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「光る君へ」登場人物考〜藤原道長 第31回

とうとうまひろが源氏物語を執筆し始めた。

源氏物語の成立には諸説あり、若紫の巻からではないかというのが最近の定説のようだが、ドラマでは桐壺の巻から、つまり源氏物語冒頭から執筆している。

これは、道長が実は中宮彰子様をなくさめるためではなく、一条帝に読ませるためにという目的があったのだとすれば、まさに納得。

源氏物語のはじまりは次のような話から始まる。

とある御代、帝が桐壺更衣という女性だけを格別に寵愛し、そのせいでこの更衣は楊貴妃にまで例えられ、後宮の女性たちばかりか公卿たちからも批判の目にさらされる。

しかも更衣というのは女御よりも低い地位。

絶対的身分社会で帝がその掟を破り、女御よりもただ一人の更衣だけを愛するというタブーを犯してしまうのだ。

中宮定子は高貴な身分だという点は異なるが、帝が周囲からの批判も省みず、出家した定子をそばから離さず寵愛するというタブーを犯すという点は同じ。

まひろが書いたものを読んだ道長が、

「これは……。かえって帝のご機嫌を損ねるのではなかろうか。」
というのももっともなのだ。

実は私、こんなふうに源氏物語を読んだことがなかった。
それは前回も書いた通り、(下の記事)

枕草子の中の定子様が、聡明で美しくて、それなのに25歳という若さで亡くなってしまう悲劇の人物として頭の中にインプットされていたからだ。定子様が政治的停滞を招いた原因となるなんてこれっぽちも思っていなかった。やはり恐るべし、清少納言。

さて、その道長だが、高校古典の教科書に登場するのは、大鏡の「弓争い」と「道長の豪胆」。

弓争いは第15回「おごれる者たち」にも描かれているが、実際の大鏡の記述はドラマとは違う。伊周主催の弓の大会が、開かれていたところに、道長がふらりと現れる。当時、官位は伊周が上。これは内大臣伊周優勝が決まっている出来レースのはずだが、道長は意に介さず、バンバン的に当てる。

伊周が2本負けの状態で試合が終わるところを、道隆や周囲の人たちが強引に延長線へと持ち込む。面白くなかった道長は「道長の家から帝や后が出るならば、この矢よ当たれ」と言ってど真ん中を射抜く。
ドラマでは伊周が言い出したことになっていたが実際は道長。伊周は度肝を抜かれて、手をぶるぶる震わせて、とんでもないところに矢を飛ばしてしまう。慌てた道隆が弓の大会を終わらせるという顛末である。

全く忖度しない道長。それどころかやり返している。


もう一つの「道長の豪胆」は、あの花山天皇が、道隆、道兼、道長の3人に肝試しを命じるというお話。

ちょうど5月の末の闇夜、激しく雨が降る不気味な夜。時刻はまさに丑の刻。

道隆は内裏を出たところで、宴の松原(鬼や魔物が出ると当時から噂されていた場所)あたりで、人間のものとは思えない声を聞いて逃げ帰る。

道兼は、かなり頑張って進んでいったが、途中で巨大な人影を見て逃げ帰る。

道長だけが命ぜられた場所に行き、しかも証拠として高御座(たかみくら)という天皇の玉座の柱の根元を削り取って持ってくる。

道長の肝の座り具合をよく表すエピソードである。
ちなみに高御座は、ドラマでは一条帝即位の儀式の朝に生首が置かれていた場所。
これを道長が冷静に処理したとすることで、動じない道長像がよく描かれている。


けっして忖度しない。我が道をゆく。肝が座っている。

誤解を恐れずに言えば、俳優野村周平のような人物。これが私の藤原道長像だった。


だから、第1回で木村皐誠(きむらこうせい)君演じる三郎が出てきた時はもうびっくり。
優しく誠実な好青年、三郎。
こういう道長像があったのか。


それにしても、柄本佑と吉高由里子は結ばれずに終わる恋人同士がよく似合う。
2020年日テレのドラマ「知らなくていいコト」でもそうだったと思って改めて調べたら、脚本大石静氏。佐々木蔵之介も出ているし。

そういうことだったのーと今更気付いたのだった。

さて、来週はいよいよまひろが彰子様のもとに出仕。
源氏物語とまひろの物語が同時進行していくのか?
来週も楽しみ。

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