能あるおじさんは爪を隠す。第4話(note創作大賞2024 お仕事小説部門)
中島くん
「お電話ありがとうございます。プレイングアース、カスタマーセンターの中島がお受けいたします。」
ワントーン高めの笑声で受電する声が社内に響いた。
23歳の中島くんは「プレイングアース」でカスタマーセンターと居酒屋のアルバイトをかけもちして生計を立てながら、バンドでメジャーデビューを目指して活動している。
ヴォーカリストなだけあって、聞き取りやすくてさすがの発声である。
プロの世界に入れるのはほんの一握り。
さらにそこから人気バンドになるには、実力や人間力、言語化できない何かカリスマ性のようなものを持っている人なのだろうか。
その領域に到達できるように、YouTubeやtiktokに動画をアップしたり、ライブハウスでライブをしたり、音楽制作をする日々を過ごしているようだ。
中島くんとは一緒に仕事をしてかれこれ1年ほどになる。
引き継ぎの抜けや漏れなどのポカをやらかすこともあるけど、
金髪坊主のイマドキな若者の見た目に反して、愛想が良く受け答えや敬語もきちんと使えて、ちゃんとよそ行きのワントーン高めの声も出せるのでカスタマーセンターでの業務は向いているタイプだと私は思っている。
上司の入れ替わりで業務が混乱していても、やることに集中してくれる、年下だけど頼りになる存在でもある。
ノリが良く、いじられてもリアクションがいいので大林さんにも気に入られて、よく2人でアホなやり取りをしている姿が微笑ましい。
「あぁ〜、申し訳ございません。その時間はもう定員いっぱいで予約が難しくなってまして。他の日時ですか?はい、確認します、はいはい、確認しますので少々お待ち下さい。」
そんな中島くんはときどき感情を持っていかれる。
「なんだよ、そんな焦って聞かれてもすぐわかんねぇよ、ん〜」
保留中に独り言を言いながらパソコンの画面とにらめっこしている。
私も独り言が多いタイプなので、考えてることが口に出てしまう気持ちがよくわかる。
「お客様、お待たせいたしました。…え?あれ?」
中島くんが保留を解除して通話に戻ったものの、様子がおかしい。
「あれ?保留音鳴ってる…。あれ?え?」
もう一度保留ボタンを押して保留を解除した。
「もしもし、お客様、お待たせいたしました。はい。あ…」
「申し訳ございませんでした。」
保留ボタンを押し忘れていたようで、独り言が筒抜けになってしまっていた。
ぶつぶつ言っていた内容が内容だっただけに、お客様は気分を悪くしてしまい、詰められている中島くん。
「はい、私の不徳のいたすところでございます。申し訳ございません。」
何度も何度も謝るものの、なかなか電話が終わる気配がない。
確かに中島くんのつぶやきはよくなかったけども、そんなに何を言ってるんだろう…と思い彼のPC画面を覗いて顧客データを見ると、
「時間ないから早くしてくれる?」とオペレーターを急かしたり、納得のいく回答じゃないと「全然お客側に寄り添ってないルールなんですね。」と言ってくる等の履歴が残っていた。
「これは相手が悪いな…」
私もこの手の人とはうまく話ができない。
変わってあげたい気持ちはあるものの、
情けないが解決できる気がせず、見守るしかなかった。
すると様子を見ていた大林さんがスッと中島くんの横に立った。
「オレ、変わろうか?」
自分のことを指さして電話している中島くんにそのまま話しかけている。
『電話中に伝えたい事があるときはメモを書いて渡す』と一般教養として教わったけど、直接声をかけるなんて。
もし小野さんに対してやった日には後からネチネチと
「あのさ、電話中なの見てわかるでしょ?伝言があるなら話しかけないでメモで渡す!こんなの社会人として常識!」
とお説教が待っている案件だ。
だが、大林さんは一般的に見れば注意する側の立場のはずなのだけど、堂々と話しかけていて私が驚いたくらいだった。
中島くんには悪いがちょっと笑ってしまった。
「あ…、すいません、少々お待ち下さい。」
そう言って慎重に保留ボタンを押して保留音が流れているのを確認してヘッドセットを首にかけた。
