【創作論】キャラクターを書く時に意識していること。

はじめに。

「星の光に焼かれた目で揺らぎを見つめて魂の羅針盤に従う」

 これだけでは説明になっていませんが、自分が常に意識していること、行っていることは一言でまとめるとこの言葉になります。以下の記事は、この言葉を噛み砕いて言語化したり具体的に何をしているかを書いたものになります。

 ありがたいことに、小説や台本を書かせていただいた音声作品の感想で「キャラクターがとても魅力的だった」「キャラクターが生き生きとしていた」というお声をいただくことが多く、またキャラクターの魅力や生き生きとした様子は自分でも書いている時に意識している部分でした。

 思い返せば、師匠に一番意識させられた箇所でもあります。まだまだ師匠にはまるで及ばず、教えの全てを理解して実行できているとは言い難いのですが、ほんの少しは教えが身についているのでしょう。

 そこで自分が一体何を意識しているのか、どんな風に書いているのか、それを自分が忘れないように備忘録的にまとめようと思い至ったのです。以前より親しくさせていただいている他の作家の方々からの要望も多かったので良い機会だと思いました。また、師匠の教えを忘れきってはおらず、教えられた当初よりは理解できている今のうちに文章にして残そうとも考えて筆を執った次第です。


前提.自分はキャラクターの本質や魂、適切な台詞の正解は、最初から存在しているものだと考えています。閃いたり作り出したりするものではなくて、存在する正解を見つけ出して書いてやれば自然とキャラクターの魂を書くことができる、という思想です。これは師匠と自分の共通認識でしかなく、普遍的なものではないと思いますので、人によっては全く参考にならないことも考えられますが、あくまで自身のノウハウと師匠の教えの解釈をまとめた備忘録ですので、悪しからず。


1.キャラクターの魂や本質を見つけよう。

1−1.自分はキャラクターのどこに魅力を感じるのだろう?

 自分はヒロインの魂や本質に惹かれています。

 では、どういう部分に魂や本質を見出しているのかというと、わかりやすく言えば「その子らしさ全開の台詞」に自分は見出しています。

 例えば二次創作物を読んだ時、原作にない台詞だけど「このキャラは絶対こういう場面でこういう言葉遣いでこういうことを言うよね!」となるのはそのキャラクターの本質がそこに現れているからだと思っています。

 自分はオリジナルばかり書いていますが、そういったキャラクターの魂や本質が現れている台詞を書けた時に「魂が籠った」とか「本質を捉えた」とか「正解を引いた」という実感を覚えます。


1−2.キャラクターの「その人らしさ」って何?

 属性や役割に囚われない、その人本来の思考や想いが言葉になったものだと思っています。核となる部分を本質や魂としたらその表面を覆っているものが属性や役割でしょうか。

 例えば、「お兄ちゃんをバカにして挑発してくる生意気なメスガキ妹ちゃん」というキャラがいたとしましょう。「お兄ちゃんをバカにして挑発してくる」のは役割で、「生意気なメスガキ妹」というのは属性ですね。だから「えぇ〜? おにーちゃんってば妹のロリおっぱい見せ付けられてドキドキしちゃうのぉ〜? よわっち〜い♡」という台詞は役割や属性に則した台詞なわけですね。

 では、本質や魂が現れている台詞はどんなものかというと、役割や属性から離れた台詞を書く時に「これだ! この人は必ずこういうことを言う!」と確信を持って書くことが出来た台詞にそれらが現れていると考えています。

 役割からも属性からも離れたところ、表面上はキャラがブレたようにさえ見える部分にこそ、キャラクターの本質や魂が現れているのだと考えられます。


1−3.どうやって役割や属性から離れた台詞を書く?

 自分は手法として、わざと“揺らぎ”を作っています。自分でもどうなるかわからない、属性や役割から離れたシーンでどんなことを言うのかを探して「これだ!」となるものを見つけています。

 例えば「お兄ちゃんをバカにして挑発してくる生意気なメスガキ妹ちゃん」が、失恋してひどく落ち込んでいるお兄ちゃんの姿を見たとしましょう。役割や属性に則すのであればそこでも「えぇ〜? お兄ちゃん振られちゃったのぉ〜? ダッサ〜♡」と言ってくれるでしょう。でも、そこで役割や属性から離れたらどんな言葉をかけるのだろう? 人によっては「ここでは絶対に励ます! だって妹ちゃんはお兄ちゃんが好きだから意地悪するのであって、本気で嫌いなわけじゃないから!」と考える人もいれば、「いつも通りバカにしてきてから優しくしてくれる!」とか「普段と変わらない態度を取ることで励まそうとする」とか「優しく甘やかしてくれる」とか考える人もいると思います。でもここは、作者が正しくキャラクターの深堀りや思考回路の把握ができていたら「これしかない!」と作者も読者も感じる正解を選ぶことができると思います。だから、キャラクターの深堀りや思考回路の把握ができていて、魂の羅針盤と心眼(詳細は後述)を備えているのであればきっと大丈夫だと思います。


