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詩80 故郷の母からの電話

僕は愛の本質を見失った
父母の無償の愛を
無惨にも忘却したからだ
しかし僕は強くならなければならない
父がそうしたように妻を守る為に
殆どが金で解決する時代に破産して
人間の尊厳さえ否定される地平線で
涙さえ流すことが赦されない
そのような世界で
そのような一つの宇宙で
生きるしかない生きなければならない
美しい東北の夕雲を見ながら
無感覚の感情に辟易し震えている
故郷の母からの電話
彼是5年は会っていない
親不孝を恨む姿は微塵もない
九州鎖国の夫婦が福島にきたいという
豚骨ラーメンしか知らないふたりに
醤油ラーメンは舌に合うだろうか
そんなどうでもよいことを思いながら
気を張りつめていた糸が緩んで
とても哀しくなった
風がそうさせるのだ
母の声が春を告げて
父の痩せた背中が浮かぶ
遠い熊本と過去を振り返る
しかし何も見えないまま
今日という日は暮れていく
夜に漆黒に月光に盲目の旅人
孤独の彷徨う放浪者は日常に戻る
まるで東京物語のように
子供は親の気持ちを知らぬまま
愛の本質など暗闇に置いていく



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