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雑記と私#54-1:表札の抜けた穴[前編]

小学5年の頃から仲が良かった女の子がいた。
仮にMちゃんとしておこう。

Mちゃんは当時としては珍しい、女の子ながら
ファミコンなどのゲームが好きな子で、席が
隣同士になった時にそんな話で意気投合。
男勝りな性格もあって一緒に遊びに行ったり、
ゲームの貸し借りをしたりと他の男友達と
同じような感覚で仲良くしていた。

同じクラスのまま6年に上がった。
私とMちゃんには共に5つ歳の離れた弟が居る。
この弟たちも入学し同じクラスになった。
弟たちは私たち以上に気が合ったようで、
毎日のようにお互いの家に遊びに通っていた。

昭和の時代、私たちは土曜日も半日学校に
通っていた。土曜日は学年問わず授業が
終わるのが同じ時間になる。

学年が上がってひと月ほど経ったとある土曜日。
授業が終わり帰ろうとしたところ、Mちゃんが
学校を出ずにそのまま1年生の教室のほうに
向かっていくのを見掛けた。

「あ・・・そっか」
Mちゃんは弟くんを迎えに行くようだ。

私の家は小学校から徒歩2分という、
まさに目と鼻の先にあった。
なので弟を迎えに行く、という発想そのものが
なかった。なんせすぐ帰れちゃうし。

私はMちゃんを追い掛けて1年生の教室に
弟を迎えに行くことにした。

弟たちの担任は私が1年生の時にも担任だった
先生だ。連絡帳に書くことなど、とても丁寧に
説明してくれる優しい先生だった。
そのためか、私たちより終礼が長めになる。
私たちの終礼が終わってから迎えに行っても
余裕があるほどだった。

弟たちが教室から出てきた。
Mちゃんが弟くんを優しそうな笑顔で迎える。
いつも見ている男勝りなMちゃんとは違う、
お姉ちゃんらしい穏やかな微笑み。

その時気づいた。
「俺、この子のこと好きなのかも・・・。」


それから卒業まで、土曜日になるたびに
2人で弟を迎えに行く時間がとても楽しくなった。

お互い思春期に差し掛かり、以前のように
普段から一緒に遊びに行ったりするようなことは
減ってしまったものの、この時だけは
いつも2人きりで周りの目を気にすることなく
話が出来た。

もちろん、内心はドキドキしていた。
1度意識してしまうともうダメである。

いつもならからかってみたり、ちょっと
イジワルしてみたり、
「ちげぇし、そんなんちゃうし」
なんて如何にもガキっぽい、わかりやすい
態度で接しているけれども、このわずかな
時間だけは以前のように無邪気に、普段通りの
ままで話が出来た。


「Mちゃんは俺の事、どう思ってるんだろ?」

そんな気持ちを抱いたまま、私たちは卒業し
中学生になった。


つづく。





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