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【高校音楽Ⅰの授業実践④】ジグソー法によるバッハの授業④

 福島県立安積高等学校で実際に行っている音楽の授業を紹介します。

 今日のテーマはJ.S.バッハが作曲した名曲中の名曲「マタイ受難曲BWV244」の4時間目です。①で説明した通り、この曲は、マタイの福音書に基づき、イエス・キリストの最期の3日間を、修辞学など当時の作曲技法の粋を集めて描いたものです。

 4時間目のこの時間は、プレゼンテーションとなります。

過去の記事はこちら
 1時間目「ジグソー法によるバッハの授業①」
 2時間目「ジグソー法によるバッハの授業②」
 3時間目「ジグソー法によるバッハの授業③」

プレゼンテーションの条件

 この時間は、3時間目のジグソー活動の成果を以下のシチュエーションで発表します。

 あなたが大人になって、小学6年生の自分の子どもから「バッハってなんでこんなに有名なの? どこがすごいの?」と質問されたとします。
 配付された楽譜(第14曲)をもとに、バッハの魅力を自分の子どもにわかるよう解説してください。解説の中では、必ずピアノなどで実際に音を出して伝えてください。

 このような設定にしている理由は、私のライフワークというか授業の根底にある問題意識にあります。

条件設定の背景

 それは、私が教員になりたての頃、ある論文のデータにショックを受けたことに始まります。「小学校の音楽の授業は楽しかったか」と「自分のこどもは小学校で音楽を学んでほしいか」という質問を、それぞれどの学習指導要領で学んだかで分けた意識調査の結果です。

平成21年度は筆者の当時の勤務校のもの(平成10年公示学習指導要領準拠)

 昭和33年公示の学習指導要領による小学校6年生の音楽の授業では、「ハ長調,へ長調,ト長調,ニ長調,イ短調,ニ短調およびホ短調の旋律ならびにそれらと同じ調号をもつ日本旋法の旋律を視唱する。」ことが求められていました。
 次の昭和43年7月に公示された学習指導要領では若干緩和され、♯・♭1つまでの移動ド唱法による視唱や視奏を求めています。ちなみにこの世代の中学校では、♯・♭3つまで。和音ではⅤ7やⅡの和音が含まれます。
 たしかに、自分が子どもの頃の授業では、ピアノの和音を聞いて1とか5とか指の本数で和音の種類を示すような授業がありました。

 ト長調,ホ短調およびそれらと同じ調号を書かれた日本旋法の旋律を視唱・視奏すること。また,視唱・視奏した旋律を写譜すること。
 長調および短調のⅠ,Ⅳ,Ⅴの和音による和声進行の聞きとりや記譜や終止形合唱・合奏をすること。また,旋律との協和・不協和や終止の違いを聞き分けること。
 歌唱指導においては,移動ド唱法を原即とする。

昭和43年公示小学校学習指導要領(音楽6年生)より抜粋

 これはさすがに難易度が高すぎる。今の高校生でも受講生全員となるとかなり難しいでしょう。なにせ「移動ド」一択ですから。

 「こんなことばかりやっていたら音楽が嫌いになってしまう!」

ということで、ここからどんどん学習指導要領の楽典事項は、いわゆる「ゆとり教育」に向かって易化の歴史をたどります。それに伴い、順調に音楽の授業が楽しいと感じる人が増加していきます。

ところが!!!!

 「自分の子どもには小学校で音楽を学んでほしいか?」という問いでは、完全に逆の結果となっていたのです。

平成21年度は筆者の当時の勤務校のもの(平成10年公示学習指導要領準拠)

 近年の音楽の授業はとても楽しい。でも自分の子どもにはこのような音楽の授業が必要であるとは思えない。
 このままでは、学校教育から音楽の授業が消える!

「どげんかせんといかん」

 なんとか「自分の子どもにも、学校でぜひ音楽教育を実施してほしい」と願ってくれる未来の大人を育てないと・・・・。
 そんな想いが、このような条件の設定や授業の構成の背景にあります。

プレゼンテーションの様子

電子黒板に解釈を表示しながら解説する生徒

 さて、実際の授業の様子ですが、各グループとも、とても面白いプレゼンテーションをしてくれます。たまに、あまりにもこじつけのひどいチームもありますが、3時間目のジグソー活動の段階で「この解釈にはグループ全員が納得してるのかな?」などと言葉をかけてあげれば、おおむね独りよがりの解釈は減少します。これもグループ活動の利点といえます。この授業は、管理職の先生が参観に来てくれることも多いのですが、いつも生徒の発表に驚いて帰って行かれます。

授業後のアンケートの結果

 生徒の様子を長々と書くよりも、アンケートの結果の方が端的に伝わるかもしれません。
 参加生徒の63.3%がバッハの魅力を伝えることができたと回答。

 楽譜から魅力を発見する力がついたかどうかという問いでは、72.5%がついたと回答。

 そして、学習活動に対する積極性では、なんと87.1%が(内、55.0%が最高評価)がポジティブ評価をしている。

 授業によってバッハに対する感じ方が変わったかどうかという問いでは、99.1%が変わったと回答し、36.7%が自分の子どもにもバッハの魅力を伝えてあげたいと回答してくれました。

 ジグソー法を使った学びについても97.2%がポジティブな回答をしています。

 今回の授業で何を学んだか?という自由記述の問いに対して、生徒が書いた文章の一部を紹介します。

「バッハはキリストの話を曲にする中で、さまざまな修辞技法を使用していていてよく考えて作曲していたことがわかりました。また、その技法は現代のポップスにおいても活用されていることが分かりました。」

「ピアノでBachの曲を練習していたときは、音符の深い意味を考えていなかったが、今回の授業を通して、この授業に参加していない人にBachの良さを伝えられるぐらいに理解ができた。以前、オーケストラ練習で指揮者の方が『譜面に印刷されているものにはすべて意味がある』と仰っていた理由がわかった。現在音楽に触れる機会が少なくなってしまったが、今後Bachを聴く際には今回授業で学んだことを活かしていきたい。」

「このような自ら情報を集めて内容を練り発表するという授業をあまり受けてこなかったので少し戸惑ってしまった。しかし、友達と意見を出し合うことで謎が解けてきたので、知恵を出し合って一つの課題を解決する大切さを学んだ。」

「楽譜には作曲者の表したい情報がこんなにも隠されているのだということ、知識を持ち寄って新しい工夫に気づく楽しさを学ぶことができた。綺麗な旋律だ、すごい和音だという基準ではなく、根拠を見つけて『すごい』と言える人になりたいと思った。」

生徒の感想(原文のまま)

 音楽室を出ていく生徒が、目を輝かせながら「びっくりしたー」とか言っているのを聞くたびに、自分のライフワークに一歩でも近づけているのかも・・、 と嬉しくなります。
 以上で、全4回のジグソー法に関するバッハの記事はおしまいです。ここまで長文をご清聴? ありがとうございます。

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               (文責:鈴木敦)


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