく、タクマの「ロボットを人間のように扱う奇行」を受け入れただけです。

それに対して本巻の最後に「子供」も出てきました。
子供は物分りの良い大人のような態度は取りません。子供にとって、理解も共感もできないものは許せないのです。
彼女はミーナとタクマの関係を認めると、自分の信念が崩れるらしく、ミーナを否定しようとしてきます。
そして暴力的な手段に訴えようとさえします。続きが気になる展開です。

彼女は不快な人物に見えるかもしれませんが、ある意味では初めから理解を放棄している両親よりも、理解できないことに悩み怒る彼女の方がタクマに近い位置にいると思いました。

現実には、ロボットがロボット以上のように振る舞うようにプログラムするのは、想定していない行動パターンを実行させることができない「フレーム問題」に阻まれて実現できていません。
ですが、近年の機械学習の発展、意識理論の幾つかの有力な仮説(自由エネルギー原理、統合情報理論など)により、フレーム問題を超える可能性が見えてきました。
10年後か100年後かは分かりませんが、本書で描かれたタクミとミーナの関係は現実の社会問題となるかもしれません。
偉大なSF作品の数々は、未来に現実になるかもしれない問題をリアルに体感させてくれます。
この作品も、ロボットと家族になる未来を私達に見せてくれ、その問題を真剣に考えさせてくれる素晴らしいSFの傑作です。

この記事が参加している募集

#マンガ感想文

20,159件