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W杯を終えて再び考えるべき人権問題

FIFAワールドカップカタール大会2022が18日に決勝試合を終え、PK戦の末にアルゼンチンがフランスを下し、悲願の優勝を果たしました。歴代最高プレイヤーの一人であるリオネル・メッシ選手の長年の夢が実現する形で、大会は幕を閉じました。

サッカー日本代表も、グループリーグで強豪のドイツやスペインを破るなど、大躍進を遂げ、日本中が歓喜に包まれました。

総じてドラマの多い素晴らしい大会になり、世界中の人々が勇気づけられたことは間違い無いでしょう。

しかし、日本ではさほど注目されていないものの、西側諸国をはじめとする国際社会では、大会開催前から、今大会のカタール誘致に関する不正や大会に向けた施設建設等における移民労働者の人権侵害が大きく問題視されていました。

相次ぐ批判から、カタール大会が決まった当時FIFAの会長を務めていたセップ・ブラター氏は、カタールを大会開催国に選んだことは『間違い』だったと発言しました。

大会が終わって、注目が薄れつつある今だからこそ、真剣に考えるべき問題であり、今度二度と同じことが起きないように、少しでも多くの人たちにこの問題を知ってもらいたく、今回記事を書きました。

移民大国「カタール」

中東のアラビア半島東部に位置するカタールは人口約290万人、国土面積は11,571平方キロメートルで日本の秋田県と同じくらいと、非常に小さい国です。

日本人がイメージする中東の「石油王」がいる国で、エネルギー産業で発展を遂げた石油産出国としても有名です。

カタールの人口290万人のうち、移民が占める割合は88%で、その大半を移民が占める移民大国です。また、ほとんどの移民が職を求めてカタールへ渡った移民労働者であるため、カタールの労働人口の実に95%が移民労働者であると言われています。

今回のワールドカップにおける施設建設等に携わった労働者もほとんどが移民労働者であり、約3万人の移民労働者がワールドカップ開催に向けて雇用されたと、カタール政府が公式発表しています。

カタールの位置

カタールワールドカップの労働環境

2021年2月、イギリス新聞社のThe Guardianが、カタールでワールドカップが開催されると決まった2010年以降、カタール国内で6500人の移民労働者が命を落としたと報道しました。

この報道に対してカタール政府は実際に施設建設現場で亡くなった死亡者数は37名であり、報道されている数よりは遥かに少ないと反論しています。確かにこれらの死因を移民労働者の労働環境と完全に結びつけることは困難であるし、一定数他の要因で亡くなった移民労働者がいたことは間違いないでしょう。しかし、国際労働機関(ILO)はカタール政府の発表した死亡者数は少なく見積もられていると発言している他、実際に報道されているワールドカップ施設建設の労働環境を見ると、この報道が一部正しいということを認めざるを得ません。

カファラ制度による労働者の拘束・不当な扱い

カタールをはじめとした中東諸国には2017年までカファラ制度という移民労働者と雇用主を結びつける労働契約制度が存在しました。このカファラ制度によって移民労働者は雇用主によって職を与えられ、ビザを取得することができるというものであるが、この制度では雇用主が労働者の身元請負人となるため、雇用主たちはそれを利用して強制労働や高額な就職斡旋料の支払いを強いているとの批判があり、2017年10月、ILOはこの制度は無効にする決定を下しました。

しかしこのカファラ制度が廃止された後も雇用者側が労働者を逃がさないよう圧力をかけており、強制労働の実態はあまり改善されていないと、アムネスティー・インターナショナルは指摘します。

不当な額の就職斡旋料とそれに見合わない低賃金

The Guardianの報道によると、就職斡旋にかかる費用は1000〜4000ドル(13〜53万円)であり、月収およそ275ドル(約3万5千円)で働く労働者はそれを払えずに借金を抱えて、苦しい生活を余儀なくされているといいます。それに加えて、契約よりはるかに低い賃金が支払われていたり、残業代や賃金の未払いも発生しており、経済的にさらに厳しい状況で、普段の食事もままならないことが多いのが実態です。

実際にカタールで不当な扱いを受けた後、移民労働者の人権を訴えたことで、勾留されることとなったケニア人のゲオフリー・オティエノさん(Geoffrey Otieno)は

「自分が経験したような虐待が横行していて、これ以上に腹立たしいことはない。カタールにいる移民労働者は消耗品として扱われているんだ」

と話します。

移民労働者の住居や労働環境がこの動画中でみることができるのですが、日本に住む我々の常識では考えられないほど悲惨です。その他の状況も詳しく語られているので、英語の勉強も兼ねてご覧ください。

その他にも問題視されるカタールの人権

その他にもカタールではLGBTQ+の権利侵害や移民者の差別問題、女性の地位の低さなど、人権に関する問題がさまざま存在します。

このような問題があるにもかかわらず、ワールドカップの開催国としてカタールが選ばれたことに世界中で批判が殺到し、イギリスの公共放送BBCでは開会式の様子を流さずにカタールの人権問題に関する番組が放送されたり、フランス・パリなど世界の主要都市でライブビューイングを自粛する動きなどが相次いでいました。

ワールドカップを見ないことが正義?

しかし、これは私個人の意見なのですが、こういった人権問題を知った上でワールドカップの視聴をやめることが必ずしも問題の解決につながるとは思いませんし、この大会を夢見て血の滲む練習を積んできた選手たちを讃える意味でも、ワールドカップそのものを批判するのは違うと思います。ワールドカップを夢見た選手たちに罪はありません。大事なことは、これ以降今回のような悲しみが2度と起こらないように、世界中で認知を深め、次回大会の改善に努めることだと私は思います。

最後に…

ワールドカップを盛り上げてくれた選手の皆さん、お疲れ様でした。そして、日本中、世界中の人々がこういった問題に目を背けず、状況改善に協力して取り組んでいける世の中になることを心から祈っています。

ということで、今回の記事も最後までお読みいただきありがとうございました!スキ(いいね)とフォローも忘れずによろしくお願いします!今後も、国際問題や留学生活に関する情報、それからサステナブルファッションに関わる情報も記事にしてお届けしていきますので、次回以降の記事もお楽しみに!

また、私が運営するポッドキャスト番組「チェコっと放浪旅」では、台湾留学で出会った世界一周旅行中の友人とお酒を飲み交わしながら、国際問題や留学、世界一周旅行に関する話題など、海外生活で生まれた生産性のあるお話をお届けしています。毎週木曜日に更新していますので、興味のある方は是非、そちらの方もチェックしてみてください!


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著:Tasuku

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