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ガハハ先生ー生態系サービスの見せる化#1/4

ガハハ先生の農業概論の別バージョンー20年後の将来の姿として、「イノベーションの未来予想図」という書籍に寄稿したものをアップしときます。

2041年5月のある水曜日の午後、ガハハ先生の研究室を、なるほど君とデモネさんの学生二人が訪ねた。オンライン主流のなか、稀少な週一回の対面でのオフィスアワーの時間だ。
 
〇農業・農村が提供する価値って
ガハハ:いらっしゃい。よく来たね。今日は、技術革新に支えられて、農業・農村が提供する価値の「見せる化」が進んでいることについて考えてみよう。先週のおさらいだけど、そもそも農業・農村が提供する価値って、どんなものだったかな。

なるほど:農産物だけじゃなく、洪水の防止や土壌の生成、農村の景観、地域の食文化なんてものも含まれるんですよね。市場での取引に馴染みにくいものが多いことに要注意。経済学の講義では、外部経済の典型例とされてましたよ。

ガハハ:ばっちり、ご名答。じゃあ、農業生産で、「短期価値の追求が長期価値を毀損」した具体例って覚えてるかね。

デモネ:昔のアメリカ農業ですよね。「土壌とは生命体である」ことを忘れて、短期的な経済合理性を追求した結果、地面の沈下だけでなく、農耕地そのものを消滅させてきたというお話でした。

ガハハ:そうそう。他にも、農産物供給という価値を性急に追求して、土壌や水質、生物多様性などの他の価値を損ねてしまった例は枚挙にいとまがないんだ。農業生産は基本的には環境に負荷をかけるものだけれど、人間が生き残っていくためには必要不可欠。持続性確保のためには、上手く折り合いをつけてかなきゃいけない。市場の失敗をどう克服するのか、私は価値の「見せる化」がポイントだと考えている。二人には、ICTなどの技術を利用した見せる化の具体例を調べて来るようにお願いしたけど、どうだった。

〇価値の「見せる化」の具体例は

なるほど:僕は、農業生産の現場でどんな工夫がされているか実家の父親に聞いてきました。正直、あんなに電子地図(GIS)と携帯端末が駆使されてるなんて思ってもみませんでした。筆ポリゴンって言って田畑の輪郭を線引きした電子地図に、種を蒔いた日、農薬や肥料を投入した日や量など作業データを紐づけて管理してるんですよ。さらに、携帯端末で、作物の生育状況や病害虫の発生状況などの画像を撮影、送信して診断サービスを受けたり、付属の測定キットを使って土壌中の微生物群のDNAを分析したりと、データ分析の結果を筆ポリゴンに紐づけて、その結果を見ながら、次の生産に活かすことが行われていました。

デモネ:微生物群のDNA分析って、どういう風に役立てられてるの?
なるほど:土壌中の微生物群を把握することで、土壌の栄養バランスを診断して健康な土づくりの取組に反映することに始まり、先進的なところでは、収穫量アップを期待できる微生物を特定して種にまぶしてから蒔くなんて技術も導入されてるんだ。他にも、気象情報や過去の収穫実績なんかの関連データも経営管理ソフトを使って電子地図上に紐づけられて、一覧性のある形で農家がチェックできるようになっていて、経営のPDCAサイクルが回っている。収益のシミュレーションもできるので、長い目で見て、持続的な農法を採用しようというモチベーションにもつながっているみたいだ。僕が面白いなと思ったのは、圃場周辺でクモを捕まえ、おなかの中をDNA分析して、どんな害虫を捕まえて食べているかを把握していたこと。水田や畑が開放系の空間で、周辺の環境との間で相互に影響を与え合っていることをデータで実感できたよ。

ガハハ:よく調べたね。このような個々の農家によるデータ測定が進んだので、AIプログラムのための教師データが容易に入手できるようになって、農業関連のサービス事業が活性化してるんだ。例えば、農家が携帯端末から、圃場情報と作付予定の作物と日付を送ると、AIが、どんな病害虫がいつ頃発生する可能性が高いか診断して返信してくるようになっていて、そのリスクに応じて農薬や化学肥料の使用を減らす計画などが簡単に立てられるようだよ。朝、天気予報の降水確率を見て傘を持って行くかどうか決めるみたいに、病害虫の発生予報を見て、より低コストで、環境負荷の少ない、それでいて、収穫量の落ちない農業生産が実現できてるんだね。

【#2に続く】

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