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「LUPIN カリオストロ伯爵夫人の秘密」感想━世界と趣向を詰め込んだ一大エンタメだけど好みかどうか超割れそう…

 帝国劇場で上演中の「LUPIN」を観劇しました。事前にめっちゃ宝塚っぽいという感想をたくさん目にしたのですが、なるほど!これは確かに、主演俳優ありきで見たい世界と趣向を選び、シチュエーションを詰め込んだ一大エンタメでした。宝塚っぽいのはもちろんなのですが、「世界と趣向」という言葉を使っていることからわかっていただけるかもしれませんが、めっっっちゃ歌舞伎的日本的なつくりのミュージカルだと感じました。フランス人作曲のフランスを舞台にした作品ですが。

 まず19世紀末〜20世紀初頭、ガス灯が電灯になり馬車が自動車になりつつある時代のヨーロッパという時点で、もうその「世界」の作品はミュージカルに限らず無数にあります。曽我物語や源義経並みです。世界定めは、ものすごく簡単にいうとたとえば忠臣蔵をやりたいけど幕府の批判になったら怒られてしまうから忠臣蔵の物語を室町時代という「世界」に移してやっちゃおう!みたいな感じで使われてきたものです。現代のいちオタクとしての私はこれを、「見る前でもただただ好きな俳優がシャーロックホームズやアルセーヌルパンといった役を与えられているだけでなんだかワクワクできる」ものだな〜という感じで享受していいます。宝塚ファンにはかなりわかってもらえると思うのですが、ベルばらじゃない作品でもフランス革命の「世界」が関わってくる物語でマリーアントワネットにキャスティングされた娘役がいたら「お!」となる。そんな感じです。

 そして、性別不明のライバルとの対決や伝説の中に出てくる存在するかわからないロマン溢れるお宝、などなどもうそれはそれはどこかで見た筋立てがこれでもかと詰め込まれ、そこにさらに変装やら決闘やらパーティでの大立ち回りやらたったひとりの本名で呼んでくれる存在やら拷問やら、好きな俳優たちにやってほしいシチュエーションがたっぷりトッピングされています。さらに、俳優も作曲家もミュージカルファンにとっては「みんな大好き!」な人たちが揃った超豪華仕様。

 なのですが、まあそれらの渋滞が激しく、あれ、それをそう使っちゃうの…?とひとつひとつの要素の活かしきれてなさ、納得感のなさが若干気になりました。線としてのストーリーよりも点と点、要素を重要視した宝塚のショーのような部分すらあったので、宝塚ファンや歌舞伎ファン、とにかく好きな俳優のかっこいいところを見たいファンにとっては咀嚼しやすいが細かいところを気にし出すと止まらなくなる作品でした。

 私自身は、今作に熱烈に推しているキャストはいませんでした。題材と音楽と熱烈に応援しているわけではないが素敵なパフォーマンスを見せてくれた記憶のある期待できるキャスト陣に惹かれて行くことを決めた、という感じでした。ですが、熱烈に大好きな役者という存在もいるので、見に行った作品に対して「話ぜんっぜんおもんなかったけど歌がうまいしダンスが上手いしこの舞台に立ててるのがすごいしこの人と共演させてもらえてるのが嬉しいし2億点!!!!!」みたいになったことはめちゃくちゃあります。

 よく、出演者頼みでチケットを売ることが批判されますが、私は「そういう作品もあっていい」派です。歌舞伎のように、演目ではなくその演目をどの役者がやるかが大きな関心ごとである状況に慣れてしまっていますし、トップスターのために作品が選ばれる宝塚に慣れてしまっています。2.5次元を主戦場にしていたことがある役者を応援している身からすると、東宝や梅芸やホリプロが「役者で人を呼ぶぞ!」と思っていそうな作品で好きな俳優を起用してくれるとかなり嬉しいです。なぜなら、2.5次元というのはもともとまだ何の知名度もない役者を、キャラの人気を使って見にきてもらう側面があったからです。役者自身の名前で客を呼べるようになり、実力をつけた好きな役者が、さらに大きな作品に出るための実績がつく。完全に「役者でチケットを買っている人の意見」ですが、こう思います。

 (余談ですが、上記の理由もあって立石俊樹さんが以前帝劇に立った時とはまっったく異なる雰囲気の役でどソロをぶちかましているのを見たときが1番テンションが上がりました。今度はルキーニですかね…!なんて。立石俊樹さんを熱烈に推しているわけではないのですが、これからはグランドミュージカルでもっとどんどん活躍していくからなと言わんばかりに見えました。2.5次元をやっていた人が帝劇や日生のキャストボードに載り、2.5次元を見たことがない人がその名前の載ったキャストボードの写真を撮っているところを見る瞬間からしか得られない栄養があります。)

