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埋められた子

 怒ってなんかいなかった。仕返ししようなんて、ちっとも。
 お姉さんたち、わたしを埋めるのが変な楽しさでいっぱいだって、顔を見ればわかったよ。
 汚いことばは、傷付いてしまう。大声で放って笑ってしまうのも、変な楽しい気分が止められないからね。お姉さんたち。
 わたしは砂からも人からも逃げたい。泣くとお姉さんたちがもっと笑う。
 悲しいけれどお姉さんたち、わたしを埋めてもあなたの妹は、明日から教室でもてはやされたりしない。

 ともだち、どうして嘘をついた。一度だってあなたを、嗤ったりしなかったのはこのわたしだったのに。
 でも大丈夫。よくあることだから。悪いことなんかしなくたって、辛い日があるのはよくあることだから。
 ひとりで砂に埋まってるのは淋しい。校庭がこんなに淋しい場所に見えるなんて知らなかった。
 あなたも、生きてるだけで嗤われて、お外がこんな風に見えたんだろう。だけどわたし、助からなくちゃならない。

 身を捩って穴の内側で、砂を掘ろう。吐きかけられた唾はくっついて汚い。早く抜け出して顔を洗って、何もなかったように家に帰ろう。日が暮れる前に助からなくちゃ。家族に、明日もみんなに、会いたい。楽しそうな人に「楽しいか」と聞いてはいけない。つまらなくなって、もっと楽しくなろうとするから。
 砂場に埋まってるのは楽しくない。地面から、首だけ出しているわたしはきっと面白いな。自分で見てもきっと、笑ってしまうんだろう。地面から首から出して泣いてるなんて、おかしい。
 砂から出ろ。砂から出てよわたし。服を綺麗にして。

 掘って、掘って、掘って、小さいわたしは砂場に立ったよ。
 日が暮れて、叱られる。けど言わない。
 もう淋しいのは嫌いだから、淋しかったことは言わない。
 普通の顔して、ちゃんと帰ろう。これでまた、みんなに会える。もう会えないかと思ったけど、またみんなに会えるから。


11.729光年彼方へ枯渇しても愛を湧かす

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難しいです……。