ヒトリボッチ革命戦争
第一話「少女の走光性」
極大の躁状態のまま、学校の屋上を駆け抜ける。目指すは西の端の、破れたフェンス。靴を脱いで揃える? 遺書? そんなの要らない。私は飛ぶ。1,2の3で、蝶になる。
西日が目に痛い。
恐怖はなかった。心を占めるのは、絶望と、後悔と、劣等感。私は最期まで逃げるのだ。最期まで、後悔するのだ。軋みをあげる心を否定するように、私は目を閉じて、最期の一歩を踏み込んで──夕日に向かって、飛び出した。
すぐに襲いくる浮遊感。
五階建ての校舎から飛び出した私の身体は、ものの数秒で地面に叩きつけられる。……その、はずだった。
4秒、5秒……いつまで経っても地面は来ない。それどころか。
ギャァギャァ、ギャァ。
鳥みたいな変な声が聞こえて、私は目を開けて。
「…………へ?」
目の前の光景に、思わず声をあげた。
そこは、崖だった。テレビで見た、えっとあの、あれ、ナイアガラの滝。あの横の崖みたいな。めちゃくちゃ深い崖。
「ひぇぁ──」
私の悲鳴は、自分の耳に届く前に置いていかれた。本能的に足元を見る。超後悔。これは無理。
私が改めて死を覚悟した──その時。
ダーツの矢が、見えた。
「えっ?」
スローモーションの世界で、私はその動きをしかと目視した。バレルロールしながら真っ直ぐに飛びきたそれは、そのまま私の首筋を掠めていき──直後、全身が後ろに引っ張られる!
「グェァッ!?」
カエルがかかと落としを喰らったみたいな声が喉から出るころには、私の身体は崖に縫い止められていた。
浮遊感の消失。その代償に、自重で首が締まる。感覚。ちょっと待って。嫌だ。飛び降りならまだしも、絞首は望むところじゃない。
容赦なく締まる襟元。
苦しい。
──死にたく、ない。
その時だった。
不意に、身体が浮き上がった。まるでなにかに掬われたような感覚。生きている。私は──生きている。
「よかった、間に合った!」
薄れゆく意識の中で聞こえたその声は、私の声とよく似ていた。
(つづく/800文字)
タイトルの通りで、触媒ファントムガールさんの「ヒトリボッチ革命戦争」と「少女の走光性」がモチーフの作品です。二次創作にあたるため本戦には出せないけれど、とにかく書きたかったのだ。これは僕自身のケジメだ。ずっと書きたかったのだ。そしてちゃんと書き上げたいのだ。そんな一作です。
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