感想:腸よ鼻よ (10):家族愛の物語であり、医療関係者の努力の物語であり、夢に挑戦する少女の物語

沖縄に住むマンガ家志望の少女が難病特定疾患「潰瘍性大腸炎」になったところから本作の物語は始まりました。

本作には3つの側面があったと私は思っています。

1つは難病になった主人公を支える家族愛の物語です。
病院の送迎、入院と退院の準備、身の回りの世話、急な体調変化への対応など、両親、兄姉が一丸となって主人公を支えます。
難病になった家族との暮らしは、綺麗事では片付かない苦労があるはずなのに、少女の家族は明るさを失わず、仲良く協力して様々なトラブルを乗り越えていきます。
主人公の姉にいたっては、沖縄から本州へ引っ越す主人公の世話をするために、あっさり地元の仕事を辞めて転職し、主人公と一緒に引っ越ししてしまうくらいです。
その家族愛の強さに、私は素直に感心しました

もう1つは、医療関係者の努力の物語です。
難病の治療というものは、何十人もの医療関係者が、10年、20年とかけて行っていく大事業です。
本作では、名医からヤブ医者まで、様々な医療関係者が登場して主人公を支えます。
物語が暗く退屈なものにならないように、キャラクターは過度にコミカルに描かれていますが、治療に関する話はマジメに語られます。
そのマジメに語られた話から、主人公の治療がどれだけ大変だったかが推測されます。
人を救うために高度な技能を身に着け、献身的な治療に励む医療関係者の姿に、私は心からの敬意を抱きました

そして最後の1つは、夢に挑戦する少女の物語です。
物語開始時点で主人公は、何者でもないマンガ家を夢見る少女でしかありませんでした。
しかも難病にかかります。もちろん家族も医療関係者も大変だったでしょうが、本人が一番大変なのは言うまでもありません。
重大なハンデを抱えながらも、主人公は良き友人たちの応援と協力、そして癖のある編集者の指導の下でマンガ家として活躍します。
本作の主人公が難病を抱えながら成功する姿は、同じ難病を抱える人を励ますものであったと思います

本作は楽しく読めながら治療の大変さも分かる闘病記として過去に類をみない傑作でありました

本作を読んで、この作者さんは、聞くのがシンドイ話を楽しい物語に翻案して伝えるのが非常に上手な作家さんであると分かりました。
本作は難病の個人的な経験をマンガにしたものでしたが、この作者さんならば本人が経験した以外の出来事も上手に伝えることができるだろうと思いました。
この作者さんの次回作も楽しみです

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