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<まえがき>4月の自粛期間中、銀歯が取れてしまったことがありました。気になって仕方ないので早急に取り付けてもらおうと、歯医者さんに電話したところ「予約がぎっしりで、2週間先まで埋まっている」とのこと…。あの時、どうして歯医者さんは混んでいたのか。今回は、歯科技工士の方に、その辺の理由も含めて、色々なお話をお聞きしました。

歯科治療はほぼコロナの影響を受けていません。でも、それ以前から問題だらけです。


―どんなお仕事をされていますか。
歯科治療に欠かせない「銀歯」などを一つひとつ手作りしています。
歯科医院から依頼を受けて、銀歯や白い歯(ガラス陶材・レジン)、入れ歯など「歯科技工物」と呼ばれるものを作っています。経験のある方は分かると思いますが、歯科技工物は少しズレたり、サイズが合わないだけでも大きな違和感を残します。それを防ぐためには、一人ひとりの歯の形・口の大きさに合わせて、0.01mm単位での加工が求められます。最近では、一台一千万円もするような最新鋭の機械を導入し、パソコンでデジタル設計・製作するところもあるようですが、私の場合はアナログです。銀歯の被せ物であれば、まず歯形をもとに歯の模型を作り、そこからいくつもの工程といくつもの機械を使って一つひとつ時間をかけて作ります。

―コロナ以前と比べて、どんな変化がありましたか。
不要不急の予防や審美治療を除けば、歯科治療はほぼ影響を受けていません。
作業中は基本的に一人でいることが多いため、感染リスクはほぼありません。できあがったものは、直接歯科医院に足を運んで納品するようにしています。新しい仕事があれば代わりに引き取って来るのですが、その量も以前とほぼ変わりません。立ち話程度で聞いた限りですが、歯科医院も来院するたびに検温したり、アルコール消毒を徹底したり、治療中はフェイスガードをつけたり、感染対策には力を入れているようですが、営業という点ではそれほど影響を受けているわけではなさそうです。ホワイトニングなど審美歯科は不要不急とされて取りやめになったものの、歯科治療は変わりなく行われています。むしろ、歯科医院によっては緊急事態宣言が出されていた自粛期間中も、「この際だから悪いところは治しておこう」と空いた時間で訪れる患者様で予約が埋まっていたところもあるようです。

コロナの余波で、玉突き事故のように正社員からフリーへ。
私事ですが、この4月にそれまで勤めていた技工所を独立して、フリーランスになりました。と言っても、この厳しい時期に自分から希望してそうなったわけではありません。以前から技工所の業績が奮わず、このまま私を社員として雇い続けて社会保障費や固定給を支払うことに限界を感じていたようです。そこに起こったのがコロナでした。「もうこれ以上は…」と説得され、やむなく申し出を受けました。今は職場に間借りして、機材を借りながら、自分の仕事をさせてもらっている状態です。職場環境や仕事内容は変わっていませんが、固定給が不安定な歩合給になるなど、待遇面で大きく変わってしまいました。コロナの直接的な影響とは言えませんが、ドミノ倒しのように連鎖していく、いい例だと思います。今後は、仕事を増やすなり、効率を上げるなりして、この状況を早く脱し、本当の意味で独立を果たしたいです。

―これから業界(世界)は、どう変わっていくと思いますか。
歯科業界は、コロナ以前から、大きな岐路に立たされています。
歯科技工士の間では「成り手不足」「長時間労働」「技術料の抑え込み」など様々な問題が取りざたされています。中でも、保険治療で使用する「歯科用金属の高騰」は歯科医院経営者を大いに悩ませています。歯科用金属には、パラジウムを含む金属がいくつか使用されるのですが、このパラジウムの相場が年々高騰しているのです。理由は諸説あり定かではありませんが、5年前には1箱30g2万円で買えたものが、今は7万円もするようになりました。プラチナや金よりも高いという異常な状況が何年も続いているわけです。金属が高騰するたびに、保険点数を上げざるを得ない国は、パラジウムに代わる他の材料や加工法を強力に推し進めるようになっています。しかし、新たな材料や加工法を導入するには、新たな機材を揃えなければなりません。高価な機材を誰もが揃えられるわけではありません。小規模の技工所は生き残っていくことすら難しいかもしれません。

機械化・効率化は避けられない…けれど、クオリティは負けたくない。
今、国の後押しを受け、期待を集めているのが、最新の歯科技術CAD/CAMです。一時期注目を集めていた3Dプリンターが、材料を宙に吹きつけ、徐々に形を作っていくのに対し、CAD/CAMはそれとは逆に材料から形を削り出していきます。「金属・レジンなど様々な材料に対応することができる」「歯科技工士の技術力の差を埋める」「工数がかからない」など多くのメリットが見込まれている一方、クオリティにこだわる歯科医にとっては、細かい部分でまだ問題も多いと言われています。一部では既に保険適用され、業界全体としては、少しずつデジタル化の方向に進んでいます。とは言え、今はまだ、アナログ手法での職人としての腕前に期待してくださっている歯科医院の先生方もいます。期待を裏切らないためにも、一つひとつ丁寧に製作していきたいです。(Sさん/歯科技工士)

マスクの向こう側では取材対象者を募集しています。
「コロナの影響でダメージを受けた」
「コロナをきっかけに、こんな変化が起こっている」
「業界としてこういう課題を抱えている」
職種にとらわれず、家事・育児等でも何でも構いません。
それぞれの現場の状況をお知らせください。
可能な限り取材いたします(オンライン・1時間程度)。
※対象者の氏名等、個人情報は基本匿名にします。
【連絡先】
masukunomukougawa-2020@yahoo.co.jp
コロナ前後で大きく世界は変わると思います。1年後、5年後、10年後、あの時、何があったのか」をしっかり振り返ることができるように書き残していきたいと考えています。フォローしてもらえるとすごく嬉しいです。twitterもやっています。

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