1−4.魂の羅針盤と心眼

 自分の心のセンサーにあたるもの。自分はこれを心眼と呼んでいます。自分の師匠の言葉に「雨が降る。雨粒が当たる。冷たいと思う。そこで人は自分に冷たいと思う心があることを知る」というものがあります。

 心は本来暗闇に覆われており、自分にさえ不明瞭で理解できない領域です。だから人は自分が何に感動するのか、怒るのか、面白さを覚えるのか、最初は何も知らないわけです。でも、外部からの刺激を受けて心惹かれたり心動かされた時、人間は「自分ってこれに感動する心があるんだ」と知ることができる。暗闇に覆われた心の一部に外部から光が当たって、その部分が光にどんな反応するのかを見つめるものを自分は魂の羅針盤と呼んでいます。

 そして、光が強く当たった箇所、そこが心眼になる部分です。外部からの刺激を受けて、どんな刺激にどんな反応をするのかを把握できる箇所。

 まず、“揺らぎ”を作って「この場面でこの子はなんて言うのか」を心眼で探し出します。そして「これだ!」となった時、魂の羅針盤でその心眼の判断が正しいか否かを判定します。その判定でも正しかったものが本質や魂が現れている台詞なのだと思います。

 まとめると、主観で「これはいいぞ!」と反応するのが心眼で、その心眼の反応を客観的に正しいかどうか判断するのが魂の羅針盤です。


1−5.どうやってキャラクターの力や深堀りをする?

 自分は一度原稿とは別に短編を書いたり「こういう場面でどんなことを言うキャラだろう?」と意識してシチュエーションの台詞を書いたりすることが多いです。

 その他にはキャラクターの履歴書を作ったり、創作キャラに100の質問のようなものに答えたりしてキャラクターの人柄や人物像を捉えています。


2.キャラクターの魂や本質を読ませよう。

2−1.星を打って星座を描かせる。

 作者が適切な位置に適切な星が打てていれば、読者がそれを繋いで星座を思い描いてくれる。

 「台詞だけで表情や仕草が思い浮かぶ」とか「キャラクターが生き生きとしていて魅力的」と言ってもらえるのはこの部分のおかげなんじゃないかと思っています。

 キャラクターの魂や本質が現れている台詞を過不足なく書く。そうするとわざわざ説明しなくても読者の方で「このキャラクターはこういう人間なんだな」と本質や魂を見出してくれます。そして、魂や本質がしっかり伝わっているなら表情や仕草が書かれていなくても読んだ人は「この子はこんな表情で話しているに違いない」「ここではこんな声で喋っているに違いない」という風に、最もそのキャラクターらしいものを想像してくれるのではないでしょうか。この、読者が迷わずに想像することを師匠や自分は「星座を描かせる」と呼んでいるわけです。

 そして、星座を描かせるためには適切な位置に適切な星を打つ必要があります。魂や本質が現れている台詞、そのキャラクターらしさが表出しているものを書くことを「適切な位置に適切な星を打つ」と呼びます。こうすることで読者の連想をキャラクターの本質や魂(星座)へとリードさせているのです。だから「このキャラはこういうことをこういう表情で言うよね」という納得できる想像を読者にさせることができるのだと思います。


2−2.星を打つ時に意識していること。

 適切な位置に適切な星を打って星座を描いてもらうためには、そもそも自分がキャラクターの本質や魂を見つける必要があります。そこで、上述した心眼と魂の羅針盤をセットで運用することが必要になってきます。

 キャラクターのどこに、何に惹かれたのかは明言できないけれど、確かに惹かれたものがある。その惹かれた何かを見つけるのが心眼の役割で、心眼が狂わずに働いているかを確かめるのが魂の羅針盤です。「自分はこれに心惹かれている」と知らせてくれるのが心眼。「確かに心がこれに惹かれている」と確かめるのが魂の羅針盤ですね。

 その二つが「これに間違いない!」と選んだ台詞を書くことで、自分は適切に星を打つことが出来ているのだと思います。


3.どうやってキャラクターの魂や本質を書く?

