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<まえがき>第1回に続き、再び弁護士さんですが、取り組んでいる仕事内容は全く異なります。前回がスペシャリストなら、今回はジェネラリスト。民事から刑事、企業法務から交通事故まで幅広くこなす、いわゆる町弁です。コロナにどんな変化を感じているのでしょうか(舘澤史岳)

―どんなお仕事をされていますか。
企業法務を中心に、幅広く取り組んでいます。
首都圏近郊の地方都市で法律事務所の代表を務めています。主に取り組んでいるのは企業法務です。顧問契約を結ぶクライアントが法廷闘争などに煩わされることなく、ビジネスに集中できるように「どうやったら法的リスクを回避できるか」その環境作りや法律相談に取り組んでいます。その他にも交通事故、債務整理、不動産契約、知的財産保護など、専門にとらわれず幅広く取り扱っています。民事に限らず、年に数回は刑事事件も受けています。

―コロナ以前と比べて、どんな変化がありましたか。
休業補償・融資などの法律相談が増えています。
顧問契約を結んだ企業の法務相談がメインということもあり、4月以降はコロナ絡みの相談が増えています。たとえば、「オーナーに休業中の家賃を下げてもらうにはどうしたらいいか」。それとは逆に「テナントから減額請求がきた場合、どう対応すればいいか」、その他、補助金の申請、金融機関の融資要請など。コロナは業界・規模問わず広範な影響を及ぼし、ひどいところになると売上がゼロになっている企業もあります。地方経済に対する影響は、リーマンショック時より深刻というのが感想です。ニュースなどを見ていると、4月・5月に倒産している会社はもともと経営状態の悪い会社というイメージでしたが、今後、コロナの第二波・第三波が到来した場合、それまで何の問題もなかった会社も危なくなると思います。それに伴い、債務整理や破産手続きなどの依頼が増えてくるのではないかと懸念しています。

権利が回復されず、苦しんでいる人が大勢います。
緊急事態宣言が発令されて以降、裁判所は感染症対策の一環としてほとんどの期日を取り消しました。次回日程も「追って指定する」と言ったきりです。このため「離婚したいのに離婚できない」「養育費を支払ってもらいたいけど、払ってもらえない」など、困っている人が大勢います。これは裁判所さえ正常に機能すれば元通りになるわけではありません。たとえば、交通事故の場合、裁判を行う前にまず自賠責保険の認定を受け、それをもとに損害賠償請求を行います。しかし、今はその前提条件である認定にも遅れが出ています。また、裁判によらず、当事者同士の話し合いを無料でサポートしてくれる「交通事故紛争処理センター」等のADRもありますが、これらも現在稼働していません。交通事故被害に遭った方の被害回復は困難になっています。事案によっては裁判によらず、話し合いなどで解決することも可能ですが、中には、裁判によらなければ権利が回復できない場合もあります。「このままではいけない」ということで弁護士会としても、工夫して柔軟に対応するよう裁判所に申し立てを行っているところです。

―これから業界は、どう変わっていくと思いますか。
コスト削減・迅速化だけでなく感染症予防の見地からも、訴訟のIT化が進むでしょう。
近年、技術の進歩により、一般社会では紙ベースからデータベースへというIT化が進んでいます。しかし、日本の裁判所では、未だに書類と判子を求める書面主義が採用されています。諸外国の裁判も変わりつつある中、日本の法曹界だけが遅れをとってはまずいということで、最高裁がようやく重い腰を上げたのは2019年のことです。マイクロソフトの「Teams」という新たなツールの導入が決まり、試験的に争点整理等に使用され始めました。現在、コロナ騒ぎで裁判がストップしていますが、これを機にこういった裁判のIT化が加速するのではないかと思います。

根付きかけていた「裁判員裁判」への影響が懸念されます。
その一方、コロナは重大事件の際に行われる「裁判員裁判」に水をさす心配があります。裁判員裁判は、一定の重大事件について行われる、国民参加型の裁判です。これまでのように書面に書かれてあることを単に読み上げるのではなく、証人への質疑などリアルなやりとりを中心にした口頭主義に基づいて審理がなされ、評議・判決がくだされるのが特徴です。私も最近になって初めて裁判員裁判を経験しました。法律の専門家ではなく、一般の方々の感情に左右されるため、ともすれば厳罰化につながるのではないかと言う恐れもありましたが、そのようなことはなく、弁護士としてとてもいい経験をさせてもらえました。しかし、裁判員裁判はコロナ下の感染リスクでいえば、非常に危うい環境です。注目度の高さ故に傍聴席は常に一杯で、裁判も評議も話し合いを基礎とするため感染リスクも高くなります。実際、「密」な状況を避けるため、ここ2か月間は全く開催されていません。たとえ、緊急事態宣言が解除されたとしても、元通りというわけにはいかないでしょう。せっかく根付きかけていた制度なので、何らかの工夫をしていくべきではないかと思います。(Mさん/地方弁護士)

マスクの向こう側では取材対象者を募集しています。
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可能な限り取材いたします(オンライン・1時間程度)。
※対象者の氏名等、個人情報は基本匿名にします。
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masukunomukougawa-2020@yahoo.co.jp

将来、コロナを振り返る時、「一人ひとりが頑張っていた」と思えるように民俗記として書き残しています。適宜更新していますので、Twitterでフォローしていただけばスムーズです。


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