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(旧版)ウェイクアップ・クロノス Part1
◆おしらせ◆
本格連載に伴い、本記事をリライトしました。最新版はこちらです
[承前]
刻命部隊クロノソルジャー
第1話「ウェイクアップ・クロノス」
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どうして、こうなったんだっけな。
──そんな思いと共に始まった走馬燈を、俺は頭を振って掻き消した。
周囲は火の海、背中には瓦礫(特大)。あとたぶん、鉄骨かなんかが腹に刺さってやがる。そしてなにより、猛烈に眠い。いや、いかん。意識を保て鳥居夏彦(トリイ・ナツヒコ)。まずは目の前の高校生を助けねば。
込み上げてきた血を吐きだすと、俺は眼前でアルマジロみたいになっているそいつに声を投げた。
「よぉ、ボウズ。無事か」
「え、は、はい!」
「妹は?」
「こ、ここに居ます」
高校生は答えながら顔をあげた。栗色の癖毛が特徴的な、なんか女みたいな奴だ。そんな彼の懐からぴょこんと顔を出したのは、涙目の少女だった。
「にいに、だいじょぶ?」
「あ……大丈夫だよ、ユーリ。危ないからそこに居て」
ユーリと呼ばれた少女は、俺の顔を見てギョッとしていた。まだ小学1年生くらいだろうか。泣きそうだが、しっかりと我慢している。できた子だ。それに兄のほうも、咄嗟に彼女を抱えて丸まるなんざ、顔に似合わず大した男気だ。……なんか元気出てきたぜ。
「よし、二人とも無事だな。とにかく、脱出すんぞ」
俺はニカリと笑いかけ、内心で策を練る。今だ崩落は続いていて、背中の瓦礫(特大)は徐々に重みを増している。限界が近い。まずは二人を退避させて──
「え、まだ生きてんの、クロノレッドぉ?」
そんな思案を遮ったのは、この場に似つかわしくない軽薄な声。俺は廊下の向こうにいる声の主を──刻王の腹心リューズを、睨みつける。
「すごい生命力だよねぇ。ゴキブリの親戚?」
降り注ぐ瓦礫の雨など意に介さず、リューズは手にしたステッキをクルクルと回しながらこちらへと歩いてくる。
正直マズい。瓦礫(特大)にやられるが先か、リューズにやられるが先か? ちゅーかそもそもリューズへの対抗策も……
「……仕方ねぇ」
俺はそこで、考えるのをやめた。
ひとりでも多く助ける。それが信条。そのためなら……なんだってやるさ。
「おい、ボウズ」
「はっ、はい!?」
近付いてくる異形を見て悲鳴をあげた少年に、俺は声を投げる。
「いいか、よく聞け。あいつの名前はリューズ。俺たち人類の敵、10年前から続く常夜の張本人、その内の一体だ」
「え? え?」
「俺は、いや、俺たちはあいつらを倒さなきゃならねぇ。だからここで終わるわけにはいかねぇ。わかるな?」
目を白黒させている少年に俺は捲し立て、手首のクロノスバンドを外して、投げ寄越した。
──大丈夫。こいつなら、大丈夫だ。
自分に言い聞かせながら、言葉を続ける。
「だからそれ持って、妹と逃げろ。それがありゃ逃げられる」
「えっ!? お、おじさんは!?」
瞠目した少年の向こうから、余裕の足取りのリューズが迫る。時間がない。
「いいから早くしろ! 死にてぇのか!」
「わッ!?」
俺は力を振り絞り、少年を蹴り飛ばす。兄妹は揃って、リューズの進行方向から外れた位置に転がった。
俺は背負っていた瓦礫(特大)を死ぬ気で降ろし、リューズが兄妹のほうにいかないよう道を塞……あ、腹からなんか抜けたな。やっぱ刺さってやがったか。
「お、おじさん! ちょっと!?」
瓦礫の向こうの少年の声を聞きながら、俺は込み上げてきた血を吐きだして、声を投げる。
「いいか、頼んだぞ、少年。俺は鳥居夏彦。お前を巻き込んで、お前の運命を捻じ曲げた男だ。俺のことを恨んでくれて良い。だから……生きろ。生きてくれ」
半ばうわ言めいて言葉を吐きながら、俺はリューズを睨みつける。血の気の失せた身体を強いて、両の拳を構えて──その時すでに、眼前にリューズのステッキが迫っていた。
「わりぃな、少年」
我ながら──笑っちまうほど、あっけない最期だな。
「……今日から、お前がレッドだ」
その言葉が伝わったか、俺にはわからない。
骨がひしゃげ、脳が潰れ、身体の感覚がなくなって。
「おじさん!!!」
──少年の声を聞きながら、鳥居夏彦の物語は終わりを告げた。
(つづく/1598文字)
▼作者註▼
逆噴射小説大賞の800文字の練習のつもりで書き始めたのだけど、筆が乗ったのと鳥居サンの死に様まではしっかり描きたいなぁという欲が出てしまった結果、2逆噴射になりました。まぁそんなこともあるよね。
なにはともあれクロノソルジャー、不定期に続きます。おたのしみに。
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