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スポーツは楽しいなずなのに……

 私がいた小学校は僻地にあり、六学年全校生徒が50人強という小さな小さな学校でした。

 なにかスポーツやイベントを行うとすれば複数の学年で行います。

 同級生は私を入れて六人。

 みなさん「複式学級」という言葉をご存じですか?

 一つの教室を二つの学年をまとめて使い、授業を行います。

 一二年、三四年、五六年。たった三つの教室で済むわけです。

 ちょうど一つ下の学年が四人だったので、漏れなく複式学級で行いました。

 これはちょっと面白い話で、学年によって教科が別なんですね。

 黒板を半分半分につかいます。

 三年生が隣で国語をやり、きりのいいところで先生は課題を出します。その間、となりの四年生の算数の授業が始まります。

 私は至極当たり前のこととしてすごしましたが、先生の苦労はいかばかりか……。教師になった友人の苦労話をよく聞くだけに、そんなことを思ってしまいます。大人になって気づくこととはこういうことなんですね。

 ですから、そんな学校でスポーツ少年団を結成し「野球を始めます~」となると、ほぼ全学年強制参加のような形になります。もしかしたら拒否権もあったのかもしれませんが、こういう場合親の方が乗り気で子どもの意見は無視されてしまうのですね。

 そんなわけで父は何の予告なしに私にグローブを買ってきました。

 本来であるならばこれは素晴らしいことです。父に感謝し喜びを爆発させるのが一般的な反応でしょう。

 しかしこのとき私は生まれて初めて父に対し怒りを爆発させました。

 まず自分の意志とは関係ないところで野球をやるということを決められてしまったこと。

 もう一つ、これが一番深刻なのですが、私は極度の運動音痴でした。キャッチボールもままならない。同級生のなかで自転車に乗れるようになったのも一番最後。体育の授業も苦痛でしかありませんでした。

 いくら子どもの私でもわかります。私がみんなの足を引っ張ってしまうことは確実でした。

 その予想通りに私はいつまでたっても上達しませんでした。

 学年が上がるともっと絶望的な状況になりました。

 人数合わせのレギュラーにさせられたのです。

 ファーストに置かれましたが、まずピッチャーの牽制球が取れません必ずといっていいほど後逸します。ノーコンなのでアウトになる打球もアウトになりません。打球をトンネルするのも当たり前の状況です。打てないのはしょうがないとしても、守備の欠点はどうしようもありません。失点が負けにつながるのですから。

 私が在籍した少年団は散々な成績でした。

 でも誰も攻めませんでした。

 卒業するときに父兄の方々が「高橋君は一番成長した。あんなに何もできなかったのに」という言葉を聞いて絶望とともに悔しくて悔しくて涙がでました。

 成長?なにがだ?このはずかしめにがまんすることか?何一つできていないじゃないか。

 自業自得ではあるのですが、私の中に負の感情がふつふつと滾りました。

 それ以来、大人になるまで野球というものから遠ざかって生きてきました。当時はプロ野球中継をみるだけで気分が悪くなりました。

 ほかの同級生たちは中学でも野球を続けました。かなり成績もよくチームの中核をになっていました。ますます私が不要だったことに感じられ。応援に行くことはありませんでした。

 中学では卓球を選びました。そこでは何とか自分の特性を活かすことができてとても楽しいものでした。県大会まで進めたことは僕の誇りです

 高校に入ると持ち前の好奇心でやったことのないスポーツをやろうとラグビー部にはいりました。

 これはもう適材適所といっていいスポーツでした。私は体格に恵まれていたのでフォワードとして自分なりに活躍したと思っています。

 ※これには幻の引退試合というエピソードがあるのですがまた今度

 こうして徐々に「スポーツは楽しいものだ!」ということを獲得して今に至ります。

 いまでは甲子園や選抜高校野球も応援するし、ペナントレースも気になります。東北楽天ゴールデンイーグルスができ、郷土の誇りだとも思います。

 そして岩手から菊池雄星、大谷翔平といったスターが誕生したことは素直に感動しました。おそらく子供のころの自分では喜べなかったでしょう。

 もしこれを読まれた方でお子様をお持ちの方がいましたらスポーツをやらせる際に是非”本人がなにをやりたいのか”を聞いてあげてください。

 もし「やりたい!」と答えたら、そこは例え子どもであれ”責任”が発生するのですから、泣き言をいったら教育として諭すこともできるでしょう。

 でも本人が望んでいないことを逆らえない状況で強要されたら?

 先日、地元の高校が野球で県大会優勝の記事をみてそんなことを思ってしまいました。


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