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神器戦士ミツマナコ 『龍咫ノ鏡』の巻 後編

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【これまでのあらすじ】

一つ目。
 ユグドとセンブは、ドブ川に成り果ててしまった《清流湛えし尊き大河》の調査のために《青龍の村》にやってきた。
二つ目。
 ドブ川のゴミで形成されたバケモノに襲われた二人を、青龍の村の守人の少年、ハルが救助した。
三つ目。
 ユグドは、《青龍の村》にもはや人がおらず、全てバケモノが化けたものであることを看破した。

 犯人ハルが黒い怪人へと姿を変え、そしてユグドもまた金色三眼の戦士へと変身する。戦いが、はじまる!


神器戦士ミツマナコ
『龍咫ノ鏡』ノ巻 後編


「俺の名はミツマナコ。神器の戦士、ミツマナコだ!」

「神器……!?」

 その言葉に反応して、ハル=黒き怪人は、手にした大鏡を握りしめた。

「そう、その鏡だ。俺らはそれに用がある」

 轟々と渦巻く光の中、ユグド=ミツマナコは言い放つ。その後ろでは、変身の余波で吹き飛んだ怪人たちが、ゴミだけを残して消滅していった。

「奪われた神器、《龍咫ノ鏡》。テメーが持ってやがったのか」

「ッ……なぜその名を」

「るせぇ! ったく見事に悪用しやがって。川の異様な臭いも化け物どももここいらの失踪事件も、全部テメーの仕業だな?」

「っ……だったら、どうした!」

「決まってらぁ」

 身の丈ほどもある巨大なマサカリ──相棒・センブが変身した"神器"を肩に担ぎ、ミツマナコは威圧的に言い放った。

「選べ。そいつを今すぐ渡すか、ここで俺にボッコボコにされるか」

「う、うるさい! お前たち! そいつを捕えろ!」

 黒き怪人が叫ぶ。その手の大鏡から大量のヘドロが吹き出して、ミツマナコへと押し寄せる。

「おーおーそうかい、ボコボコがお望みね!」

 ヘドロの奔流を前に、ミツマナコは余裕の様子で小首を傾げ、マサカリを振り上げて。

「だラァっ!」

 ヘドロの奔流を、バッサリと切り裂いた。

 V字にわかたれたそれは周囲の家屋を吹き飛ばし、薙ぎ倒し、飲み込む。

「なッ!?」

「っしゃ行くぞオラァッ!」

 ミツマナコは黒き怪人へと急激に間合いを詰める。大地を割らんばかりの踏み込みから、胴を狙った横薙ぎの一撃。黒き怪人はのけぞって回避。更に、返す刃での斬り上げをバク宙回避する。

「ッ……!」

「避けてんじゃ、ねぇ!」

 しかしミツマナコの勢いは止まらない。攻撃の勢いを殺すことなく縦横無尽にマサカリを振るい、竜巻の如く黒き怪人に襲い掛かる。

「オラオラオラどしたクソガキィッ」

「このっ!」

 ミツマナコの連撃に身を裂かれながらも、黒き怪人の手元で鏡がギラリと光った。直後、周囲の水が盛り上がり、大量のゴミ怪人が出現する。動物や人の骨を頭にかぶった、全身がゴミでできた怪人だ。

