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学祭公演『おとしもの』11

舞台が一度暗転し、程なく明転すると深々と椅子に腰掛けた男とその隣に気品を感じさせる女性が立っている。
男は王冠を被っており、どこから見ても王様だ。
その隣に立つ女性もまた、ドレスを身に着けていることから王妃と言ったところだろうか。
よく見ると先程の裁判官と女検事と同じ役者である。
この劇団は人不足なのだろうか。
裁判官に関しては教師役も兼任している。
だが、先程まで別の役を演じていたと感じさせないほどに王様の威厳を発している。

「なに?・・・息子が帰ってきたとな?」
「この一か月四方探し回ってどこにもいなかったあの子が、自分からこの城に戻ってくるなんて信じられない・・・」
「うむ・・・息子の名を語り、この城の富を奪おうという不貞の輩かもしれないな・・・?」
「そんなの許せないわ。息子の帰りを待つ私達の気持ちを逆手にとって盗みを働こうなんて・・・すぐに追い返しなさい」
「まあ、待ちなさい。聞けば、相手は二人組。一人は女性と言うじゃないか。たとえその二人が盗賊だとしても、この城の兵士ですぐに捕らえられるだろう。とりあえず、話を聞いてみないか?その上で、息子ではないと判断した時点で、死刑でも市中引き回しでも何でもすればいいじゃないか」
「それもそうね・・・じゃあその二人組をここに連れてきなさい」

しばらくして、下手側から青年と女性が「失礼します」と畏まった挨拶をして入ってきた。
女性は緊張している様子で、その後ろをついてくる青年は辺りの様子を窺いながら恐る恐る歩いている。
そして、王様の前に2人並んで立った。

「息子が帰ってきた、と言っているのは君たちかな?」
「はい。王子様を連れてきました」

王様の問いに女性が答える。

「それで・・・息子はどこに」
「え?」

青年の顔を見ても、王様はもちろん、王妃も何も言わない。
もしかすると、王子様ではないのかもしれない。
青年は無言で踵を返し、引き返そうとする。
それを女性が「待って待って」と止める。

「ほら、やっぱり僕は王子じゃないじゃないか」
「いやいや、あなたに気が付かないのもあなたの名前が失くなっちゃったからだって。誰もあなたが王子だったってことに気が付かないようになってるんだよ」
「だとしても親だったら、子供の顔ぐらい気づくはずだ」

2人が口論しているのに見かねて、王様が声をかける。

「どうしたんだ?揉めているようだが」
「いえいえ。連れが急にお手洗いに行きたくなったみたいで」
「それは困るな。どこの馬の骨とも知らない人間に城の中をうろつかせるわけにはいかんからな」

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