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アル中カチカチおじさんは、めっちゃいい人だった。

今から10年ほど前に清掃会社でアルバイトをしていた。仕事を転々とし、体調不良で働けない状態だったのだが、一人暮らしを継続させるために無理して働いていた。
実家に帰ってもなぁ…発達障がいだと言っても理解されない。

確か精神安定剤を飲みながら働いていた。基本、午前中5時間勤務で週に2回はフルタイムで働きながら家賃を払っていた。生きているだけで精一杯。

Gさんと出会ったのはその頃だった。
「君が新入りか、まぁ気楽にね緊張しないでいいよ」
見た目は40才をこえている、おっちゃんなので主任さんだと思った。
「はい!よろしくお願いします」
「ははは緊張しないでいいよ、リラックス、リラックス」
そう言うと、後ろを振り向いて歩いて行った。

僕は見逃さなかった。水色のズボンの裾が短い、八分ぐらいだと思う。
中学の時、急に身長が伸びてズボンの裾が短い人がいる。成長期だからだと分かりやすいが、40才を超えたおっちゃんのズボンの裾が短いとは何事だ。
あと、ほのかに顔が赤い。ちょっと顔が揺れているし大丈夫かなあ。

清掃は主にデパートの掃除だった。休憩時間は外のベンチで休んだりした。
「キンジョー君コーヒーおごるから、そこの自動販売機でジュース買ってきて」
コーヒーをおごってもらったかわりにGさんの過去の話を聞かされるようになった。

「昔のオレは本当にヤンチャでさぁ、短期で車の免許取れる合宿あるでしょ?離島にもあって、そこでやらかしちゃてさあー本島に戻されたわけよ」
「ケンカでもしたんですか?」
「仮免の練習の時にサトウキビ畑に突っ込んでさぁ大変だったよ」
「聞いたことないですよサトウキビ畑に突っ込む人なんて」
やっぱりおかしいよ、この人
「でも、1番の原因はあれかな?合宿所で女風呂のぞいたことかな、教習所の人に見つかって翌日、本島に帰された」
それですーまさしく原因はそれですーかなりやばいなぁ。

Gさんと休憩中に会うとお金を渡されて自販機で飲み物を買うのだが、お金を渡すときのGさんの指先が、いつも震えている。だから小銭がカチカチと鳴る。

他の人から聞いた話によると、Gさんは午前中にバイトを終えると、すぐさま飲み屋に行くそうだ。
昼間から空いてる飲み屋があるのかと聞くと、年金通りと呼ばれている飲み屋街があるらしい。年金をもらっている人が昼間から飲んでいる街、そこが年金通りだ。

毎日、年金通りで飲んでいるから、指が震えているのかな、まぁGさんも大変な人生だったかもしれない。

正直、いくら生きるためとはいえ、掃除のアルバイトなんかしたくなかった。同級生も結婚して家庭を持って子供もいて、自分はいったい何をしているのだろうと思うと悲しかった。
デパートの中で接客をしている女の人が輝いて見えた、好きな仕事をして楽しそうだなと。

なぜ自分だけ上手くいかないんだ、なぜ不幸なのだろう?結局のところ、人と比べているからそういう思考になってしまうのだ。Gさんの他にもすごいキャラの人がいる。50才をこえたおっちゃんでチャップリンに歩き方が似ていて、てんかん持ちのNさん。仕事中でもおかまいなしにオペラを歌っている青年Uさんもいる。本当にやばい人の集まりだ。

でも、みんないいのか悪いのか他人と自分を比較しない、我が道を行く。清掃のバイトをして学んだことは「人と比べない」
自分にとって大事なことだったと思う。

今でも自販機でコーヒーを買うときはGさんの声が聞こえてくる。

「キンジョー君ジュース買ってきて」と。

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