「オレ変わるよ、電話転送して。」
「あ、え、いいんですか?」
「うんいいよ。変わる変わる。保留になってなくて声が聞こえちゃったんでしょ?それくらいのことでしつこいね。バシッと言ってやるよ〜」
「あ、じゃあお願いします。すいません。」
大林さんが軽快に電話を引き継いだ。
「もしもし、すいません、お電話変わらせていただきました、カスタマーセンターの部長をしております大林と申しますー。」
いつになく明るいよく通る声色で電話を変わった。
「すいません、横で電話を聞いておりまして、はい、この度は申し訳ございませんでした、ええ、ええ、おっしゃるとおりです。」
さすが営業のプロ、謝り慣れている。
「そうですね、ちょっと検索システムが複雑なこともあって、なかなかすぐに私たちでも情報をパッと見れなくて、お時間がかかってしまうんですよー。すいませーん。
ちょっとじゃあ、今希望の日時に変更できるかコンピュータで見ますので少々お待ちくださいね。あはは。すいません」
謝罪がたった1回で終わってしまった。さくっと謝罪して本題の話しを進めている。
「あ!この日!ありますあります!14時からの枠、まだ空きがありますよ!よかった〜、ここで大丈夫ですか?」
オーバーめなリアクションでよかった感を演出するために更に声が響き渡った。
「はい、じゃあすいません、よろしくお願いします。
私ですか?大林といいます。
なんかあれば私宛に連絡ください。はいー、失礼しますー。」
ものの5分で終わってしまった。
声のトーンとか深みなのか??
謝りすぎてへりくだるでもなく、たった1回だけど確実に心のこもった謝罪に感じる。
「すいません大林さん、ありがとうございました。」
ハラハラしながら見守っていた中島くんが大林さんの席にお礼を言いに行った。
「もう〜、なかちゃん、あれだよ?
今度から悪口言うときはちゃんと保留になってるか確認してから言ってよ?オレの仕事増えちゃうんだから〜。」
と中島くんにちょっとおかしな論点で注意した。
「え、注意されるところそこなんすか?」
的はずれな注意をされて拍子抜けした中島くんだった。
ゆりちゃんと私も思わず笑ってしまった。
「まったく、なかちゃんはしょうがないな〜」
大林さんは嫌な顔ひとつせず、しれっと自分の業務に戻った。
「大林さんに変わるとクレームも大概サクッと終わりますよね。」
ゆりちゃんが話しかけてきた。
「本当それ。なんなんだろうね、この感じ。真似できない。」
「もし私がクレーム入れた側だったとしても、相手が大林さんだったらなんかペースに乗せられちゃいそうです。ちゃんと誠意持って謝ってくれてるように聞こえるんですよね。あんなだけど。」
「あー、それわかるわ。あんなだけど。」
2人とも納得だった。
最近、中島くんの集中力がなくなってる気がしていた。
音楽をやっているのもあって電話しながらリズムを取ったり揺れたりしてガサガサして元々落ち着きがないけど、最近エスカレートしている。
そこに今日の保留ミス事件。
仕事にも慣れてきているし、中だるみの時期なのかな?と気になり始めた。
ちょうど2人共早番で同じ時間に休憩に行けそうなタイミングだったので中島くんをランチに誘った。
「ねぇ、中島くん。今日人数多いし、よかったらランチ行かない?」
カスタマーセンターは同じ早番でも30分ずつ時間をずらして休憩に行ったりしてなるべく人手が残るようにする。
なので同じ部署でもなかなかランチには一緒に行けない。
でも今日はゆりちゃん、大林さん以外にもあと2人いる。
一気に2人で行っても問題なさそうだった。
これまで一度も誘ったことがなかったので断られたらどうしようと緊張しながら誘うと、意外にも食い気味に
「え、マジすか!?行きます!!行きたいです!」
と想定外に嬉しそうなリアクションをしてくれてホッとした。
会社から歩いて5分くらいのところにある、おにぎりがおいしい定食屋さんに連れて行くことにした。
正直、あまり深い話はしたことがないし何をどう喋ったらいいのかわからないままお昼に誘ってしまった。
