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装震拳士グラライザー(68) Prototype

 全力の正拳突きが怪人の腹に突き刺さり、爆発四散せしめた。これで五体。目視範囲に敵影なし。生体センサーも反応なし。

 殲滅完了。

 俺は残心を解き、ベルトからライズナックルを引き抜いた。全身を覆うメタルスーツが音を立てて展開、光の粒子となって消失する。

「ふぅ」

 俺は息を吐き、拳を握ったり解いたりして具合を確かめる。骨ばった、皺だらけの拳だ。よく言えば50年モノのヴィンテージ品は、戦の反動で若干軋んでいる。老いたもんだ。

「銭湯でも行くかねぇ……」

 呟きながら、俺は何気なく視線を上げ──

 眼前に立つ、黒髪の女と目があった。

「うおァッ!?」

 思わず大きく飛び退り、功夫を構える。バカな。いつの間に? 生体センサーは? 故障か?

 混乱しながらも、俺はその女を観察する。高校生くらい。結構な美人。長い黒髪。白い服。そして──

 半透明の身体。

「……なるほど」

 気付いた瞬間、俺は踵を返し駆け出して。

「どこ行くの」

「うおおォッ!?」

 進路上に再出現したその女によって、急ブレーキを余儀なくされた。

「な、なななんだオメー!?」

「あなたに、お願いがあるの」

 喚く俺をスルーして、幽霊女は話を切り出す。俺は震える拳を構えたまま、眉根を寄せて問い返した。

「……お願い?」

「そう」

 コクリと頷くその姿は、まるで普通の少女のよう。しかし──

「飯森徳次郎を、殺してほしい」

 続く言葉は、色んな意味で穏やかでなかった。

 飯森、徳次郎。その名を聞いて、無数の光景がフラッシュバックする。

「……ジジイをからかうなよ、嬢ちゃん。俺が誰だかわかってんのか?」

「うん。装震拳士グラライザー」

「わかってんなら尚更だ。ヒーローに人殺しを頼むんじゃあない。それに殺せっつったって……」

 俺は拳を握りしめ、一旦言葉を切る。

 あの瞬間を、忘れることなどできようものか。

「徳次郎──おやっさんは、もう、」

「20年前に死んでる、でしょ?」

「は?」

 俺の言葉を遮った幽霊女は、薄く微笑んでいた。

(つづかない/800文字)

 本戦に投稿した「阿吽昇天」のプロト版です。阿吽昇天が収集マガジンに登録されたので、こちらも供養の意味でアップします。
 結構マジで「これイケるやん!!!」と思って書いたんですけど、投稿する直前で昨年の逆噴射小説大賞の優勝作品が同じように「死んだ人を殺せって言われた」話だったことを思い出し、ボツにしました。
 その後何度も書き直しているうちに、「ジジイである意味ってなんだっけ」「幽霊少女である意味ってなんだっけ」などなど考え直し、最終的に本戦投稿版「阿吽昇天」のような「ヒーロー(68)と故・大総統」という所に落ち着くに至りました。
 幽霊JKとの話は別の書きたいですね。

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