「お?」「いけッ!」

 木や石や骨で形成された武器を手に、怪人たちがミツマナコに飛びかかる。数の不利を察したミツマナコは攻勢を止め、飛び下がりながらマサカリを振るう。

「しゃらくせェ!」

 上下真っ二つになるゴミ怪人たち。しかし、それらはすぐに再生して得物を振り下ろしてくる。ミツマナコはマサカリの柄や籠手で攻撃を受けるが、数が多い。

「チッ……鬱陶しい! センブ、まとめて吹っ飛ばすぞ!」

『ウム』

 ミツマナコはその場で旋回して周囲のゴミ怪人を一掃すると、群れの中心に着地した。同時に、担ぐようにマサカリを構え、叫ぶ。

「神器、解放!」

 斧が金色の光を帯びる。それは瞬く間にミツマナコの全身に広がる。神通力。神器の戦士が用いる、超常の力である。

 ミツマナコはその場で一回転。同時に、センブが厳かに祝詞を唱えた。

『トルネド・バースト・シナツヒコ』

 回転の勢いを乗せ、マサカリが唸る。神通力を宿した金色の暴風がミツマナコを中心に唸り、ゴミ怪人を、足元にわだかまるヘドロを、周囲の木々を薙ぎ倒す。

「──ッッラァッ!」

 瞬殺。

 森の中に形成された巨大な円形の広場の中心で、ミツマナコは残心した。ゴミ怪人たちが派手な水音を残して消滅するのを見て、黒き怪人は後ずさる。

「くっ……」

「次はテメーの番だぞ、クソガキ」

 ミツマナコが言い放ったのと、ほぼ同時に。

 黒き怪人は踵を返して駆け出した。

「あっ!? 待ちやがれ!」

 ミツマナコは木々に足を取られつつ後を追う。

 怪人は周囲の木々を蹴り渡り、村横の川へと逃げてゆく。いつしかその川は、ユグドたちが来たときと同様のヘドロに戻っていた。

 水面がゴボリと泡立ち、骨とゴミでできた怪人が無数に陸に這い上がる。動物の骨や人の骨が入り混じったそれは、黒き怪人を守るようにミツマナコの前に立ちはだかった。

「ああもうまた増えやがった! 邪魔だ!」

 ミツマナコの声を聴きながら、黒き怪人はヘドロの川へと飛び込んだ。

 黒き怪人。龍咫ノ鏡によって青龍の加護を受けたその身は、水中でこそ真価を発揮する。

「とにかく……逃げるしか!」

 飛び込みと同時に、黒き怪人は飛ぶような速度で遡上をはじめた。

「うおっ!? はええな!?」

 ──そこらの野生動物よりも速い。全速力の馬でも追いつけない速度。周囲のゴミ怪人も邪魔だ。森の木も。アレに追いつくためには──

 そこまで考えて、ミツマナコは相棒に声を投げた。

「よし。センブ、任せた」『む?』

 疑問の声をあげるマサカリを、ミツマナコは振りかぶって。

「ふんぬっ──」

 身体を全力で捻って。

『お前まさか』

「──ォォオラァッ!」

 投げた。

 森を揺らさんばかりの、猛烈な回転音。高速回転するマサカリは、経路上の枝を樹を岩をゴミ怪人を真っ二つにしながら川の上を飛翔する。

 風の神通力の残滓を元手に、意志持つ斧は超加速。黒き怪人の速力に追いすがる。

「なっ!?」

 黒き怪人が殺気に振り返ったとき、すでマサカリは眼前に迫っていた。

 怪人の手元で、鏡が脈打つ。

 黒き怪人はそれに導かれるように、鏡を盾にした。金属音が森を揺らす。怪人の全身を衝撃が襲った。その手元で、大鏡にヒビが入った。

「うガッ……」

 怪人は打ち上げられ、2度、3度とバウンドした後、近場の大岩にめり込んで動きを止める。反動で宙を舞ったマサカリは、空中で人型へと戻った。

『……受け止められた。硬いな』

 センブは言いながら、ズシンと着地する。後を追ってきたミツマナコを振り返ると、彼は口を開いた。

『ユグド。水に落ちたらどうするつもりだ』

「落ちなかったから良いだろ」

 適当にそう答え、ミツマナコは黒き怪人へと歩み寄る。

 その全身を覆う黒い鱗はパラパラと崩れ始め、面の右半分が割れて素顔が覗いている。傍から見ても、そいつは満身創痍に見えた。

「おいガキ。もう一度言うぞ。その鏡をよこせ。悪いようにはしねぇ」

「っ……い、嫌だ!」

 怯えながら、それでもハルは言い返す。

「この力は……この鏡は……離さない……!」