 正直、自分でさえ2の項目で書いた内容を常に毎回出来ているわけではありません。書き慣れたキャラクターなら割とすんなりいくのですが、どうにもなかなかキャラクターの理解が浅い時などは全然わからないことがあります。

 以下に記すのは、そういう時に「書きながらキャラクターの魂や本質を探る」という手段をとった際に行っていることです。音声作品の台本のようなヒロインの台詞がほとんどの割合を占める時に用いることが多いです。


3−1.無数の星を夜空に打つ。

 想像できる限りの全てのパターンを書く。口調も言葉の順番も感情、なんなら「私、貴方のことが大好き♡」も「私、貴方のことが大嫌い♡」くらい真逆なものも書きます。とにかく思いつく全てです。

 そしてその次の台詞も思いつく限り書く。Aパターンに合わせた台詞、Bパターンに合わせた台詞というだけでなく、Aパターンに合わせた台詞のAパターン、Aパターンに合わせた台詞のBパターン、という風に自分で原稿を書きながら読んで思いついたものを無限に書いていくわけです。


3−2.適切に打てた星だけを残して星座を描かさせる。

 さあ、全てのパターンの台詞が書き揃いました。夜空一面に無数の星がある訳です。しかし、これを読んでも読者は何が何だかわかりません。星座を描くことができないばかりでなく、そもそも無数にあるパターンの台詞のどれを読めばいいのかすらわからないわけです。

 そこで心眼と魂の羅針盤の出番です。その二つを用いて「これだ!」となる台詞だけを残してあとは全て消していくのです。適切な位置に適切な星を打つ、を引き算でやるわけですね。そうすれば最後には読者が星座を描くことのできる星だけが残ります。このやり方を用いて音声作品のシナリオを書くと、執筆した内容の八割は消すことになります。二万文字のシナリオのために十万文字書いて八万文字消すわけですね。地の文や主人公の台詞も用いる小説なら四割削除くらいです。推敲でしっかり四割削ることに成功した作品は評価が高い傾向にあるので、手間に見合う効果は得られているかな、というのが実感です。


3−3.最も適切な星座を描かせる。

 全くわからないほどではないが、本質や魂を完璧に把握はできていない時に用いている手法です。そういう時はだいたい、心眼と魂の羅針盤が「これだ!」と決めかねているか、複数の星を「これだ!」と指してしまっているかのどちらかです。

 こういう時は心眼と魂の羅針盤に従って「これだ!」というものを選んだ原稿を複数パターン書いてしまいます。例えば「意地悪巨乳後輩ちゃん」だとしたら「メスガキっぽい口調」と「丁寧語口調」と「淡々と馬鹿にしている口調」の三つを書いて、それを混ぜたり並べたりしながら心眼と魂の羅針盤を用いて最も本質や魂が現れているものを選んだり、現れるように組み替えたりして「メスガキっぽさと丁寧語と淡々とした口調が使い分けられたり同居したりしている原稿」を作るわけです。三つのパターンのどれにも魂や本質の欠片は現れているのだから、融合させればより強く表出させることができるわけですね。例えば「自発的に煽る時はメスガキっぽい口調で、主人公の情けない姿に対するリアクションは淡々と馬鹿にしている感じ。丁寧語そのものは常に崩れない」のようなものにすることで「抵抗しようとしたり耐えようとしている主人公を挑発する時はノリノリだけど、主人公が情けない反応をしたりマゾ堕ちして従順な犬になったりしたら淡々と責めてくるヒロイン」となり、読者に「マゾに堕とす工程が好きなのであって、マゾそのもののことは心からバカにしているしている子なんだな」と見せることができるのだと思います。

 こういう、複数の星座を自分で描いてみてから取捨選択して一つの星座を描かせる星を打つことで、最も美しい星座を描かせることができるのだと考えています。


4.まとめ

「①キャラクターの本質を見つける→②本質を連想させる言動を書く」キャラクターの魅力を出すためにやっていることは、端的に言うとこの二段階です。

 最初に書いた「星の光に焼かれた目で揺らぎを見つめて魂の羅針盤に従ってください」というのは、「自分の心が惹かれる“その人らしい”言動が出るまで、キャラクターを設定や属性から離れた状況で動かしてみる」ということです。こうやって見つけた「その人らしさ(魂、本質)」を表現するために、「星を打ち」ます。星を打つというのは、その人らしさを連想するきっかけとなるような言動を書くことです。ここで適切な表現を選択する(適切な位置に星を打つ)ことができれば、伝えたい「その人らしさ」を読者が適切に連想してくれます。これが「適切な位置に適切な星が打てていれば、読者がそれを繋いで星座を思い描いてくれる」ということです。

 この適切な表現を見つけるために、思いつく限りすべてのパターンを書いて、心のセンサーに従ってピンと来たもの以外を削る、というステップが有効です。こうやってキャラクターの本質を見つけ、その本質を連想させる文を書くことで、キャラクターが生き生きと魅力的に表現できると考えています。


5.最後に。

 改めて自分で備忘録として書いてみて、すごく抽象的で比喩的な言葉ばかりになってしまったことに驚いています。言葉を可能な限り尽くしたつもりではありますが、分かりにくかったら申し訳ないです。備忘録ではありますが、他人に読まれることを前提ともしていますので。

 もし、自分がここに書き残した手法と同じことや似た方法を用いている人や、ここに書いた手法で作品を実際に書いた方がいれば是非意見交換したいです。

 まだまだ自分自身未熟で発展途上ではありますが、この記事が文章を書く誰かの一助になれば幸いです。

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