見出し画像

第16回「失ったんじゃない。余計なものがなくなったんだ」カメラマン

<まえがき>ソーシャルディスタンスが求められる世の中。被写体に接近して「密」な空間で撮影することを生業にしていたカメラマンにとっては死活問題です。心配して連絡を取ったところ、開口一番「売上7割減!」と言う割に、意外と元気でびっくり。今、不安な思いをお持ちの方にこそ、読んで欲しいお話です。

●仕事が減った分、〇〇と過ごす時間を大切に
●収入を確保するためカメラマン以外に始めた、意外な仕事
●カメラマンのスキルを使って療育施設でボランティア

―カメラマンって、どんなお仕事をしているんですか。
代理店経由の仕事が多いです。広告のスチール撮影をメインにやってます。カメラマンは撮影する対象によって専門が分かれますが、私は人物写真を撮影することが多いです。割と新しいもの好きで、7,8年くらい前から、動画撮影にも対応するため、機材を購入しました。以前はカリスマ美容師がカットする動画を撮って、教材用に編集したこともあります。3年前からは20万円くらいのドローンを買ってドローン撮影も始めました。ただ、色々と許可が必要で、なかなかそれ単体で仕事には使えません。プライベートで飛ばして楽しんでいる、というのが現状ですね。

―コロナ以前と比べて、どんな変化がありましたか。
多い時は1日1件依頼があり、その日撮影したものを家に戻って加工・編集する、という忙しい毎日を送っていたのですが、3月末を最後にパタリと仕事が途絶えました。既に決まっていた案件も「状況が状況なので」という理由で、ほとんど中止になりました。4月、5月の依頼は7割減です。リーマンショックの時もそうでしたが、じたばたしてもしょうがないので、神様からもらった束の間のお休みだと思って、家族と過ごす時間を大切にしています。朝起きたら、一緒に朝ごはんを食べて、公園に遊びに出かけて、昼ご飯を食べて、勉強を教えて、ゲームをして、夜ごはんを食べて、お風呂に入って、一緒に寝る。特別なことをしているわけではありません。たまに家の中でキャンプをしたりする程度。子供が今小学生なのですが、「ここまで一緒に時間を過ごせるのは、この先、二度とないかも」そう思って、楽しむようにしています。

―撮影に関しては、何か変化はありそうですか
モデルの撮影の場合、これまではモデルと自分、それからスタイリスト、アシスタント、クリエイターや営業や編集、マネージャーなど、スタジオ内に大勢で入って、撮影を行っていました。「密」な環境で、集中して、少しでもいい写真を撮っていたわけです。でも、これからはそうはいきませんよね。実際、4月の撮影案件では、「15分に一度換気」「スタッフは全員マスク着用」「一部屋に入るのは5人まで」などいくつも条件が課されました。緊急事態宣言は解除されましたが、コロナが終息したわけではありません。難しい状況が続きますが、今後とも自分はもちろん、被写体や周囲の人にも色々と気をつけながら取り組んでいきたいです。

―これから業界(世界)は、どう変わっていくと思いますか。
カメラマンの仕事だけで、この先も生きていけるのか…心配です。6月になって少しずつ依頼が入ってきましたが、しばらく元通りになるとは思えません。これからは副業・兼業当たり前。カメラマン以外にも、できることを増やさないと。「人は生きていく上で3つ仕事をした方がいい」と言う友人の助言に従い、この自粛期間中を利用して、株の勉強を始めました。景気が低迷して底値の株が多いため、未経験でも始めやすかったのもありますが、今のところ奮闘しています。もう一つは「害虫駆除」です。以前、家の周囲でヤスデが大発生した時、色々対策をしたのですが、その時の経験を活かして、やってみることにしました。既に殺虫剤や独餌や防護服などの道具一式は買い揃え、ホームページも立ち上げました。準備は万全。いつ依頼がきてもいい状態にしてあります。

―今後、力を入れていきたいことはありますか。
私には自閉症の息子がいて、通常の小学校とは別に療育施設に通っています。そこには、脳性マヒの方、ダウン症の方、色んな方がいます。ある時、そういう方が「家族写真を撮る機会がない…」とこぼしているのを耳にしました。通常なら七五三や誕生日などの節目に、スタジオを利用して写真を撮りますが、障害がある方にとってはハードルが高いそうです。そこで、療育施設でイベントがある時は、私がついでに家族写真を撮影してあげることにしました。療育施設は通い慣れた場所ですので、障害をお持ちの方も緊張することはありません。みんなが見守ってくれる温かい環境で撮影できるとあって、みんなにもとても喜んでもらえました。普段接している広告は虚構の世界です。いかに美しく取り上げても、実際は全然違うことも珍しくありません。中には、被写体を利用しているだけの広告もあります。もともとカメラが好きで始めた仕事ですが、ここ数年は「なんか違う…」と幻滅することも多かったのですが、療育施設の件があって「カメラマンってやっぱりいいなあ」と思いました。コロナ後は色々大変なこともあると思いますが、やっぱり、どんな形でもいいから、社会の役に立ちたいですね。


<今日のコロナ>余計なものがなくなれば、自分にとって本当に何が大切か見えてくるかもしれない。


マスクの向こう側では取材対象者を募集しています。
「コロナの影響でダメージを受けた」
「コロナをきっかけに、こんな変化が起こっている」
「業界としてこういう課題を抱えている」
職種にとらわれず、家事・育児等でも何でも構いません。
それぞれの現場の状況をお知らせください。
可能な限り取材いたします(オンライン・1時間程度)。
※対象者の氏名等、個人情報は基本匿名にします。
【連絡先】
masukunomukougawa-2020@yahoo.co.jp
コロナ前後で大きく世界は変わると思います。1年後、5年後、10年後、「あの時、何があったのか」をしっかり振り返ることができるように書き残していきたいと考えています。フォローしてもらえるとすごく嬉しいです。twitterもやっています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?