本の紹介④早見和真

今回紹介するのは、
令和4年12月1日発行
早見和真「ザ・ロイヤルファミリー」

この本を読んで、大学生の頃に、初めて競馬場に行ったことを思い出しました。

近くを走る馬たちの隆々とした筋肉、

荒い息遣い、

ジョッキーたちの力強い手綱の扱い、

そして、あっという間にゴールを迎える、

そんな様々なものに目や心を奪われたことを今でもはっきりと覚えいます。

でも、早見さんの描く競馬のシーンでは、スピード感をあまり感じませんでした。

でも、それが良かったです。

早見さんの言葉はとても淡々とでも力強く、紡がれていきます。

馬たちの筋肉一つ一つの動き、

芝生や地面を蹴る蹄の様子、

スタートを待つ馬やジョッキーの緊張感、

コーナーから直線に入るときの空気の変化、

2500メートルを2分30秒で走り切るスピード感、

馬が風を切る音までも、


様々なものがスローモーションに、かつ、明確に、克明に感じることができ、競馬の力強さをより強くイメージすることができました。


早見さんの競馬のシーンの描写も素晴らしいですが、
何よりも印象深いのが次のセリフです。

【今この時代にある「希望」を次の時代に継承する、その役割を担っているだけだと思うのです。過去から、未来へ。前の世代から、次の世代へ。昨日から、明日へ。そして父親たちから、子どもたちへ。】

本書の中では「継承」という言葉がキーワードになっていきます。

感謝や期待の表れを物やお金でしか表せない馬主である社長から、その隠し子へ。

願い叶わず引退していった親馬から子馬へ。

馬を育てた生産者から、ジョッキーとなったその子どもへ。

【いつの時代も、息子は父を超えていかなければならないもの。馬も人間もそうやって今日まで繁栄してきた。】(本文引用)

そんな想いを抱きながら、また、どこかでプレッシャーを感じながら、はたまた父親への反発心を抱きながら、

継承されたものたちが、継承してきたものたちへと勝負を挑む

様々な想いが錯綜しながらも、果たせなかった夢のために、走り続ける。

そんなお話です。

登場人物たちの熱い想いや、馬主、馬、調教師、ジョッキーの心理描写や、物語を読んでいると、こちらもつい応援したくなります。

つい、携帯で、その馬の名前を調べようとしてしまうほどでした。

さて、競馬への意欲も高まってしまいましたが、初めて行った際には全くダメだったことも覚えいます。



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