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【第25回】あの頃、一番”密”だったかもしれない場所、区役所で何が起こっていたか。

<まえがき>新型コロナウイルスの影響下では、給付金の申請に関わる手続きなど「役所」に関わるシーンが増えています。私たちの生活をより便利に、快適にするために幅広い役割を担ってくれている役所では、この数ヶ月どんなことが起きていたのか。都内区役所に勤務する方にお話を伺いました。

●1日1000人。区役所に行列!?
●「お役所は対応が遅い」なんて言わないで…。
●これからは「公務員」も変わるべき

―自己紹介をお願いします。
都内区役所の会計課に勤務しています。「区」が扱う現金や財産など収入・支出をすべて管理し、1年度間の会計をまとめたり、決算書を作ったりしています。言ってみれば、お金に関するすべての業務を行っている部署です。身近なところだと、区民センターの会議室や、スポーツ施設など紅葉施設の利用料金も私たちが管理しているんですよ。

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―この数ヶ月は、やはり大変でしたか。
そうですね。2~3月の頃は、公共施設の予約キャンセルが続くぐらいで、料金の払い戻しなどの業務が増えたなという感じでした。それが4月に緊急事態宣言が出て、同時に休業した飲食店などへの協力金の支給が決定して……そこから一変しましたね。協力金の直接の支払いは都が行うのですが、区に対しても問い合わせが急激に増えました。それに答えるため、様々な支援制度に関する相談会を実施することにしたのですが、今度はそれに向けて弁護士や税理士などの人員や会場に関する費用を工面しなければならず…。本当の意味での“目が回る忙しさ”を知ったような気がします。

―何か印象に残る出来事はありますか。
特別定額給付金の申請方法が発表された後、「対象条件を確認したい」「住民票を移動したい」など問い合わせがさらに増えました。連日1000人近く来庁し……朝、開庁前に道路に沿って、何重にも列ができていたのを見た時には、さすがに驚きましたね。覚悟はしていたものの、正直、心が折れそうになりました。にも関わらず、上からは「職場では交代で有給を取って“密”を避けるように」という指示が下りてきて、これには本当に腹が立ちました。「これだけ来庁者が溢れていて、密もなにもないだろう」という気持ちと「この忙しさに人を減らしてどうする!迅速対応って意味分かってる?」という憤り、そして自身の感染への恐怖が入り混じり、精神的にも大きく揺さぶられました。

―にも関わらず、「役所は対応が遅い」と責められてばかりで、辛いですね。
それでなくても、4~6月は会計課にとって、忙しい時期です。令和元年の締めと2年度の予算管理をする期間でもあり、さらに6月には決算もありますから。年に一番の繁忙期に特別定額給付金の申請・支払いが重なったわけですから、もう…ね、本当に何がなんだかわからなくなるほどの忙しさです。会計課は通常7名の体制なのですが、上の指示に従って「密」を避けるために6名で業務をこなさなければなりません。

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今は区内の世帯から申請された給付金を支払うための手続きに追われています。給付金自体は政府から出ますが、一時的に各自治体が代替えすることになっているため、その資金源を確保するための段取りも必要なんです。予備費である定期預金を崩して、各世帯へ振り込むだけなのですが、通常とは違う業務ですし、何万世帯もの家庭へ1円の狂いもなく正確に振り込むのは、正直かなり大変です。「お役所は対応が遅い…」なんて声を聞くたびに申し訳なくなりますが、どこの自治体もギリギリの状態だと思いますよ。

―どうすれば、もっとスムーズな対応ができるようになると思いますか。
当たり前のことですが区内には、年齢も生活環境も様々な住民が生活しています。たとえば、マイナンバーカードのパスワード変更で来庁するとして、説明を聞いて簡単に理解できる人もいれば「よく分からない」と困惑される方もいます。手続きすべてをオンライン化できればスムーズなのかもしれませんが、ITのインフラ環境も違えば、リテラシーも違うわけです。ひとくくりにはできません。私達にできることと言えば、公務員一人ひとりの意識を変えることではないかなと思います。


たとえば、業務の効率化です。レジュメやメールで事足りるにもかかわらず、これまでいかに会議などをして無駄な時間を費やしてきたか…。その事実に、上の世代の人達が気づいてくれたことは、このコロナ下での大きな収穫でした。今、一番に切望しているのは、仕事を部署内だけで完結するのではなく、忙しい時には垣根を超えてサポートしあうなど、柔軟な対応を導入してもらうこと。普通の企業では当たり前のことかもしれませんが、役所はなかなか変化がしづらい世界です。今すぐとはいかなくても、次の世代に向けて、少しずつでも変わっていければいいなと、同僚同士でもよく話しています。(Sさん/区役所・会計課職員)

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コロナ前後で大きく世界は変わると思います。1年後、5年後、10年後、「あの時、何があったのか」をしっかり振り返ることができるように書き残していきたいと考えています。フォローしてもらえるとすごく嬉しいです。twitterもやっています。

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