「光る君へ」のための平安準備情報⑮

暑い、暑いですね…暑い。それしか言えない日々なので、
いっそ平安時代の夏の生活について少しだけ。

有名な夏の描写は、『枕草子』の以下の場面でしょうか。

  夏は夜。月のころはさらなり。闇もなほ、螢のおほく飛びちがひたる。  
  また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降  
  るもをかし。(新編日本古典文学全集『枕草子』P25)

春はあけぼの=日の出直前のとき。
秋は夕暮れ=そのものずばり夕暮れ。
冬はつとめて=日の出すぐあたりの早朝。

そのなかで夏は夜、と清少納言は言っています。もちろんこれは清少納言の美意識(そして、もしかしたら清少納言が仕えた定子とそのまわりの人々の美意識)なのですが、夏の夜の風情は、現代人にも理解できることのように思います。
月が出ているのも素敵だし、闇夜も良い。螢がたくさん飛び交っているのは素敵だし、一つ二つとほのかに光って飛んでいくのも素敵。雨が降るのもおもしろい。
とつながります。
おそらく螢は自宅、及び、お仕えしている主人の邸宅の庭で見られたと思います。
というのも、経済力のある貴族の邸宅の庭には多かれ少なかれ川からの水が引かれていたからです。
『源氏物語』「帚木(ははきぎ)」巻には、受領(県知事)階級の紀伊守が、川の水をせき止めて自分の家の庭にひき入れ、それが大変珍しく趣深いからといって光源氏が訪れる場面があります。
川から水をひき入れる…結構な治水技術なのでは?と思います。
それをトイレまわりの整備には使わなかったところが平安貴族…?なのでしょうか…?
受領階級は、産物が豊かな地方の担当になると、非常に豊かな実入りを得られた(公正な税制は破綻していたのもあり)ので、こうした豪華な庭作りを行える経済力もありました。

平安時代ですから、水もきれいでしょうし、螢は日常的に見られたのではないかと推測します(螢の生態に詳しいわけではありませんが…)。
光源氏が六条院を建設するときにも庭の描写が詳しくなされているので、
当時の貴族にとって庭は非常に重要な要素であったようです。

『源氏物語』にはその名も「螢」巻があります。
光源氏は、若い頃夕顔という女性と恋仲になります。
光源氏は夕顔を廃屋にデートに連れ出し、そこで夕顔は物の怪に殺されてしまいます。夕顔には、光源氏の前の恋人、頭中将(は光源氏の親友でもあります)との間に娘がひとりいて、夕顔怪死後行方不明だったのを、大人になってから発見し、周囲に自分の娘だとして迎えます。それが玉鬘です。
光源氏は玉鬘にぐっらぐらにひかれていますが、紫の上もいるし、、と自分の気持ちを制御し、彼女をえさに(と言ってさしつかえないと思うのですが…)若い貴公子たちの気持ちをもてあそびます(光源氏って最悪ー…ってかんじです)。
まさに光源氏は、どれにしようかなー、状態で貴公子の気持ちをもてあそびますが、その対象は実の弟にも及びます。
玉鬘の近くまで弟をひきいれ、螢を放します。几帳は隔てていますが、布は薄いので、螢の光で玉鬘の姿が浮かび上がるわけです。
倒錯的…
かつ、それくらい螢がいたのですね…(もちろん光源氏が捕まえたとは思えませんが)。

夏は暑かったようで、几帳の布のようなうすもの(ということはスケスケです)を着ている女性が、胸があらわになるほど襟元をあけている、という描写もあります。
わりと自由……

そして鵜飼い。鵜飼いは平安時代にも行われていました。
光源氏には桂川のあたりに別荘があり、涼しい川風に吹かれてみんなで管絃の遊びをしたり、鵜匠を呼んで鵜飼いをしたりします(正確には初秋の話ですが)。

水辺が涼しいというのは当時も同じ、むしろエアコンなどがないだけあって今よりずっと効果があったようで、大邸宅には池の上にせり出した「釣殿」という建物があり、その上で涼みながら宴会をする場面もあります。

そして。
愛し合うふたりにとって夏の夜は非常に切ないものでした。
なんといっても夏の夜は明けるのが早い…。
日が高くなってから恋人の元を去ることは無粋とされたので、
現在でしたら明け方4時前には恋人の元を帰らなければいけないことになります。過ごせる時間が圧倒的に短い…。
そうした、官能と切なさのイメージが夏の夜にはありました。
この夏の短夜とセットになるのがほととぎすの鳴き声です。
明け方になくとされるほととぎす(初夏のイメージでもありますが)。
ほととぎすは死者の世界と行き来ができる鳥とも考えられていて、
特徴的な鳴き声、夏の短夜の明け方に鳴く、死者の世界から来る…
こうしたことから鳴き声を聞くことに意味を見出していたようです。
(清少納言はほととぎすの鳴き声を聞きに、郊外に出かけています)

暑いなかにもすこーーーーーし秋めいた気配もないわけではない昨今。
特に日暮れは早まってきたように思います。それは明け方もしかり。
平安時代の恋人たちの夜に思いをはせて夏の暑さは…しのげませんが、、
皆様もご自愛ください。









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