見出し画像

おひさま香るミカンのような 2話

みかんのように爽やかな人だった。

実は会社をやめて独立した。今は立ち上げが落ち着き、やっと業務が始まったところだ。しかし当然のことながらまだ顧客はほとんどおらず、このままでは運転資金は半年も持たない。
つまり大ピンチだ。会社設立から数ヶ月で潰してしまってはもう目も当てられない笑

ちなみに業種はスポーツジムである。過去のことを知っている皆様から見たら大層影響を受けやすく短絡的に感じるかもしれないが実は元々の業種も似たような業界だったのだ。
noteに書いていた内容にかなりフェイクを入れていたため気づかなかっただろうと思う。
だから起業自体は短絡的にしたわけではなく、一応の計画性を持ってやっている。

それはさておき、実は開業早々大ピンチである。まだ営業段階なので少しずつお客さんを集めているところだが、売上がほとんどないのは精神衛生上良くない。
実は以前の仕事でお世話になっていた会社から小さいがちょこちょこ仕事がもらえているため私自身が食うに困るほどではない。むろん、妻は相変わらず金さえ持ってきてくれれば「私自身」には興味がない様子なので家庭は継続出来ている。(歪んだ形ではあるが)

そのちょこちょこ先で彼女に出会った。彼女はそこでの管理的な立場の人で、私より少し年上の女性だ。
小柄で目鼻立ちがはっきりしており、ピンクゴールドの小さな猫のピアスをいつもつけている。
(また猫か。)なんてこっそり思ったが、もちろん彼女には関係ない。
猫が好きな女が好きなのか?と自問自答したが、おそらく世の中の大半の女子は猫が好きだろうという偏見的な答えをこじつけた。
この人に惹かれたのは些細なことで、たまたまちょこちょこ先にて力仕事を任せられたときのことがきっかけになっている。

オフィスのウッドテラスに置いてある大きなプランターを動かそうとしていた彼女に「手伝いますよ」と声をかけた。もちろん下心など全く無かった。一人で運ぼうとしたことを後悔する重さだったが、なんとかミッションをこなせて良かった。彼女一人でこんなの持とうとしていたなんて無謀だと思った。
そしてその日の帰り際「ありがとう、お礼にこれあげるね。」とドライフルーツのオレンジにチョコをかけてあるお菓子をくれた。オランジェというらしい。
しかも食いかけで、4つ入っていたであろう箱の一つだけ残った状態で寄越しやがった。
笑いそうになりながら「ありがとうございます。」とお礼を言うと、「こっちがありがとうですよ。」と爽やかに笑ってくれた。我ながらビックリするほど惚れっぽいが、実はこれだけでノックアウトだった。
なんと単純なことか。

そして何回か仕事で会っているうちに、連絡先を交換し少しずつプライベートなことを話すようになった。
今では件のプランターの世話をしながら二人で休憩時間に話すのが日課だ。もちろんお互いパートナーがいるため、節度あるオトモダチである。
(何回かランチは食いに行ったが)

彼女を果物に例えると「みかん」だと思う。しかもコタツで食べるやつじゃなくて、夏の暑さの似合う「夏みかん」だ。そして私は夏もみかんも大好きなのだ。

昨年に続き節操のないことだが、まあ私なぞこんなもんである笑
そして多分あっちもそんなもんだと思う。
少なくとも私は彼女のことを意識しているし、向こうも満更ではないだろう。
そこら中にこんな話が転がっているのかもしれない。
昨年のことを皮切りにすっかり「こっち側」の人間になってしまった私は今日もウキウキして彼女にラインを送るのであった。

この記事が参加している募集

恋愛小説が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?