とりあえず中島くんに話してもらう流れを作ろう。
「中島くんと2人でランチなんて初めてだよね?」
「そうですそうです。なかなか休憩一緒に行けないですもんねー。今日誘ってもらえてめちゃくちゃ嬉しいです!」
まっすぐこちらを見る目が眩しい。
「そんなに喜んでもらえるとは…。あ、おごってもらえると思ってテンション上がってるな?」
「えー、そんなんじゃないですよ、本当です。本当に嬉しいんですって」
「えー!じゃあ今日はおごるから好きなやつ食べなー。」
「マジすか!やったー!」
店につき席に通され、私はおかかおにぎりとチキン南蛮定食、中島くんは梅おにぎりと鮭おにぎり、鶏の唐揚げ定食をそれぞれ注文した。
「しかし今日は昼間から大変だったね。」
「あー、そっすね、やっちまいましたね。」
中島くんはバツが悪そうに片目を瞑って坊主頭をなでた。
「違ったらごめんね。最近いつもより揺れてるというか、なんか貧乏ゆすりのリズムが早いっていうのか…なんて言ったらいいんだろう。なんかあった?」
もっといい聞き方あるだろと自分で自分に突っ込みたくなった。
「あー…、僕、揺れてますか?」
ほら、いらんこと言ってしまったっぽい。
「なんか、リズム取ってる感じ?あ、それはそれで全然いいんだけどさ。私も頭の中に音楽流れたら首でリズム取っちゃうし」
「喜多山さん、揺れてるときありますよね。」
「あ、バレてる!?」
「全然バレてますよ。今日機嫌良さそうとか話してますよ、みんなと。
あ、別に普段機嫌悪いとかって意味じゃなくて。
特別何かいいことあったのかなみたいな」
「うわっ、はっず。」
思わず手で口元を覆った。
「僕も恥ずいっすよ。揺れてるのバレてるの。」
「いや、中島くんは音楽やってるからなんか揺れててもわかるじゃん。
私何もやってないのに揺れてるのはずくない?」
「そうですね、まさか仕事中に頭の中に音楽流れてるとは思ってなかったです。」
2人で笑いながら少しずつ緊張がほぐれてきたところでそれぞれの定食が運ばれてきた。
私が手を合わせて「いただきます」と言ってから箸を手に取ると、すでに箸を持っておかずを掴もうとしていた中島くんは慌てて手を胸の前に持ってきて小さくいただきますと手を合わせた。
温かいお味噌汁がホッと心を和ませてくれる。
「実は、ちょっと情けないんですけど、うまくいってなくて悩んでるんすよね。」
中島くんがポロッと本音のかけらを吐き出した。
大学卒業後、同級生たちは世間の大きな流れに乗って社会に出ていったけど、中島くんはスーツを着て生活のために働くことが想像できなかった。
夢を持たず、いろんなことを諦めて腐ってる大人になんかなりたくない、毎日スーツを着て満員電車で通勤なんて耐えられない。
大好きなUVERworldが自分に勇気を与えてくれたように、人に勇気を与えられるようなミュージシャンになる。
そう夢見て地元から上京した。
「地元の連れは『お前なら武道館満員にできるっしょ!』とか期待の言葉をかけて見送ってくれたんですよ。その気になって、自分ならできるって根拠のない自信もあったんですよね。
でも東京に来て、地元では物珍しく見られてはみ出し者だと思っていた自分と同じ夢を持っている人がゴロゴロいて。
心強くなった反面、すげーやつの才能を見せつけられて、どんどん自信なくなっていくっていうか。」
現実に抗いながら夢に向かって音楽活動を続ける中では、当然思い通りに行かないことの方が多い。
「自分で望んだ道とは言え、ほとんどのレコード会社やレーベルに送ったんじゃないかってくらいデモ音源バラまいたんですけど、どこからも何のリアクションもなくて。アップした動画も思うように再生数伸びないし、ライブやってもチケットのノルマも売れないし。
曲作りしている時間は楽しいけど、この時間は1円にもなってないなって考えちゃって、だったらバイト入れたほうがいいのかなとか考えたりして、想像以上にメンタルが削られるなって…」
食べる手がすっかり止まっている。
