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海外勤務者に聞いた、世界のコロナ事情【第37回マスクの向こう側】

<まえがき>世界中で猛威を振るっているコロナウイルス。抑え込むのに成功した国もあれば、感染拡大が続いている国もあります。今回は、ベトナムやカンボジアなど海外で勤務している日本人にお話をお聞きしました。それぞれの感染対策や、外から見た日本の状況などをお伺いしました。

●ベトナムのコロナ対策について
●日本に入国する時の対応について
●コロナ下で一番身の危険を感じた瞬間

―自己紹介をお願いします。
海外で働く、日本企業の会社員です。今年の5月まではベトナム支社で勤務し、コロナ騒動の最中に、カンボジア支社に異動しました。

―海外は希望して行ったのですか? 最近は海外志向の若者も減っていると聞きますが。
今の会社に転職した時から、早く海外で働きたいと思っていました。日本は人口減少の段階にあり、社会的にも成熟期にあります。一方で、世界に目を向ければ、これから成長する、勢いのある国もたくさんあるわけで、そういうところで働いた方が、色々学ぶところが多そうだし、何より活気があって楽しそうと思いました。

―実際、現地に行ってみてどうでしたか。
“海外は文化が違うので大変”という意見を聞きますが、それは日本にいても同じだと思います。一回り若い世代の人と話をしても、話がかみ合わないし、何を考えているか分からないし(笑)。ベトナムもカンボジアも、部下は全員外国人で日本語での会話はできませんが、素直な人が多いので、むしろコミュニケーションは取りやすいような気がします。それに、みんなモチベーションが高いんですよね。いい仕事をして、結果を出して、それに見合った給与をもらおうって意識の人ばかりで。一緒に働いても楽しいですし、学ぶところも多いです。来て良かったと思います。

―ベトナムでのコロナの影響を教えてください。
日本では余り知られていないことですが、ベトナムのコロナウイルス対策はとても優秀です。初めの感染者が出たのは1月中旬のこと。その後、すぐに対策室を立ち上がりました。初動が早かったですね。ロックダウンはしていませんが、抑え込みに向け、必要最低限以外の外出禁止要請に加え、レストラン、娯楽施設、商業施設の営業停止、タクシー・バスなどの公共交通機関の停止など様々な対策を早々に実施。また、アプリやネットを通じて、「感染者が今、どこで何をしているか」という情報を随時提供するなど、情報公開が徹底されたのも、日本との大きな違いだと思います。最初は「え、そこまでやるの」と戸惑いや不満もありましたが、おかげで、今に至るまで、一人の死亡者も出していません。すっかり、元の暮らしに戻っています。

<注>この原稿を校了した後、7月25日にベトナム中部の観光都市ダナンで約3カ月ぶりの感染者を確認。29日には首都ハノイでも感染疑い例が相次いで見つかっており、警戒感が高まっています。これまでと異なり、非常に感染力の強いタイプのものらしく、新型コロナウイルスを抑え込むことの困難さを物語っています。

―そんな安全なベトナムを離れて、6月にはカンボジアに移ったんですよね。大変ではありませんでしたか?
正直、最初は驚きました。こんな時期に本当に人事異動が出るのかって(笑)。でも、上司から「お前が必要だ。カンボジアに行って欲しい」と言われたら断れません。まずカンボジアへの入国準備をするため、6月頭に家族で日本に戻りました。成田空港に到着後、いつもなら15分くらいで空港を出られるのですが、この時は飛行機内で30分。その後、検査を挟んでかなりの時間、待機させられました。待機と言っても、別室で隔離されているわけではありません。通路のような場所に捨て置かれて、周囲を普通に人が往来しているわけです。「日本のコロナ対策が甘い」と言うのは聞かされていましたが、「こんなところに放置して、もし感染していたらとか、考えないのかな…」と不安になりました。
その後、公共交通機関を使ってはいけないと言うので、空港でレンタカーを借りて実家に帰りました。その2日後、検査結果がメールで通知され、全員陰性であることが判明。ただし、潜伏期間があるかもしれないから、念のため、2週間は自宅で隔離生活をしてほしいとのことでした。でも、ベトナムに比べると全然厳しくありません。保健所の係員から毎朝電話が来て「体調はどうですか?」と聞かれるだけ。後は、何の監視も制限もありません。正直、行こうと思えばどこにでも行けます(もちろん、行きませんが)。「こんなやり方で、本当に抑え込めると思ってるのかな…」と更に不安が募りました。

―その他、日本に滞在中に違和感を覚えたことはありますか。
日本のテレビの報じ方ですね。コロナ関連のニュースで取り上げるのは、もっぱら米国や欧州など感染が爆発している国ばかりです。利点を考えるのであれば、抑え込みに成功した国、たとえば、ベトナムのやり方などを取り上げればいいのに、何故か、それはやりません。感染拡大している国を見せて、「それに比べれば日本はまだましだ」と言いたいだけのような気がします。色々検索している中で、日本の外務省が海外渡航者向けに、ベトナムを感染症危険度レベル「3」に設定しているのを見た時は、本当に腹が立ちましたね。「日本の方がはるかに危険だろう」と思わず突っ込んでしまいました。

