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学祭公演『おとしもの』12

「もう一度、問おう。私の息子はどこにいるんだ?答えによってはタダで返すわけにはいかないから、心して答えるように」

王様の言葉に緊張が走る。
女性は言葉を選びながら答えた。

「王様・・・こうして突然、お伺いしたご無礼をお許しください。急を要する事態でしたので、致し方なく・・・」
「そんなことはよい。それより早く本題に入りなさい」
「はい・・・」

女性はどう説明したものか判断し兼ねた様子で青年の方をちらりと見た。
青年は俯いたままでとても役に立ちそうはない。
仕方がないので女性は何かを決意した様子で話し始めた。

「私は今日・・・ある人物に出会いました」
「ある人物・・・?」
「はい。その人は何か探し物をしている様子でした。とても困っているようでしたので、何を探しているのか声を掛けました」
「何の話だね?息子のことではないのか?」
「王子様と関係することです。無礼を承知で、私に5分ほど説明の時間をください」
「・・・よかろう。急ぎの用はないが私も暇ではないのでな、手短に頼む」
「わかりました」

女性は少し間を置いてから話し始めた。

「その人が探していたのは名前でした」
「名前・・・?」
「はい。名前を落としてしまったから探しているのだと」
「馬鹿馬鹿しい・・・」
「私も最初は怪訝に思いました。名前を落とすだなんてあり得ませんからね。でも、必死で探している彼を見ているうちに、助けてあげたいと思ったんです」
「君はえらくお人好しなもんだ。それともただの暇人か・・・」
「彼には何かシンパシーのようなものを感じました。初めて会った気がしないというか・・・」

王様は女性の目をじっと見つめて。
嘘をついてこの場を切り抜けようとしているのではないかと疑ったのだろう。
しかし、女性は嘘をついている様子ではない。
諦めて話の続きを促した。

「つまり彼は、一種の記憶障害のようなものに陥っていたのです。自分が何者か思い出せないということです」
「それなら話は早いではないか。ただの記憶喪失・・・そう言ってくれれば分かりやすいのにどうも話が回りくどい」
「これがどうやらただの記憶喪失とは訳が違うようでして・・・」
「・・・どういうことだ?」
「自分の名前と家族に関する記憶だけが欠落しているようです。通っていた小学校や大学時代にお世話になった先輩のこと、法律に関する知識などはしっかりと記憶しているようなのです」

青年は、女性に自分の症状を説明されているが、なんだか他人事のように王様と女性の会話を聞いている。
王妃に関しては、王様の後ろに立っていて、ずっと腕組みをしながら話を聞いている。
どこか怪しい点があったら、それを逃すまいといった様子だ。

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