「どんな苦労も曲作りの糧になるからって自分に言い聞かせるんですけど、音楽やりたくて東京に来たのに、なんで俺は今カスタマーセンターにいるんだ?って急に我に返るというか、でも生活費は必要だし…。
矛盾してるんですけど、そういう思考がぐるぐるしてる日にミスりますね…。」
いつも明るくムードメーカーでいてくれる中島くんにもそんな思いがあったなんて気づかなかった。
「そっかぁ。そうだったんだね。」
「あぁ、すいません、社員さんにこんなこと言うなんてめちゃくちゃ失礼ですよね。」
さすがに本心言い過ぎたかも、という気持ちが見開いた目から溢れていた。
「ううん、全然。『なんで私はカスタマーセンターにいるんだ?』は私も思うときあるからわかるよ。」
失礼を承知で本音を話してくれてることがわかるから、自然と私の本音が引き出されてしまった。
「まじすか?いやなんか、スーツを着ていないだけで結局生活のために働いてるし、こないだバンド仲間と酒飲んでて、ふと気づいたら音楽業界の愚痴を言って、レコード会社と契約が決まった同年代に『なんかコネあんじゃねーの』とか、売れてないのにフェスに出てる奴らを見て『事務所のゴリ押しだろ』とか嫉妬して管を巻いてたんですよ。
自分も身近な奴らも。
うまくいってなくて文句言って酒飲んで、、、。
なりたくないと思ってた大人像に自分が今なってることに気づいちゃって。
愕然としましたよね」
遠い目をしながらお冷をくっと飲み干した。
「うーん、それは凹むよね・・・。」
こんなとき、何と言ってあげるのがいいんだろう。
「そうなんすよ。だから、俺、ここのバイト辞めようと思います。」
「ん!??」
驚きのあまりご飯が喉に詰まって思わずむせた。
「え、ほんとに言ってる???」
「はい。実は前からずっと考えてて。
業務内容はいろいろ大変だけど、大林さんも喜多山さんもバイトの皆も良い人達ばっかりだし、シフトも融通きかせてくれるし、ここのおかげで生活できてるんでめちゃくちゃありがたいんすけどね。
けど、このままだと、俺自身が自分に嘘ついてごまかしながら生きてる気がして。」
目線を下に落としながらはにかんだ。
ちょっと照れくさいセリフだけど、この金髪坊主のイマドキな兄ちゃんは、自分で納得の行く人生を生きようとしている。
「自分が納得してない生き方してるヤツの作った歌が、誰かに響くとは思えなくて。」
腹をくくった中島くんは清々しい顔をしていた。
「うん、そっか。中島くんがそう思うなら、自分が信じた道を進むのがいいよ。
応援する。ライブするときは見に行くから誘ってよね。」
「マジすか!実は再来月に対バンライブが決まってるんですよ!
来れる人お誘い合わせでぜひ来てほしいっす!」
さすが中島くん、ちゃっかりしている。
早速ライブの日をGoogleカレンダーに登録した。
その後、中島くんはすぐに大林さんに退職の意志を伝え、当月中にバイトを辞めた。
陽キャで可愛がられる中島くんが抜けることをみんなも寂しがっていたけど、これが彼の人生にとって最善の選択だと理解できたので、誰も引き止めはしない。
ゆりちゃんの発案で寄せ書きをプレゼントすることになった。
入れ替わりの多さに、すっかりそういうことをしなくなっていたことに気づいた。
久々にちゃんと誰かが辞めることがさみしく思えるほど、関係を構築することができていたように思った。
思い思いのメッセージや長文を書く中、
大林さんは一言
「人生は送りバント。」
というメッセージを迷いなくササッと書いた。
「え、なんですかコレ、短くないですか?」
ゆりちゃんが突っ込んだ。
「えー?だって、おじさんから言うことなんて何もないよ。これでいい、これでいい。」
「えー!まだ枠あるのにー!埋まらなくなっちゃうじゃないですかー」
ゆりちゃんがかわいくぷりぷり怒ってもスルーする大林さん。
「もう。じゃあ喜多山パイセン、大林さんの分も何か書いてください。絵とか描いてくださいね。」
「はいはい、了解〜!こういうの好きなんだよね。」
大林さんの分の枠も使わせてもらって、絵とこれからの活躍を期待している気持ちを綴った。
最終日に中島くんに寄せ書きを渡すと、各々のメッセージに個性が詰まっていてゲラゲラ笑いながら、とても喜んでくれた。