 少年は鏡を抱いて離さない。ミツマナコはその目を見据える。虚ろな瞳。そこに浮かぶは、強い憎悪の火。憎悪……ミツマナコへの? 否、これは──

「確かに僕じゃ、あなたには勝てない。けど……」

 ミツマナコの試案を遮って、黒き怪人は口を開いた。

「……それでも、青龍様の贄にはなってもらう!」

『! ユグド、危ない!』

「のわっ!?」

 センブがミツマナコに体当たりした。両者の頭上、一瞬前まで首があった位置を、水の刃が通過した。超高圧の水流による斬撃だ。

「な、なんだァ?」

 大岩が崩れ落ちた。水面が大きく盛り上がり、”それ”は姿を表した。

「青龍様。連れてきました──今日の贄です!」

 黒き怪人が叫ぶ中、川から出た“それ”は大きくアギトを開き、ミツマナコに向かって立て続けに水弾を放った。ミツマナコはそれを跳躍回避し、敵を睨みつける。

「青龍だァ……?」

 青龍。この地と河を守る、龍神─。

 黒い鱗、爬虫類めいた瞳。チロチロと出入りする舌──

「…………いや蛇じゃねーか、これ」

 然り。それは、角の生えた漆黒の蛇だった。

 その長さは、水面から出ている部分だけでもミツマナコの4倍はあるか。太さはそこらの大樹よりも太い。そして全身から立ち上る、邪悪なる黒き霧。

 ミツマナコのツッコミに、黒き怪人は言い返す。

「うるさい。これが青龍様だ。僕らの村の、守り神だ!」

[強キ、餌……贄ノ匂イ……]

 ハルに続くは大蛇の声。魂に直接響くようなおぞましき声音を聞いて、センブが珍しく表情を変えた。不快そうに。

「……この気配。魔神か」

 魔神。人々の上に、恐怖と害意を以て君臨する神。ヘドロの川の元凶はこの魔神と見て間違いない。

「おいセンブ」「ああ」

 センブの身体が再び発光し、マサカリへと姿を変える。飛び来たそれをキャッチしながら、ミツマナコは辺りを見回した。

 ヘドロのせいで気付かなかったが、これまで戦っていた川よりも幾分か幅のある場所だった。どうやら泉らしい。ゴミと腐乱死体と巨大な蛇が浮かぶ、死の泉。

「……あのガキ、ここに誘い込みやがったか」

『短絡的に追いかけるからだ……』

 センブの言葉を聞き流しつつ、ミツマナコは得物を構え直した。と──

[贄ェェァエエェェ!]

「っとぉっ!?」

 大蛇の突進。大柄な体格にそぐわぬ速力に驚きながらも、ミツマナコはそれを跳躍回避する。

「あっぶねぇ……なっ!」

 地面を削りながら通過する大蛇を睨みつけ、ミツマナコは空中で一回転。その勢いを乗せてマサカリの一撃が、大蛇の身体に叩き込まれる……が。

「ッ……!?」

 ギンッと金属音が響く。岩をも斬り裂くその斧は、大蛇の鱗に弾かれた。

「硬って……ってうおあっ!?」

 直後、ミツマナコが吹っ飛んだ。大蛇が振るった尾による一撃。キリモミ回転しながら、ミツマナコの身体は木々を薙ぎ倒し、巨木に激突して動きを止めた。

[餌ヲォォォォ]

 磔となったミツマナコに向かい、大蛇は追撃の水弾を連発する。

「痛ってぇなこの……」

 ミツマナコは背後の巨木を蹴って跳躍、水弾を躱す。大蛇はさらに、水弾を連続射出。空中のミツマナコに容赦なく叩き込む。

「クソ蛇ィッ!」

 空中で身を捻り、ミツマナコはマサカリを振るう。飛びきた水弾を切り裂き、弾き飛ばし、霧散せしめる。

 ヘドロの飛沫が、ミツマナコの3つの目を眩ませ──刹那。

[贄ェッ]

「っ!?」

 眼前に、大蛇のアギトが迫っていた。

 大蛇が顎を閉じる寸前、ミツマナコは咄嗟にマサカリを縦に構えた。ガギッと鈍い音。ミツマナコは、喰われる寸前で踏みとどまる。

「ぬぐぐ……センブ! 折れんじゃねーぞ!」

『うぐ……っ!? ユグド! 後ろだ!』

「!?」

 相棒の声にミツマナコが振り向く。その3つの瞳に映ったのは、黒き怪人の姿だった。

「大人しく、食われろ!」

 その鏡が、ギラリと輝いた。噴き出したヘドロが、ミツマナコにクリーンヒットする。

「がっ……くそっ、ガキ……!」

『ユグド!』

 押し寄せる水流に、抗う間もあればこそ。

 ミツマナコの手が、マサカリから離れた。

「くっ……そが……!」

[餌ヲアアアアア!!!]

