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風と木Part1

風と木が出会った
風は嘆息し木に言う


「木よ、キミはいいなぁ、大地に根付き、かくも堂々と揺るがずにキミの生を謳歌しているようだ。憧れるよ。」
木は応える
「風よ、ボクに憧れるだって?
産まれてから一度も、一歩たりとも、この地から離れることの出来ないボクに?」
風 「ま、そういう考え方もあるだろうけどね。
 キミは突然とんでもない処に飛ばされることも、休みたくとも動くことを宿命づけられたボクの絶望を知らないだろう?」
木 「知るわけがないさ。キミがボクの憂を知らなかったように、ね。
 絶望とは思い通りにならないことかい?意に反して動くことが、そんなに辛いのかい?」
風 「辛いさ、ボクはキミの様に安定した姿、そう、実体を持ちたいんだ!
代わってくれるモノが居れば代わって欲しいよ。カタチの無いボクなんて、相手も居ないだろうけどね」
木 「そうか。じゃ、ボクと交換してみるかい。ボクもこの場所に飽き飽きしていたところさ、丁度いい。」
・・・・ ・・・・ ・・・・・数分経過

元風であった現木。
 「なんて酷いヤツだ!痩せた土壌、根っこは腐りかけ、おまけに真下にゃ、急流と来た。雷落ちりゃ、奈落にまっしぐらだ。ボク泳げない、流される、怖いよ、怖い。
その前にボク、死ぬ?弱ってるよ、オンボロだよ。
騙されたーーーー!詐欺師のろくでもない木だ!」
元木であった現風。
 「何々?大声で聞き捨てならぬ発散してるね、キミ。
キミが望んだことじゃないか。ボクは交換に応じただけさ。奇特な相手に感謝するなら分かるが、詐欺などと難癖つけないでくれないか。
いきなり実体持って・・・キミ、動転してる? 忘れたのかい。キミが代わって欲しいと言ったろ?」
元カゼたる木
「言ったさ、言ったよ。ボクは安寧の地を、静かな生を求めたってのに。
キミ、死にかけだってひと言も言わなかったじゃないか!」
現カゼ
「胸糞悪いヤツだな、まがりなりにも・・キミは風だったんだろ。
ボクは弱り果てた身体も、この惨状も 全て晒していた。視なかったのはキミだろ。
ただ木であるという理由でボクを羨み選んだのはキミだ!」
元カゼ
「だってさ、だって、キミ、堂々と立ってたじゃないか。弱ってるふうに見えなかったじゃん。騙したんだろ!」
現カゼ
「ふっ、弱ったモノが弱ったぞ~って叫んでどうする。助けてもらえるとでも
思っているのかい。たちまち餌食さ。
まぁ言わなくとも、そろそろボクのカタチ、今のキミは・・・
うわ!あ~ぁ、そんなに激するから、崩壊早まってるじゃないか。
最期が近いようだから、お相手してあげよう。
な、朽ちかけ君。 長い長い風の間、キミは一体何を見て学んで来たのかねぇ」
元カゼ
「朽ちかけなんて名で呼ぶな~~っ!
ボクはボクは・・辛くても、立ち止まれず、ボクはボクの視界に入るものを
ゆっくりと視る時間もなく、たまたま、キミがボクの前に居て、ボクを止めてくれたから・・
ボクはボクの苦悩を
訊いて欲しかったんだ!」
現カゼ
「ふむ、じゃ、ボクは、偶然出会った赤の他人たるキミの誠実なる聴き手であり、それより更に驚くことに、語り部たるキミの願いを叶えたという真実が、いみじくもキミの告白で露呈されたという、この物語の文脈。
観客には伝わったと思うがね、どうだろう、悪いのはボクだと思う諸氏、居るなら挙手を」
元カゼ
「誰か誰か、ボクが可哀相だと思う人居ませんか!?ボクは善良な小市民的に清く真面目に生きて来た、

風です。
出会ったこいつが善人面して・・ボクは騙されたのです!
死にそうなのに元気なフリしてボクの吐露を・・巧みに利用した悪党なんだ!」
さてさて・・
”どちらに支持票集まることか、愉しみですこと。”
太陽は今日も今日とて独りー
数多の喧騒を微笑み見下ろしておりましたとさ。



風と木
















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