そんな中でもやはり目に止まったのは大林さんの言葉だった。
中島くんが「大林さん、これ、どういう意味なんですか?」と聞くと
「ん?何も意味なんかないよ。」ととぼけた顔をしてはぐらかされてしまった。
メッセージの真意はわからずじまいだけど、それもなんだか大林さんらしい。
こうして中島くんは円満に「プレイングアース」を卒業していった。
2ヶ月後のライブ当日。
結局カスタマーセンターの他の人は都合が合わず、1人でアンダーグラウンドな雰囲気の下北沢のライブハウスにおそるおそる入って行った。
3組の対バン形式で、中島くんのバンドはトリの3番手。
私が到着した時は2組目の中盤くらいだった。
ぼっち参戦の手持ち無沙汰をラムコークで乗り越えようとちょっと早めのペースで飲み進める。
空きっ腹にお酒がまわってピンと張っていた緊張の糸がほぐれて、奏でられる音とその場の雰囲気に身を委ねる。
2組目が終わりステージ転換の後、中島くんたちのバンドが登場した。
中島くんの歌声はエネルギーほとばしる、伝えたいことがまっすぐに伝わる声だった。ちゃんと、歌がうまい。
かっこつけずに等身大の中島くんから生まれた歌もMCも、心を揺さぶる熱いものが届く感覚がした。
とりわけ最後のMCは印象に残った。
「スーツを着て生活のために働くことが想像できなかった似たもの同士の俺らは、そんな大人にはなるまいと、ミュージシャンとして生きていくと決めてそれぞれの地元を離れて東京に出てきたんだ。
だが、現実はどうだ。
音楽だけじゃ食っていけねぇ。好きだけじゃ生きていけない。
気がついたら生活のために、金を稼ぐために生きてたよ。
ダセェなと思ったよ。
スーツを着てないだけで、なりたくなかった大人と一緒じゃんかよって。
死んだ魚の眼をした大人になってんじゃんかよって。」
背景にメロウなギターサウンドが流れている。
「…ただ、得たものもあったんだ。
憧れのミュージシャンのライブに行くと、仕事終わりのサラリーマンがスーツからTシャツに着替えて汗かいて涙流して楽しんでるわけ。
スーツを着た大人たちは、決して死んだ魚の眼なんてしてなかった。
毎日、誰かのために、何かのために頑張って精一杯生きてる人たちだったんだよ。
俺に寄り添ってくれた音楽があったように、毎日何かのために頑張ってるあなたに寄り添ってくれた音楽があったように、そんなあなたに寄り添う歌を創りたくて、歌いたくて、届けたくて、音楽やってんだって再認識したんだ。」
お酒の力も相まって、目頭が熱くなった。
夢を持たないで諦めて腐ってる大人になんかなりたくない、スーツを着て通勤電車なんて耐えられないと思っていた青年が、社会に出たことで、自分も同じことを経験して、人の心を揺さぶる表現者に一歩近づいたんだね。
きっと、明るい未来が待っているよ。
中島くん、大丈夫。がんばれ。
「最後の曲になります。今日、新曲を持ってきました。
初披露です。自分のため、家族のため、誰かのために、影に日向に頑張るすべての人にこの歌を送ります。
あなたの背中を押してくれる、そんな曲になったら嬉しいです。
聞いて下さい。」
『送りバント』
「あ…!」
大林さんの言葉じゃん。
あはは、なんかインスピレーション湧いたのかな。
きっと中島くんにとって大林さんとの出会いは必要なものだったんだ。
でもこれは、大林さんが聞いたら…。
言いそうなことが予想できてしまった。
中島くんも『大林さん、絶対こういうリアクションすると思うんで、本人には言わないでください…!!』
って言われたけど、大林さんに中島くんの作った新曲の話をした。
「えー、なになにー。なかちゃん、俺のパクったわけ?
印税収入こっちにもまわしてもわらないとね。はっはっはっは。」
予想通りのリアクションに一人でニヤついたのは内緒。
5話
https://note.com/tasty_holly769/n/n5ff90f4686de
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