「そうです青龍様! 餌です! これまでで一番、強い餌です! これで──」

 ミツマナコの身体が、ヘドロの奔流ごと大蛇の喉へと流し込まれた。

「──これで僕を、自由にしてください」

 ミツマナコが最後に耳にしたのは、黒き怪人のそんな言葉だった。

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 ──2ヶ月前、聖域で。

「お前は15歳を迎える今日、選ばれたのだ。この地の守人に」

 神主様から授けられた大きな鏡を手に、ハルは首を傾げた。

「ぼ、僕が、守人? でも僕は、畑仕事も下手だし、力もないし、喧嘩も強くないです」

「そんなことはヒトの都合だよ、ハル。青龍様には関係ない」

「で、でも……僕なんかよりもふさわしい人が……そう、例えば村長さんちのゴンとか、丸太屋のハナビとかのほうが──」

「何度も同じことを言わせるな、面倒だな……」

 捲し立てるハルを見て、神主様は不快そうに顔をしかめ、ため息をついた。

 その様子を見て、ハルは思わず言葉を引っ込める。あまりに急に雰囲気が変わった。いつもの神主様ではないような──

(あれ、“いつもの”? いつもの神主様って、どんな人だっけ?)

 ふと引っ掛かりを覚え、ハルは眉をひそめる。その手元で、大鏡が脈打った。

(ここは、どこだっけ。聖域? 聖域ってなに? この人は……神主様。神主様? 神主様なんてこの村にはいない。村。そうだ、村だ。僕の村はどうなって──)

「これは決定事項だ、ハル。お前はその鏡で青龍の力を抑え込み、ここら一帯の神力の柱となる。他の連中が揃うまで、そうだな……ざっと十年と言ったところか」

 大鏡の脈動は止まらない。ハルは手を離そうとした。しかし、吸い付いたように離れなかった。

「それがお前のお役目。ゴンだかハナビだか知らんが、もはやお前にしかできないんだよハル。なにせ──」

 言い放つ神主の瞳は、どす黒く濁っていた。

「青龍に選ばれたのは、お前だけなのだから」

 その時、ハルは見た。神主の足元、わだかまるヘドロから突き出た人の腕、足、顔。ひとり分ではない。不特定多数の死骸が、ヘドロに沈み、呑まれてゆく。

 ハルが悲鳴を上げかけた、その時。

 鏡面から飛び出した“なにか”が、ハルの視界を覆い尽くした。

「がッ!?」

 それは無数の黒い蛇。濁流の如くハルの全身を呑み込んで、“聖域”の泉へと飛び込んでいく。身体が、意識が、魂が、溶けていくような不快感。

「ああそうだ。自由になる術を教えてやろう。贄を捧げることだ。強い人間であるほど良い。はは。俺は親切だろう?」

 泉から、巨大な影が身をもたげる。輝きを放つ、水色の身体。それは苦しみ悶え、黒く変質し、崩れ落ちてゆく。

「贄はここの村人だけじゃ全く足りん。旅人も食わせろ。それらしい噂は流しておく」

 溶けかけた意識の中、ハルはその正体を理解した。

「せい、りゅう、さ──」

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 ミツマナコを呑み込んだ大蛇は、口の中に残ったマサカリを吐き出した。大地に突き立つマサカリを目で追って、黒き怪人は変身を解く。

[オオ……贄……強キ……]

「せ、青龍様! どうですか、力は戻りますか?」

[…………]

「か、神の器を持つ者ですよ? 強き贄です! どうか、どうか元の姿に……」

 そんな呼びかけに、大蛇は身を震わすのみ。ハルは手にした鏡に視線を落とした。足りないのか。幾多の旅人を呑み込んでも、尚──

『なるほど。"中"にいる龍神を目覚めさせたいのか』

 ハルの思案を遮ったのは、地に突き刺さったマサカリ・センブの声だった。

「っ……な、なんだよ。ユグドさんの復讐でもする気か!?」

『いや。今ヒトの姿になると、頭が地面に刺さったままになる』

 センブは真面目な声音でそう言うと、言葉を続けた。

『それに、復讐をするのは俺ではない。ユグドだ』

「え?」

 ハルが首を傾げた、直後。

[ア……アアア……]

 大蛇が唸って。

[オオオ……アアアアアア!?]

