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上を向いて(100km)歩こう ~完結編 (前編)~


吾輩はカツヲである。またの名をドアホバカ激キショ理系陰キャオタク大学生である。

ある年のバレンタインの日、たったひとつのゴムチューブのパンクから思い立った
「100km離れた群馬の親友Mの家まで歩いて到達するチャレンジ」
は、その後のカツヲの人生に大きな影響を与えれば、「架空(ゆめ)」は「現実」に!
言い忘れてたけどこれは僕が最高の気狂いになるまでの物語だ。


過去の挑戦はこちら。




今回は本気だった。すなわち‘マジ’だった。要するに‘ガチ’だった。

過去の挑戦の失敗の原因は
・余裕こいて急ぎすぎた
・そもそも足の裏が痛すぎてどうしようもない
・そもそも脚全体がガクガクでどうしようもない
だった。
本気ガチマジなカツヲは、11月2日に控えた挑戦に向けて、9月からほぼ毎日ランニングをして、脚の筋力強化、足裏の皮の鋼鉄化を図った。


アポ取り


荷物は極限まで無駄をを減らした構成で、次の通り。

‘極限まで減らした’とは言っても、Mの家で宿泊するための着替えが必要であるため、多少の重さはあった。荷物をまとめると次の通り。
・着替え(左上の袋)
・充電USB類(青いドラゼミの袋)
・モバイルバッテリー(赤ダンボー君)
・ウォークマン
・ワイヤレスイヤホン×2
・ウェストポーチ
・サロンパス10数枚
・絆創膏数枚
・行動食
・その他小物(赤い吉田くんのポーチ)

水分は邪魔にしかならないためにその都度買うつもり。
そして、行動食の詳細は次の通り

プロテインバー類はお腹が空く前に食べ、エネルギーゼリー類は、スタート時&45km地点で食べる予定で準備した。

なるべく健康的に行きたい。という煩悩のあったカツヲは、様々な記事で紹介されていたドーピング剤ロキソニンは持っていかなかった。


そして、当日の服装は次の通り。


なるべくカジュアルな服装で行きたい。という煩悩のあったカツヲは、‘あくまで普通に街中を歩いている大学生’然とした格好を目指し、かつ動きやすい格好でこのチャレンジに臨んだ。
なお1番重要な靴は、とんでもなく軽く靴紐を結ぶ必要のない普段使いもできるデザインのものでめちゃめちゃお気に入りだった。







そして迎えた11月2日。課題をほぼ全て討伐し、あらゆるしがらみを捨て去ったカツヲはほぼ準備万端だった。

課題の忙しさから雑な睡眠が続いていたこともあって、前日はしっかり寝たものの若干の寝不足感、そして何故か2日前の朝に吊った右ふくらはぎに若干の不安を抱きつつ大学へ向かった。



大学では、タップルで連絡を取りあっていた女性と初デートの予定が、何故か全てすっ飛ばして家に来ることになった友人の話を聞いていた。




15:10

溢れんばかりの気合いを抱えて大学を出発したカツヲの背中は、妹の結婚式を挙げるために、身代わりとして処刑台に立たせた親友との約束を守ることを決意して、邪智暴虐な王の城を後にした‘かの青年の背中’そのものだった。

背後では“I Don't Want to Miss a Thing”のファンファーレが鳴り、これからとてつもない距離をアルマゲドン。
間違えた。
これからとてつもない距離を歩くカツヲを力強く押し出していたドン。



そうして始まった95kmの旅。

そう、実はタイトルで100kmと書いておきながら、実際は大学からMの家までは95kmなのです。
ごめんなさい。
でもほぼ100kmなので許してください。



Googleマップによると20時間で着くそうで、順調にいけば次の日の11時着。

されど、過去の教訓からGoogleマップの予想到着時間と勝負するつもりはモト冬樹。
間違えた。
毛頭ない。


モト冬樹オフィシャルブログ 「ツルの一声」



失礼しました。

とりあえず耳にイヤホンをブチ込み、小山田壮平楽曲を時系列順で一周するまで、余計なことを考えずに自分のペースで進むことに。



恋人欲しいなぁ。

早いうちにエネルギーチャージ


こんな素敵な駅あったんだね


時々行動食をつまみながら、とんでもない天気の良さにチョベリグのままぐんぐん進む。

16:30には1つ目のエネルギーゼリーを食らい、これからはじまるあたいの物語に乾杯をする。

これからはじまるあたいの物語
ずっと長く道は続くよ
にじいろのゼリー飲み干せば
旅は始まる

“にじいろ”  絢カツヲ





高校時代の部活からずっとこれ


そんなこんなで1回目のチャレンジの時の道に合流し、あくまで余計なことを考えずにリラックスして進む。



恋人欲しいなぁ。



あくまで余計なことを考えずに。



恋人欲しいなぁ。



余計なことを考えずに進んでいるとあっという間に10kmだ、、、まだまだ始まったばk、、恋人欲しいなぁ。


こういう馬鹿なことをやっているととてつもなく恋人が欲しくなるんだよなぁ。
いや、でもこんなことやってるから恋人出来ないんだよなぁ。
しかも恋人いたらこんな馬鹿なことできないからまーいっか。

という余計なことを首都高の下を1人歩きながら考えていると、イヤホンから

恋人よ あなたのことを愛さない日はない

“Peace” andymori

と流れてきた。


クリティカルヒット!!!!!



