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少女終末旅行

 今更だけど、『少女終末旅行』のアニメを最後まで観た。

 なんだろうこの感情。驚きはもちろん、寂しさとか、わびしさとか、喜びとか、幸せとか、尊さとか、いろいろな感情が溶け合っているのだけど、それは渦巻いているとか激しくぶつかっているとかではなく、緩やかに混ざり合っている。雲の形が変わるのに似ているかもしれない。

 すごく、すごく良い作品だった。人は死なない。既にたくさん死んでいて、死んだ人は出てこない。ただただ淡々と二人が旅をする物語。良い作品だった。良い作品だった。

少女終末旅行

公式サイトより

全てが終わりを迎えた世界でふたりぼっちになってしまったチトとユーリが行き着く先とはーー。愛車のケッテンクラートに乗って延々と広がる廃墟をあてもなくさまよう終末ファンタジー。新潮社より刊行のつくみずによる大人気webマンガがTVアニメ化!

 本作は、終末世界で女の子二人がひたすら旅をするという物語なんですけど、冒頭での説明は一切ない。「20XX年、地球は核の炎に包まれた」だの「異常気象で海が蒸発し……」だの、そんな表現もない。

 キャタピラの音が響いて、振動でネジが揺れて、乗り手であるチトとユーリが現れる。そんなシーンから始まる。

 辺りは薄暗くて明らかに廃墟なのだけど、彼女たちはそれになんのリアクションもなく、ケッテンクラートに揺られながら他愛ない話を始めるのだ。

 世界は明らかに終末を迎えていて、辺りの建物はすべて廃墟で、チトとユーリ以外には人間も、動物も、虫さえもいない。たまに人間が居たと思えば、少しばかりの交流をした後にさよならして、それっきりだ。

 そんな終わった世界でレーションと燃料を求めて、彼女たちの日常が淡々と続く。そんな様子を通して、我々視聴者はその世界になにが起きたのか、そして彼女たちがどうなるのかを想像していく。

 映像や画面構成のセンスの良さ、音楽のテンポの良さ、空気感。ただただ見つめているだけでいろいろな情報が頭に入ってくる。どれも煩雑ではない、淡々とした、悲しい情報が。

本作の主題歌「動く、動く」。ポップでカワイイ歌なのに、
作品の世界観と相まって聞いているだけで涙が出てくる

 もちろん、単純にチトとユーリのやり取りがはちゃめちゃに可愛いというのは、ある。めっちゃある。だって超かわいい。二人とも天然だし野生児だし。チトは読書家で勉強家でまじめな女の子、ユーリは自由奔放で食欲旺盛な女の子。二人でいるから無敵。そんな関係が本当に可愛い。

 彼女たちに悲壮感はない。終末世界を日常として受け入れ、チョコレートの味を知らず、チーズの味を知らず、音楽を知らず、ケッテンクラートの操作方法と銃の使い方だけを知っている。その理由も最初は明かされておらず、物語を経るごとに視聴者の想像が徐々に徐々に明瞭になっていくのだ。

 アニメ終盤、ヌコと呼ばれるキャラクターが登場してから、それまでに出てきていた情報が一気にパズルのピースに代わる。そう、すべてが。そしてそれが瞬く間に組みあがり、明瞭な形を得る。その真実を受けて、彼女たちがどう思うか。どういう反応をするのか。そして、どう生きていくのか。すべてのピースを持っているから、それが説得力となって視聴者を殴りつけてくるのだ。強い。

AmazonだとDアニメストア経由で見れるらしい。

 最初は『頭を空っぽにして観られる』『ギャーギャーうるさくない』『可愛い』『メカ』という奇跡的なバランスで成り立っているアニメ、という印象だったのだけれど、観ているうちに凄い勢いで引き込まれていった。

 機会があればぜひ観てほしい。僕は原作を買います。

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