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私は不倫している。第10話:ろくでなし

早朝から体を動かす習慣ができてしまった。毎朝のランニングと筋トレ。食事にも気を使い、彼女の指導通りタンパク質を多めに取り炭水化物をかなり減らした。もともと酒は好きじゃないので飲まないが、スナック菓子類もほとんど食べなくなった。我ながらすっかり健康的なおじさんとなってしまった。

不思議なものでそのような生活に慣れてくると、意外とつらくもなんともない。私の場合、橘絵里に見せても恥ずかしくない体になりたいという想いが強いからともいえるが。彼女は気にしないというが、やはりあれだけ引き締まった体を見ると怠惰に怠惰を重ねた自分の体が情けなくなってくる。だから体を引き締めることにした。彼女と付き合って10㎏もやせた。健康診断が楽しみだ。

彼女は彼と月に2~3回ほど会うそうだ。そういう時は連絡は取れない。LINEの返事のそっけなさから今日は会っているのかと思うようにしている。あろうことか私はその時彼に嫉妬してしまう。好きなのだから当たり前だが、私なんて毎日妻と一緒に寝たりしているのだ。よってそんな権利はない。

なんとも都合よく勝手なのだろうと思う。彼はイケメンでフィアットに乗っててダーツとビリヤードが得意な男性で、橘絵里に少し冷たい。きっとモテる奴ってのは自然とそんな風になるんだろうなと以前話を聞きながら思った。ちなみに私はこの彼が嫌いだ。

しかし、先日自分でもびっくりする感情に気づかされた。彼女が私とのデート中にさらっと「彼と別れようかな」と言ったのだ。その時自分の中に生まれた感情は「それは困る」というものだった。うぬぼれかもしれないが彼女は私のそばを心地よいと感じてくれている。だから彼と別れて私一筋になりたいのではないか。でもそうすると、私は妻と別れて彼女と一緒になるのだろうか?もちろん考えなかったわけではないが、なるべく未来のことは見ないようにしていた。

「それは困る」という感情はおそらく私の本心だろう。これは間違いなく最低の感情だ。私が最も嫌悪する自分に都合の良いチャラい男の発想だ。不倫がもうすでに最低の行為なのだから今更だが、結局は保身に走っている。本当に彼女が好きなら、「良かった、じゃあ俺と一緒になろう。」と言えばいいだけだった。でも私はそれを言えない。結局は自分が一番なのかもしれない。

私はすでに彼女に心を奪われているが、彼女はいつもこの関係にハマりすぎないように注意している節がある。もちろん不倫の先に何もないのを分かっているからだと思うが、私からすれば大したものだ。なにせ私は仕事中も家庭の中でも、妻と出かけた時でさえ、大体私は彼女のことを考えている。そのくらい夢中になっている。もちろん妻には言えないが。

なのに私は橘絵里が彼氏と別れることに「それは困る」と感じるのだ。本当にろくでもない。彼女に幸せになってほしいのに、傍に置いておきたい。彼女の幸せにとって私が最も大きな障害であるにもかかわらず、そんな自分勝手を通そうとする自分に嫌気がさした。

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