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コロナ下のCMディレクターの苦悩【第38回マスクの向こう側】

<まえがき>一時、中断していたものの、徐々に再開しつつある撮影現場。様々な感染対策が施されていると聞きますが、企画や現場によっては、スムーズな撮影の妨げになっている場合もあるでしょう。今回はCMの撮影・編集などをメインに手掛ける制作会社の方にお話をお聞きしました。

●CMディレクターってどんなことするの
●撮影現場は「身体接触」NG。キスとか絶対ダメ!
●やっぱり減ったノミュニケーション

―自己紹介をお願いします。
地方で制作会社を経営しています。テレビCMの撮影・編集などに取り組んでいます。

―CMって、どういう風にして作られるんですか。
懇意にしている代理店のクリエイターがいて、そういう方から「今度こういうクライアントで、こういう企画で、CMを撮ろうと思っているんだけど」という話を頂くところからのスタートです。その後の段取りは、状況によって様々ですが、基本的なところで言うと、まず企画に合わせて撮影に必要なものを洗い出して、スケジュールや予算を組みます。了解を得たら、スタッフィング、ロケハン、撮影、編集という流れになります。クリエイティブな一面もありますが、予算や納期を管理したり、撮影許可を取ったり、エキストラを集めたり、実務的な面も多いですね。

―コロナの影響について教えてください。
緊急事態宣言が出た後、動いていた案件のほとんどがキャンセル・延期になりました。それまでに撮っていたものを編集することはできても、それをチェックするはずの肝心のクライアントが休業や営業短縮などに陥っているため、納品ができません。会社は半休業状態で、4月は半数交代でリモートワーク、5月は全員リモートワーク。会社に来ても掃除をするぐらいしかやることがなくて、後は家でNetflixを見て過ごしていました(笑)。その間もオフィスの家賃や従業員への給与の支払いはあるわけで、銀行残高が見るみるうちに目減りしていくのは怖かったですね。気づいたら、酒量も増えていて……GWになっても状況が落ち着かなかった時は、「もしかしたら潰れるかもしれない」と思いました。

―緊急事態宣言が明けた後は、仕事が戻ってきているのですか。
6月半ばくらいから、少しずつ仕事が戻ってくるようになりました。と言っても、新規の撮影は1本だけ。それ以外は撮影済みの素材を使って編集し直したり、写真やフリー素材を組み合わせてCGでそれっぽくしたり、音楽をつけたりetc.撮影の必要のない編集作業がメインです。7月段階の仕事量は、以前に比べると6割くらいという感じでしょうか。CMは減りましたが、その分、Webムービーの依頼が増えています。多分、感染対策のためイベントなどリアルプロモーションができない分、「その代わりにWebで…」というのが増えているのだと思います。

―コロナ前後で「ここが変わった」という部分があったら教えてください。
一番大きいのは、撮影現場ですね。広告協会や日本映画製作者連盟などの業界団体が出している感染対策ガイドラインがあるのですが、撮影の際には、それに沿って行うようにしています。このガイドラインには「セット撮影の場合、1度に入れるのは50人まで」「4平方メートルの中に1人」「出演者の身体的接触を避ける」など、かなり制限が設けられています。面白いところで言うと、以前は撮影現場でお菓子や差し入れを配ったり、ケータリングサービスを入れたりするのが業界的な慣習だったのですが、感染対策の一環としてNGになりました。今は「弁当・ペットボトルの飲み物」以外の食品は配っていけないことになっています。出演者さんは残念に感じるかもしれませんが、予算や段取りを考えないといけない僕らのような立場からすると、余計なお金や手間がかからない分、正直、この制限はありがたいですね。

―そんなに制限を受けて、撮影する上で、不都合はないのですか。
不都合ばっかりですよ。たとえば、“人数制限”で言うと、僕らは代理店のクリエイターから「こんな感じで撮りたい」と言う絵コンテをもらったら、それを「現場でどういう風に撮影するか」を考えて、演出コンテに落とし込んでいきます。「雑踏を撮る」という場合、これまでならエキストラを集めて、それを俯瞰で撮れば足りました。でも、今は人数制限のため人を出すことができないし、出したとしても密着させることができません。演出というより、撮り方を工夫せざるをえない状況です。クリエイターの方も、企画の段階でかなり制限されていると思います。
もう一つは“身体的接触”です。現場で撮影する際、出演者に指示を出さなければなりません。たとえば、「こっちからこう撮った方がキレイだな」と思ったとして、これまでなら「ここに立って、こっちを見て」という風に実際に出演者を誘導すれば、話は簡単でした。でも、今は身体接触が許されていないため、曖昧な指示しか出せません。「こっちに動いて、もうちょい、もう半歩!そんで、時計回りに10度、いや、逆逆、そう、そんでクルっと、顔はあっち、視線だけ」という感じです。なかなか指示が伝わらなくて、時間も余計にかかるし、お互いストレスを感じますね。

―撮影現場以外で、何か変わったことがあったら教えてください。
業界的な慣習もあるのかもしれませんが、以前は飲みに行く機会が多かったんですよね。多い時だと、週4回、それも1次会、2次会どころではなく、3次会、4次会、その後、女の子のいるお店など、夜遅くまで続いていたのですが、今回のコロナ騒動でそういうノミュニケーションは全部なくなりました。緊急事態宣言が出ていた自粛期間中はもちろん、宣言が解除された後も1回あっただけです。それだって、食事に行っただけで、2次会以降はありませんでした。少し寂しいし、物足りない気もしますが、コロナに伝染ったら仕事もできなくなるし、色んな人に迷惑がかかるし、しょうがないかなと思います。

―コロナを受けて、今後はどういう風になっていくと思いますか。
うーん。正直、全然分からないですね。早く終息して、仕事がもとに戻ってほしいとは思いますが、完全に元通りになってほしいかというと、そうでもなくて…。むしろ、働き方に関しては“今の状況の方がいい”という思いもあります。たとえば、リモートワークです。この世界は、たとえば、打ち合わせとかオーディションとか、顔と顔を会わせる場がたくさんあって、以前はそのために、ちょくちょく東京に足を運んでいました。それが、コロナになって、すべてリモートで賄われるようになりました。2月以降は一度も東京に出かけていません。その分、家族と過ごす時間も増えました。ワガママを言うようですが、そういうところはそのままでいいかなと思います。7月に入って、第二波が来ている状況ですから、油断はなりません。絶対に感染者を出さないように、今後はより気を引き締めていきたいですね。(Mさん/CMディレクター)

コロナ前後で大きく世界は変わると思います。1年後、5年後、10年後、「あの時、何があったのか」をしっかり振り返ることができるように書き残していきたいと考えています。フォローしてもらえるとすごく嬉しいです。twitterもやっています。

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