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小雪舞う古都にて③”思惑”:私小説「クラブ活動と私」

二年参りの下見に偽装されたダブルデート計画。
冬の京都に降り立つ男女4人は、何故か目的地の
八坂神社に背を向けた。


四条通りを八坂神社とは逆方向に下っていくのは
オレ(上村かみむら 博昭ひろあき)とその幼馴染・金田かねだ、そして2人の
先輩、小塚こづかさんと松川まつかわさんだ。

今日は八坂神社へ行く前に映画を観に行くことに
なっていた。途中通りを左に曲がり、アーケード
付きの商店街へと進んでいく。
冬休みに入っているせいか、それなりの人出で
ごった返す中、劇場を探す。
大まかな場所と上映時間はバッチリ調べてある。

オレが先頭を切って歩いていると、後ろで何やら
小塚さんと松川さんが話しているのが聞こえた。
「ちーぱん、後でゆっくり見て回ろ、ね。」
どうやら松川先輩ちーぱんがあちこちのお店に目移りして
いるらしく、小塚さんがそれを制している。
「とりあえずチケットだけでも先に買いましょう。」
オレも小塚さんに加勢する。まだ上映時間までは
余裕があるとはいえ、人気作品だ。席は押さえたい。

「あ、あった。あそこや。」
タイムマシンに改造された車と青年や科学者が
描かれた看板を見つけ、劇場に到着する。
いい具合に横並びに4席取ることが出来た。
もう少し時間があれば一度商店街に戻ることも
出来たが、そこまでの時間はなかった。
劇場のロビーで上映時間を待つ。
それにしても、周りはどうにも”2人組”が多い。
それもそのハズ。

「ところで小塚さん、なんで今日にしたんです?
今日ってクリスマスイブですよ?」
そう、この日は二年参りに訪れる大晦日の1週間前、
つまり12月24日だった。
オレはあえてこの話を振ってみたのだが・・・。
「えっ?あっ、そうやんな・・・。」
あれ、この反応。もしかして小塚さん、曜日しか
見てなかったのか。
これはやぶ蛇をつついたかもしれない。

かみちゃん、ポップコーン買いに行こ。」
あやうくヘンな雰囲気になりそうだったところ、
金田の”鈍感力”が場の空気を一刀両断にした。
「お、行こか。先輩方はどうします?」
内心「助かった」と思いながら、2人に目をやる。
思わぬ事実に気づいて少し慌てている小塚さんとは
対照的に、松川さんは特に何事もなかったように
ベンチでまた猫っ毛を気にしている。
この人もまた、そのテの事には”鈍感”だ。

オレと小塚さんの”共同戦線”はこの超がつくほどの
”鈍感”たちをいかに突破するかの戦いなのだ。


劇場内に入り、指定の席へと向かう。
ここでもオレは先陣を切った。
オレには狙いがあった。
『金田を小塚さんの隣りに座らせる』ことだ。
席は横並びに4席。この状態で男女男女と席に
着くのはあまりにもあからさま過ぎる。
であれば、オレが1番奥の席に行けばいい。
金田は当然、その横に着いて来て座るだろう。
あとは残った2人が小塚さん、松川さんの順に
並んでくれれば、真ん中で小塚さんと金田が
隣り合わせで座ることになる。
オレは席に着きながら、小塚さんに軽く目配せを
して、金田の隣りの席へと誘導する。
小塚さんもすぐに勘づいて、金田の隣りに座った。
最後に松川さんが1番通路に近い席に着いた。

思惑通りだ。ナイスアシスト、オレ!
オレ自身は松川さんとは席が離れてしまったが、
そのほうがむしろ都合がいいかもしれない。
隣りに松川さんが居たら、そっちばかり気になって
映画どころじゃない気がする。

そういえば中学校に入る前、あのコと弟たちと
映画を観に行った時もこの並びだったな。
仲の良かった弟同士を間に挟んで座ったんだっけ。
あのコは転校してからどうしてるんだろうか。

そんな”苦い初恋”の記憶はすぐに振り払った。
オレが今向き合うべき人は、3つ隣りの席に居る。


たった今未来へと送り返したハズの青年が、
過去の世界の科学者の元へ助けを求め戻ってきた
ところで物語は終了した。
「続きどうなるんやろうなぁ。」
どうやら金田は映画を堪能できたようだ。
小塚さんも金田と盛り上がっているところをみると、楽しめているようで何より。

一方で松川さんの心情はどうにも読めない。
この先輩はプライベートもわりと謎が多い。
今回の映画にしても、はたして松川さんの趣味に
合っていたのかどうか。
実はそれがここへ来る前から少し気になっていた。
ポーカーフェイスというと大袈裟だが、いつも
どこかおっとりした”すまし顔”でいるので
何を考えているのか分かりづらいところがある。
そういえば笑ったり、持ち前の天然ボケを発揮して
ちょっと困った風な顔はよく見るけど、悲しんだり
怒ったりするような表情って見た覚えがないな。
そんな時、松川さんはどんな顔をするんだろう。


劇場を出て商店街を四条通りのほうへと戻る。
松川さんが見たいお店を見て廻れるよう、
オレと金田は来た時とは逆に”後衛”に廻った。
劇場に入る前からうずうずしていた松川さんは、
主に観光客向けだろう”いかにも京都”な和柄の
小物などを目を輝かせながら眺めていた。
ひょうちゃん、これ見て~。どう?」
「いいやん、カワイイ!ちーぱん似合いそう。」
松川先輩ちーぱん小塚先輩氷ちゃんのやり取りを数歩後ろで眺める。
こういう時の松川さんは本当に楽しそうだ。

松川さんはその顔立ちや身に纏わせた空気感など、
とにかく”和”のイメージが強い。
オレが惹かれた夏祭りでの浴衣姿を筆頭に、
普段使っているちょっとした小物なんかも和柄の
モノが多い。華道はどうかわからないが、茶道を
嗜み、書道は私塾が開けるほどの高段者だ。
茶道部と掛け持ちしている1年の部員が部室で
お香を焚いて書道室中にニオイが充満した時も、
嬉々としてそのコに話し掛けていた。

「どうしたんかみちゃん?何かあんの?」
オレがじっと見続けてるのが気になったのか、
金田が話し掛けてきた。
「いやほら、松川さんって3月が誕生日やねん。
その時の参考になるかなって。」
「あぁ、あれか。」
創作部には同じグループやそれなりに親しい間柄の
女子部員の誕生日に、男子部員がお金を出しあって
プレゼントを送るという謎の習慣がある。
普通ならこんな話をすればオレの気持ちなんて
筒抜けになりそうなものだけど、鈍感なコイツには
まったく気づかれる心配はなかった。

心行くまで買い物を楽しんだのか、来た時より
活き活きしてる松川さん。それでも買ったものは
荷物にならない程度に控えめにしたみたいだ。
「ゴメンゴメン、お待たせ。行こっか。」

アーケードを抜け四条通りに戻ってくると、
外はちらちらと小雪が舞っていた。


[つづきはこちら]




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