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四谷怪談の現場を歩く(8)

民谷家の惨劇(後)

怖いのは人間

 現在、鬼子母神の参道は雑司ヶ谷二丁目、目白通りを渡った宿坂通りは高田一丁目で、四ツ家という地名はない。どこかに痕跡はないかと探したら、宿坂を下ったところの氷川神社の境内に小さな石橋があり、その欄干に見つけた。四ツ家下町と読める。四ツ家下町は目白通りより南側の地域を指すようだ。

氷川神社入口の小さな橋の欄干
氷川神社

 宿坂通りは中世の鎌倉街道の一部で、関所が置かれた時代もあったらしい。南に流れる神田川に向かって下り坂になっていて、江戸時代は竹藪が生い茂る寂しい場所で、別名くらやみ坂ともいったという。

宿坂

 伊藤喜兵衛の家を訪れた伊右衛門は、そこで大変なもてなしを受ける。
 訝しがる伊右衛門に、喜兵衛はとんでもない申し出をする。伊右衛門が既婚者で子供もいると知りながら、孫のお梅と結婚してくれというのだ。お梅も、下働きでもよいから側においてくれ、それがかなわないなら死ぬといって、剃刀で自殺しようとする。
 その上喜兵衛は恐ろしいことを言った。先ほど届けさせたのは血の道の薬ではない。命に別状はないが、飲むと顔が崩れる劇薬なのだ。お岩の顔が醜くなれば伊右衛門が愛想をつかして別れるだろうと考えた。しかし事が成らず、これを懺悔したからには、自分を殺してくれと喜兵衛は伊右衛門に迫る。
 最初、伊右衛門はためらっていた。日頃邪険にしているものの、妻に対して愛情が無くなったわけではない。しかし、金や再仕官の甘い誘惑に負けて、とうとう承知してしまう。

 一方、お岩は伊藤からもらった薬を飲んでしまう。すると顔が焼けるように熱くなり、かえって気分が悪くなる。
 日が暮れて、宅悦は灯りの油が切れたので、買いに行くといって家を出る。入れ違いに伊右衛門が帰宅する。
 お岩の顔が変わったのを確認すると、伊右衛門はわざとお岩につらく当たる。そして金が要るからと、妻の着ている着物や蚊帳まで外してもっていってしまう。

 油を買って戻ってきた宅悦に伊右衛門は金を渡し、お岩に間男をしろと言い、伊藤家でのことを耳打ちする。
 宅悦はお岩を抱こうとするが、激しく拒絶される。とうとう宅悦は、伊右衛門と喜兵衛の策略を白状する。
 真実を知ったお岩は、そしてそれまでの弱弱しい無力の女から怨霊へ変貌するのだ。お岩は伊藤に礼を言いに行かねばと、身支度をはじめた。芝居の中でも有名な髪すきの場面だ。髪の毛がごっそりと抜け、額から血が流れる。目をそむけたくなる恐ろしさ。
 しかし、お岩はよろけたときに誤って剃刀の刃が首に刺さり、絶命してしまう。恐れた宅悦は逃げ出した。

 家に戻った伊右衛門たちは、お岩の無残な死体を発見。押し入れに閉じ込めておいた小仏小平を殺して、二人が不義密通して罰を受けたように仕立てるため、雨戸板の裏と表に打ち付けた。

 そこへ喜兵衛とお梅が来る。なんと、ついさっきまで死体が転がっていた家で、早々新婚生活を始めようというのだ。舅の喜兵衛も今夜は隣室に泊まるという。

 二人の床入りの場。恥ずかしそうにうつむくお梅に、伊右衛門がやさしく声をかけると、なんとお梅の姿がお岩に。思わず伊右衛門は斬りつける。だが、死んだのはお梅だった。
 仰天した伊右衛門は隣室の喜兵衛を呼ぶ。すると出てきたのは、喜兵衛ではなく小平。しかも赤ん坊を食い殺していた。「薬をくだされ」という小平の首を伊右衛門は斬り落とした。が、よく見れば舅の首。

 ハテ執念の
 なんまいだなんまいだなんまいだ・・・
  


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