 その腹から、手刀が飛び出してきた。

「あーーくっせぇぇ!」

 それはミツマナコの両腕だ。大蛇の腹を十字に斬り裂いて、血とヘドロにまみれたそいつは、怒鳴りながら飛び出してハルに詰め寄った。

「てめこらクソガキ! 流すならせめて真水で流しやがれ!」

「ひぃっ!?」

[アアアアア!!!?]

 突然の事態にハルが悲鳴をあげ、大蛇が激痛に暴れ回る。ミツマナコはそのままハルの側を通過し、地に突き刺さったマサカリを回収した。

「あーくそ。水浴びしてェ……」

『ヘドロの水ならそこらにあるが』

「っるせぇ。さっさとやるぞ……おいクソガキ。こっちを見ろ」

 手にしたマサカリを担ぐように構え、ミツマナコは振り返る。その3つの瞳が妖しく輝いて、ハルは吸い寄せられるようにそちらを見た。

「ひ、あ、は、はい……あ……あれ……?」

 戸惑うハルはしかし、ミツマナコの目を見たときから大人しくなっていく。大蛇の暴れる音が響く中、ミツマナコは淡々と問いかける。

「お前はあの蛇を元の姿……龍かなんかに戻したい。そうだな?」

「そうです」

「そのために生贄を捧げてたと」

「はい」

 ミツマナコのぶっきらぼうな問いかけに、ハルは淡々と答えていく。3つの瞳が輝いている。それはミツマナコの──否、ユグドの神通力。敵を惑わす瞳術が、神器を通して増幅されているのだ。

「これまでの生贄は」

「最初は村のみんな、そのあとは3人組の旅団と、あとはひとり旅の剣士」

「お前をそそのかしたのは、誰だ?」

「う……え……っと……」

 すらすらと返事をしていたハルが、止まる。ミツマナコは大蛇を一瞥した。腹を裂かれたそいつは、いまもまだ呻いている。

「か、神主……です」

「神主? この村の?」

「いえ。余所者、の、はず……? でも神主様は神主様で……」

 瞳術を以てなお要領を得ないこの言葉を聞いて、ミツマナコは得心したように頷いた。

「よし。大体わかった。……お目覚めか」

[オノレエエエエ!!]

 ミツマナコの後ろで大蛇が起き上がった。そいつは怨嗟の声をあげながら、出鱈目に水弾を放つ。ミツマナコはその場で振り返りざまにマサカリを振るい、それらを霧散せしめた。

 視線が逸れ、瞳術が解ける。正気に戻ったハルに向かい、ミツマナコは声を投げた。

「クソガキ。神器使いの先達として、いくつか教えてやる」

「え?」

 ハルが首を傾げた時、大蛇が震えた。先刻ミツマナコが空けた腹の穴から無数の蛇が生え出で、絡み合い、育ってゆく。それはもごもごと蠢いて、新たなる蛇の頭へと姿を変えた。

[[強キ贄……器……ドチラモ我ガ糧二点……!]]

