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ファレリ・アウレリアさん(60回優勝) インタビュー Vol.4−2

 前回に引き続き、ミュージカルオーディションショー・第60回スマッシュキャバレーで優勝したファレリ・アウレリアさんのインタビューをお届けする。

★前編はこちら(スマッシュキャバレー編4−1)


4 一度諦めた曲への再挑戦

 決勝の曲としてファレリさんが選んだのは、昨年、日本でも映画が公開されて話題になった『Dear Evan Hansen』の中から「Waving through a window」。自分に自信がなく、人と交流することが苦手な主人公のエヴァンが、不安や諦めなどの葛藤を抱えながら、自らの存在意義を問いつつ歌うナンバーだ。

「実は前にカラオケで1回歌ってみたことがあったんですけど、その時、“この曲難し過ぎ!”と思って諦めちゃって。でも、それは2〜3年位前で、その時はまだ独学だったので、今回は今までやってきたトレーニングとかを使って歌えるかなと。本当に好きな曲なので、歌の先生に習ったり、スマッシュ(キャバレー)に出た経験を使って、もう1回挑戦してみようかなと思いました」


5 エヴァン・ハンセンになるより、自分として考えました

 エヴァンは繊細な気質ゆえの弱さや脆さをもつキャラクターだ。しかし、今回のファレリさんの演技からは、ネガティヴな感情や戸惑いを抱えながらも、そのベースに「芯の強さ」を感じさせる点が非常に新鮮で印象的であったように思う。

「エヴェン・ハンセンはちょっとメンタルが不安定というところもあるじゃないですか。あれは私、実はそんなに理解できなくて。間違えた表現になってしまいそうで不安だったので、エヴァン・ハンセンになるより、自分として考えました。自分が最近感じている気持ちとか、悩みとか。歌詞を見たら共感したりしたので。
たとえば、私、(大学)3年生なんですけど、最近、就活をしていて、この間、最終の1個前の面接に進んで、もう本当に期待しちゃって・・・でも落とされて。そういう時の気持ちをちょっと思い出して、使えたらいいなと思いました」


6 対局的な2曲のベースに表れる自分らしさ

 自らの想像力を以てキャラクターを完成させることに醍醐味を見出した準決勝。そして、役のキャラクターに捉われ過ぎず、曲を自分に引き寄せることで説得力を持たせた決勝。
 魔法使いと現代の若者というある意味真逆のキャラクターの対比の妙もさることながら、今回、ファレリさんを優勝に導いた鍵は、全く趣の異なる2曲の中に、借り物ではない自分の感性をしっかり入れ込んで表現してみせたことではないだろうか。そして、前編の冒頭(4−1−1)で触れた本番に対する意識の変化によって、その表現力はさらに進化していく可能性を秘めているのかもしれない。


7 スマッシュキャバレーを通じた共演者との出会い

結果発表後、MCの守内宏輝さんと和やかに会話を交わすファレリさん。
 

 一方で、楽屋や終演後の客席などで共演者と笑顔で言葉を交わすなど、周囲の人たちとの交流も楽しんでいる様子だったファレリさん。スマッシュキャバレーを通じた出会いについても熱く語ってくださった。

「やっぱりミュージカルが好きな仲間にはスマッシュでしか出会えない。(在学中の)学校にはミュージカルコースがあるんですけど、授業も違うのでなかなか会えないし、それ以外の友達の中でもミュージカルが好きな人が少ないので、毎回スマッシュに出る時には友達を作る機会と思っていて、今日も楽しかったです」

 彼女にとってスマッシュキャバレーは、自分を表現する場であるだけでなく、自らと同じようにミュージカルを愛する人たちとの出会いの場でもあるのだ。


8 今後について

前回から変わらない、ミュージカルとデザインの両立への思い

 ミュージカル以外には、大学で勉強中のデザイン分野にも関心があるという彼女だが、前回のインタビューでも語ってくださったミュージカルとデザインの両立への思いは今も変わっていないようだ。

「デザインの仕事をやりながら、ミュージカルもやりたいです。田中良憲さん(※1)になれたらいいなとずっと思っていました。そういうバランスが大事ですよね。
私、最初はミュージカルの方が優先的だったんですけど、最近、デザインの人とも繋がり作るのがすごく好きで。デザインで活躍している社会人の方と会ったりして、“ちょっとこっちもやってみたいな”という気持ちも。
どちらかを選ぶより両方をやってみて、もし未来で、たとえばミュージカルの方に進んでいるということであればミュージカルをメインにしてもいいんじゃないかなと思います」

・註
(1)田中良憲(たなかりょうけん)さん:出演者および飛び入りのほか、常連客としてもスマッシュキャバレーに参加。コンサルタント業とミュージカルのパフォーマンスの両立を実現させている。

 今回のインタビューを通して、固定観念に縛られたり、無理に結論を出すのではなく、どんな時も自分の心に正直に進む彼女の生き方が垣間見えた気がした。そして、その生き方は、ナチュラルでありながら自分らしいエッセンスも織り交ぜた彼女のパフォーマンスにそのまま表れているように思う。
 今後、さらに進化したファレリさんのパフォーマンスが観られる日が待ち遠しい限りである。

(Tateko)

■プロフィール: ファレリ・アウレリア Valerie Aurelia

インドネシアのジャカルタ出身。小さい頃からディズニー作品が大好きで、高校生の時にミュージカルに出会った。2019年に国費留学生制度で来日し、日本語学校を卒業後、専門学校でイラストを学ぶ。現在は桜美林大学でデザインを専攻しながら、音楽の勉強もしている。母国にはミュージカルの舞台があまりなかったため、日本に来て初めてミュージカルを生で観劇し、さらに本格的な音楽学習を始めた。


文章・企画構成:Tateko
協力:SMASH CABARET 
https://smashcabaret.com/
   中目黒TRY

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