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乱雑なる記憶の断片


忘れ難い、

明晰に言えば、普段忘れていて

つと、切なくなるほどにココロに広がる情景、人、心象風景

日常の喧騒や迷走、疲弊の中、とうに過去に流れたソレを

引き出してみたり

無理やり、こじ開けられたり

要は、蘇ることが快感であり寂寥であり、如何なる感覚にせよ

確固たる自分史の刹那であり

ただワタシだけが所有するモチモノなのだ

寒い冬の教室、静かな授業中に響いた”ガサっ”という音

新聞紙を巻きつけた華奢な身体と

身体に合わないサイズの服

嗚呼、かの敬愛する少年の澄んだ目

冬の雨の中、ぬかるみに突っ伏した軽い肩、声無き男の号泣

老いた少女たる私の裡に

決して色褪せない山の春夏秋冬

ーその自然の中に溶け込み存在する祖父母の小さな姿

困窮した日々、レジに並び入手した特価のサラダ油とお醤油

乳母車に子を乗せ片手でひしと掴み、

もう片方の手に

欲張って買った瓶二本の重み

非力な腕は震え

ようやく家の敷地に入った瞬間

落として割れた瓶

ガラスの欠片が入ってない割れた瓶に残った醤油

虹を渡ると決めた夢見る幼子のワタシが描いた絵

飛ぶと叫び、崖から飛んだ日

父に罵倒され

泣くものかと歯を食いしばったワタシ

愛すること、愛されること、それらは、常に

誰かの涙や悲しみが影に在ると

知った日

幼くて愛を知らず、を読み

こんな女にはならない!と憤怒したワタシ

強くなる強くなる泣かない負けない逃げない

呪文のように

生きて来た

生きている


泣かない

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