 双頭の龍が唸る。ミツマナコはマサカリを手に、力強く地を蹴った。

「まず覚えとけ。人を喰って増長するのは魔神だけだ」

「えっ?」

「つまり青龍は生贄じゃ戻らねぇ」

「だ、だって神主が──」

「体よく使われたってこった……な!」

 時間差で襲い来た二つの蛇頭を、ミツマナコは軽々と跳躍回避。更に追ってくる頭に、マサカリを叩きつけた。金属音が響き、双頭はそれぞれ吹っ飛ばされる。

「チッ……ぶった切るつもりで振ったんだが。硬てぇな」

 着地するミツマナコに向かい、今度は蛇の尾が迫る。ミツマナコはそれを、マサカリで地面を突いた反動で跳躍、回避した。次。双頭がそれぞれ水弾を放つ。ミツマナコはマサカリを繰り、それらすべてを斬り裂いてみせる。

「す、すごい……!」

「おい。お前の望みはなんだ?」

「え……だから、青龍様の解放を……」

「それじゃねぇ。その先だ」

 会話するミツマナコに向かい、大蛇は威嚇するように鳴くと、今度は水の刃を放つ。ミツマナコはそれを、斧の刃面で往なしてみせた。そして、いつの間にか拾っていた石を投げ放つ。

 それは、狙い違わず両方の大蛇の目に突き刺さった。

[アアアアオオオオアアア!?!?]

「人を生贄にしてまで、頼みたい願いがあんだろ。そいつァなんだ?」

「ッ……それは……」

 ハルが迷うように視線を揺らすのを、ミツマナコはただ眺めていた。瞳術で聞きだしても、意味がない。これはハル自身が決めなければ。

 その間にも大蛇の攻撃が二人を襲うが、ミツマナコはそれをあっさりと往なし、流し、逸らす。

[クソオオアアア!!]

 怒れる大蛇が水弾を放つ。神器の持ち主であるはずのハルすらも巻き添えにするほどの一撃。ミツマナコはハルの襟首を掴んで跳び逃れた。

「危ねーな。持ち主だろうとお構いなしかよ」

「あ……」

 ハルはそこでようやく気付いた。ミツマナコが大蛇の攻撃の巻き添えにならぬよう、彼を守っていることに。

 着地と同時に、大蛇の尾が2人を襲う。ミツマナコはハルを放り投げると、敵の一撃に合わせマサカリを叩きつける。

 ギャリギャリと耳障りな音がして、とうとうその尾が斬り飛ばされた。

[[!!? ワ、我ガ尾ガ!!?]]

「恨み、妬み、嫉み……願いが後ろめたいものであるほど、人に話すのは気が引けるもんだ。そうだろ?」

 言いながら、ミツマナコは姿勢が崩れた大蛇の身体に回し蹴りを叩き込む。

[[ゴォアッ!?]]

 大蛇は数メートル吹き飛ばされ、無様に大地を転がった。

「だからこそ、俺たちは神に祈る。そんでその依代が──祈りの受け皿が、神器。神の器だ」

「神の、器……」

 ハルは、手にした鏡を握りしめた。神の器。青龍の力を借りる、龍咫ノ鏡。

[[ク、クソガ……タダノ器ト……贄風情ガ……!]]

「さっきからうるせーんだよ腹ペコ芋虫。こちとらおめーの持ち主と話し中だ黙ってろ」

[[ッ……オノレエエエエ!!]]

 双頭が口内に神通力を集結させる。高圧縮された水の刃が、来る。

「俺は神器の戦士、ミツマナコ。神々の糧たる人の願い、それを聞き、蓄え、届けるための器だ」

 ミツマナコはマサカリを構える。その瞳が力強く輝き、全身を神通力が駆け巡る。

「だから、祈れ。でけー声で、てめーの祈りを、叫べ!」

「っ……でも──」

「おら時間ねぇぞ!」

[[死ネエエアアアア!]]

 大蛇の双頭から、水の刃が放たれる。

「ぼ、僕は……僕の、願いは」

 ミツマナコのマサカリが金色の光を帯びる。

「叫べ、ハル!」

「む、村をめちゃくちゃにした神主に、復讐をしたい……その力が、自由が、ほしい!」

 二筋の水刃がミツマナコを斬り裂く、寸前。

 ハルの祈りが、ミツマナコに宿った。

『サンガン・スラッシュ・ミツマナコ』

 マサカリの祝詞が厳かに響く。同時に、二筋の水刃が霧散した。

[[!!?]]

「てめーの願い、このミツマナコが見届ける!」

 同時にミツマナコは跳躍。

 神速の斬撃が、煌めく。

[[バッ……ガバッ……!?]]