わずかスタートから1時間半のことである。
向ける対象のない愛を宙ぶらりんにしたまま虚しく歩く己の心に染み渡る歌声が、会心の一撃を与えた。
そうしてゴールまで残り85kmを残して、3回目のチャレンジはあっという間に終わりを告げた。



~完~




って言うのはもちろん嘘でぐんぐん進む。






県境の長い橋を抜けるとそこはサイタマだった。



18:00

もう既に左足の裏に若干の痛みを感じることに不安を覚えながらも、徐々に降りつつある夜の帳に旅の序章を思わせる。


こっから長ぇぞ。


真夜中になにもねぇサイタマの荒野を縦断するここからの50kmがこの旅の山場。
時に山賊、時に未接触部族、そして時に深谷ねぎに襲われながら進まなければならない。





18:30

イヤホンの充電が無くなり、一度音楽を聴くのを辞める。
ちょうどandymoriのアルバムを『andymori』から『宇宙の果てはこの目の前に』まで聴いたところだった。

過去の経験から分かっていたのだが、ずっと音楽を聴いていると途中でものすごく嫌になる瞬間があるんですよね。




18:45

ローソンに寄り、この世の終わりみたいに汚いトイレで、腿裏に早めのサロンパスをお見舞いする。
この頃には行動食が腹の中に消え失せていた(早くね?)ので、糖分補給&気分転換のためにソーダグミを買う。


また、この時靴下を3枚に増やし、早め早めの足の保護にのぞむ。

されど長い休憩はしない。
「休憩してしまうと身体が疲労に気づいてしまうから、疲労に気づかないようになるべく座らない」
という理論。




20:00

ちゃんと栄えている浦和に感動しつつ、さいたま新都心を過ぎる。
この時点でもう既に歩数は30000歩。

そのまま突入した夜の大宮は完全な繁華街で、

オニイサン!マッサージ ドウデスカ〜?

の声に

そりゃ行きたいに決まってんだろうが!

と思いつつ無視をキメこんだ。




21:00

ここに来て初めての休憩。
靴下をめくってみれば、既に足の裏は怪しい。

ほんとにいまさら過ぎるんだけど、この休憩の時に100kmウォーキングをしている人のブログを見て、足の裏が痛くならない方法を知って、その準備不足加減に大爆笑してしまったしん。
結論から言うと、靴下の枚数を増やすことはほぼ意味がなく、そもそもの衣擦れを防ぐためにテーピング等をしておくことが大切とのこと。

もうなんなのぉ〜。



大宮を過ぎてしまえばここからゴールまでずっと田舎で、もうこれからの道、ニンゲンの気配を感じることなく進まなければならない。

覚悟を決めてスタートするともうだいぶ疲労が回復していて、先程の訳の分からない理論に腹が立つ。
ここからは信号待ちの間はできるだけポールに腰をかけ、頻繁に休憩。




22:00

暇な道を乗り越えるために少し前から音楽をまた聴き始め、30km地点を超える。
関節や筋肉はなんの問題も無かったのだが、なによりも足の裏が痛い。
25:30までに47km地点を越えられたらいいな、と思いつつひたすら歩く。

徐々に無を極めていくサイタマの中で、コンビニを見つけた時の安心感がとてつもない。
なんでもあるし、明るいし。なにより必ず人がいる。




22:20

1度目のチャレンジで心が折れつつ親友のMと電話した‘イオンモール上尾店’に到着し、数少ない通行人のサイタマ人に不審な目で見られながら足の裏に絆創膏を貼りまくる。
もう左足に出来かけていたマメが痛いのに、1/3も進んでいないことへの絶望感。

イオンモール上尾店





22:50

1度目のチャレンジの際、バナナを食べながら休憩した‘上尾駅’になんとも言えないノスタルジアを感じながら腰を下ろして左足を労りつつ、再度出発した。





22:57

忘れもしないサイタマの夜。


右足の中指辺りのマメがが破裂する。


左足ばかりに意識がいって、全くその存在に気づいていなかった。
いや気づいていないということは決してないのだが、なんとなく痛いなーと思っていた程度でそれがチリッチリのチリビーンズであることには気づいていなかった。



23:18

右足に激痛を感じながらも、歩いているとなんだか平気な気がしてきて、左足に重心を起きつつ歩いていた。




左足のマメが破裂した。




痛っ!!!!!!

カツヲは激怒した。

鮮明に覚えている。あの景色だ。立体交差が見える信号を渡ったところで。

あまりの痛さに、左足を庇うように揺れ歩く。変わらず痛ぇ右足も庇うように揺れ歩く。

やっとの思いで縁石に腰かける。

バカいてぇぞ。

絶望。

消えゆく魂、俺の足。
こんにちは絶望。




あまりにも早い絶望に現実逃避を極めたカツヲは、Twitterのトレンドに上がっていた

「BrakingDownにて、‘某ケンカ屋’が‘某アドリブイムニダ’をパイプ椅子で殴りかかった事件」

を眺める。
まるで何も起きていないかのように、スムーズな流れでTwitterに意識を移す。


己のBrokenFoot、そしてBrokenHeartに気づかないフリをしているカツヲは、さながらリングのコーナーで燃え尽きるジョーのようで。
もうどうしようもないじょー、ってことで。


沈んだ体躯で腰下ろす
行く末を案じながら
暗い夜の帳りの中へ
誰にも縛られたくないと
逃げ込んだサイタマで
自由が消えた気がした21の夜

尾崎 ゆたカツヲ “21の夜”





中編へ続く。。。



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