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6月中旬、カンボジアへの入国準備ができたので、渡航のため本社のある東京に移動したのですが、感染のリスクと言う意味ではこの時が一番怖かったですね。当時、日本は緊急事態宣言が解除され、交通量がもとに戻りかけていた時です。1日100人以上の感染者が出ていました。電車も多少空いているとはいえ、感染者がいれば温床となりかねないような密度の高い状況です。怖くて、手すりにも、吊皮にも触れませんでした。

―カンボジアには、無事に入国することができたのですか。
カンボジアは、平時であれば、とても入国しやすい国です。現地の空港で1500円くらい払ってアライバルビザを取得すれば、何の制限もなく入国・滞在できます。でも、コロナウイルスが流行してからは、逆にとても厳しい入国制限をかけるようになりました。僕も入国のために、VISAの他、以下の3つを用意するように言われました。

①防疫措置のためのデポジット自己負担(最低3000ドル)
②入国72時間前以内に行われたPCR検査に基づき作成された陰性証明書の提出
③保険額が5万米ドル以上の海外旅行保険の保険証書の提示

その航空便には僕の他に、何人か日本人がいたのですが、実は、僕以外の日本人はすべて、入国が認められず、日本に強制送還されてしまいました。なぜ、僕だけが入国を認められたのか? 理由は定かではありません。成田空港の出国時に他の方も書類を確認されており、僕も皆さんと同じ書類しか持っていませんでした。強いて、考えられるとしたら、「僕の顔が濃いから」ということでしょうか。前から全然日本人っぽくないと言われていたので。会社の同僚や親族も「現地の人と間違えたのでは」と言っています(笑)。

カンボジアの入国するのは、本当に大変でした。入国検査は書類の確認が複数回があり、念入りにチェックされます。その後、更にPCR検査が行われます。その結果が出るまで政府が用意したホテルに缶詰めになります。外出は許されません。これは、航空機の乗客全員です。幸い、この時の乗客はみな陰性だったため、翌日にはホテルを出ることができましたが、もし一人でも陽性者がでたら、全員2週間の隔離ということになります。でも、これぐらい徹底しないと、市中感染は防げないのだと思います。日本も抑え込もうと思ったら、これぐらいやるべきです。

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―コロナは、今後の世界に、どのような影響をもたらすと思いますか。
日本では「新しい日常」=New Normalと言われていますが、ベトナムもカンボジアも以前の普通の暮らしに戻っています。Newでも何でもない、ただのNormalです。確かに海外からの入国に関しては厳しく制限していますが、それを除けば、変わりありません。マスクをせずに市中を移動し、公園で沢山の人がみんなでスポーツをしていたり、夜のレストランは多くの人が食事をしたりしています。今、日本に限らず、世界中でリモートワークとか、ソーシャルディスタンスを奨励する動きが出てきていますが、僕は反対です。人が集い、群れる、というのは人間の営みです。人間は本質的にそういう生き物なので、「距離をとれ」と言うのは、自然の摂理を否定するようなことだと思います。一時的な措置ならいいですが、恒久的にコミュニケーションを制限したり、否定したりするのは無理があるような気がします。コロナを乗り越えて、もう一度、Normalを取り戻していってほしいですね。

―海外を経験した上で、日本のコロナ感染対策について、どう思いますか。
日本は「ここが瀬戸際」「ここが山場」「正念場」…そんな風に、ずっと“水際対策”が続いているような気がします。本当に事態を解決する気があるなら、その場しのぎのやり方ではなく、大局的に見た計画的なやり方が必要ではないでしょうか。たとえば、ベトナムやカンボジアがやったような政府主導の厳しい措置もその一つです。「ここまでに抑え込む」とリミットと目標定め、そこから逆算して「検査体制や経済活動の制限をどう組み立てればいいか」建設的な議論をした方がいいと思います。強権的なやり方に対して最初は反発もありますが、みんなが一枚岩になって、同じ方向を見て取り組まなければ感染症は抑え込めません。それなのに日本ではみんながみんな、あっちこっちにその都度、不平・不満をぶつけているだけで、そういうのを見ていると、本当に先行きが心配になります。政府も「この期間だけしっかり我慢して、それどコロナを抑え込もう。そうすれば、その後の生活が楽になる」そうやってアナウンスして、信頼を勝ち取っていってほしいと思います。(Yさん/海外勤務者)

コロナ前後で大きく世界は変わると思います。1年後、5年後、10年後、「あの時、何があったのか」をしっかり振り返ることができるように書き残していきたいと考えています。フォローしてもらえるとすごく嬉しいです。twitterもやっています。

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