 三連続の縦斬撃が、二つの首を撥ね飛ばし、胴を両断した。

「──水神・青龍に畏み申す!」

 大蛇の身体が、崩れゆく。

 黒き塵と混じって流れゆく水色に輝きに向かって、ミツマナコは叫んだ。

「てめーの村の弔いを望む者がいる。ンなとこで寝てねーで、力を貸せ!」

 ミツマナコの言葉に呼応して、ハルの手元で大鏡が輝きだして──

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「おいハル! ちゃんと防げバカ!」

「無茶言わないでください! 四方八方から飛んでくるんですよ!?」

「ム? なんか明るくなったな」

「おめーが燃えてんだよセンブ!」

 降り注ぐ火矢の下、喚きながら走り続ける一行がいた。

 ひとり目は額に瞳を持つ黒づくめの男、ユグド。ふたり目は、ゴツい白装束の男、センブ。三人目は大鏡を持った少年、ハル。そして──

『ああもううるっさい! ハル、さっさとセンブに鏡向ける!』

「す、すみません!」

 大鏡から、女の声。

 ハルは言われたとおり、燃え盛るセンブを鏡に映した。直後、鏡面から水が噴き出し、その身が消火される。

『次くるわよ! 気を抜かない!』

「はい──」

 走りながら元気よく答え、ハルはその名を呼んだ。

「青龍様!」

 ──あの時。

 黒い大蛇が消滅したことで、”中”に居た青龍は肉体を失った。そうして青龍は、依代としてハルの鏡に取り憑くこととなった。ハルにビシバシと指示を飛ばしている女の声が、それである。

『ああもう、久々の故郷だってのにどうしてアンタたちはこう揉め事を持ってくるの!?』

「知らん! あいつらに聞いてくれ!」

 今彼らが走っているのは、《清流湛えし尊き大河》。もっとも、ここは川と海が混じる、最下流に近い場所だ。最上流にあったハルの村からは国ひとつ分離れていると言っても過言ではない──とはいえ、青龍にとっては間違いなく故郷だ。2年ぶりの。

「ユグドさん、やっぱ勝手に神殿に入ったのがマズかったんじゃないですかね!?」

「センブが"神器の気配する"って言うからってうおおあぶねぇ!?」

 言い返そうとしたユグドの鼻先を火矢が掠めた。先ほどから追ってきているのは、地元の先住民族だ。青銅の鎧兜を身に着け、統制の取れた動きで火矢を放ち、ユグドたちを追い詰めてゆく。

「畜生、せっかく神主の手がかりを掴めたってのに!」

 神主を探し、斃すための旅。ハルと青龍が取った選択を、ユグド・センブは見届けることにした。

 その旅はやがて、五柱の龍神を救う旅へと姿を変えることとなる。

「あああもうキリがねぇ! とりあえずいっぺん黙らすぞ!」

「やっぱりそうなるんですね……」

 ずざぁっと派手に大地を擦り、ユグドとハルは立ち止まる。

「センブ!」「ウム」

 センブの身体が発光し、マサカリへと変化した。それをキャッチした彼は、三つの瞳で獰猛に笑い、構える。

「青龍様、お願いします!」『仕方ないわねもう……!』

 ハルが大鏡を掲げた。その鏡面が波打ち、ギラリと力強く輝いた。

 彼らは、襲いくる火矢を見据えて。

 同時に、叫ぶ。

「「神・器・変・容!」」

 神通力が渦を巻き、砂埃と共に吹き散らされた火矢が宙を舞う。

 砂埃が晴れたとき、そこには白黒の鎧を身に纏った戦士と、水色の鎧を纏った戦士が佇んでいた。

「俺の名は、ミツマナコ」 白黒が言う。

「僕の名は、セイリュウ」 水色が言う。

 驚く先住民族たちに向かい、彼らは声を揃えて言い放った。

「「神器の、戦士だ!」」

(完)

あとがき
 本作は、パルプ小説オンリー電子同人誌『無数の銃弾』vol2への参加作です。vol1に前編、vol2に後編が収録されています。
 無数の銃弾にはミツマナコ以外にも油断ならないパルプ小説が多数収録されています! お値段たったの100円! しようチェック!



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