 ですが、今回はThe 役者とそのファンのための作品!という様子を見て「評判がわかってからチケットを買ったりリセールに出しやすければいいのに…」とかなり思いました。今作は、観劇が習慣になっていない人からの知名度が高い出演者はそこまで多くなく、実際加藤清史郎くんくらいかなと思います。なので今回は何度も帝国劇場にきたことがある方が多い客席だったと思いますが、あと一歩宣伝や話題に「古川雄大初帝劇単独主演!小池修一郎!ドーヴアチア!元男役との対決!」よりも「アルセーヌルパンの話をミュージカルでやるよ!」要素が強かったらテーマそのものに興味を持った方もいたのではと思います。「アルセーヌルパンとシャーロックホームズが出てくる」という部分に興味を持って劇場に足を運ぶ人が今作を見たら、それはそれは置いてきぼりになるでしょう。

 実際、今作の感想ツイート内でよく見かける作品名「カジノロワイヤル」ですが、あの時私はものすごく置いてきぼりになりました。これまで宙組と真風さんがやってきた作品を思い起こさせるシーンの数々、真風さんの魅力をたっぷり堪能させるためのボンド。他組贔屓で、「カジノロワイヤル」劇中で匂わされた作品の中で見たことあるのは「アナスタシア」くらいでしたので、「真風さんはとにかくかっこよかったけど、結局何が面白かったんだ……?とりあえずこんだけナチス敬礼する作品よく世界配信しようと思ったな???」という感じで消化不良でした。

 アルセーヌルパンも007ほどではないにしてもアルセーヌルパン自体のファンがいます。ミュージカルファン以外に人気の役と人気の役者をぶつけるならもうすこし両者のファンに目配せしてほしいなという思いが強まりました。

 カジノロワイヤルやルパンと逆の意味で少しもったいなさを感じたのは「セトウツミ」でした。有澤樟太郎さんと牧島輝さんという、役者さん同士が大変仲良しで、各ファンも2人の仲良しエピソードを楽しみにしている人たちが多いかと思います。なので、セトウツミも「仲良しの2人が企画して2人も楽しそうに演じている、客席がほぼ2人のファンの舞台」という感じでした。しかし、「セトウツミ」という作品そのものがあまりにも舞台と相性がよかったのです。2人はセトとウツミにぴったりで楽しかったのですが、他の役者のファンにも見てもらって「あの人とあの人でやってほしい!」と想像したり、原作ファンに舞台上での生の掛け合いを見たりして欲しかったのです。見渡す限り2人のファンに見届けられるには惜しい作品だったので、いつかスリルミーのようにいくつかの組み合わせで再演されることを密かに期待しています。

 作品そのものにファンがいる作品を上演するのは新たなお客さんを獲得する大チャンスです。それなのに、あまりにも役者ファン向けすぎる作品にするのは疑問です。雪組シティーハンターは「学年が近いトップコンビのお披露目として恋愛みが強すぎないバディ感を打ち出してくる、どちらかが支えるのではなくお互いがいてこそな感じで、いいな!」と思ったのですが、原作ファンの同行者はたいそう楽しんで「獠の声だ…!舞台装置も細かい…!」と言っていました。原作に詳しくないので何とも言えないのですが、あれは対役者ファンと対作品ファンのバランスがよかったのでしょうか。

 この後の星組RRRや帝劇ジョジョの行方が気になるところです。個人的には、帝劇初主演が決まった推しを色んな人に見てほしい気持ちでジョジョファンをミュージカルジョジョにすでに何人か誘っているので、どうか作品ファンも楽しめるものであってくれ!と願うばかりです。

(ここでも余談ですみませんが、あらためてドーヴアチア曲とそれらを歌う古川さんや真彩さんをはじめとする最高の歌い手たちを見て、推しがドーヴアチアの曲を主演として歌えるだろうと思ってもらえたことが嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。)

 世界と趣向の話に少し戻りますが、これだけ「おら!こういうの!見たかっただろ!好きだろ!!」という感じの作りの作品を見せられると、むしろ好みじゃなかった部分が浮き彫りになってきてしまいました。完全に個人的な好みなので話半分で読んでいただきたいのですが、シャーロックホームズのことは、R2D2とC3POやルミエールとコグソワーズのようなコミックリリーフ的なキャラクターにしてほしくなかったです。シャーロックホームズはあんなに他人に興味を示さない(たぶん私がBBCのSHERLOCKを好きすぎるせいですごめんなさい)し……!と個人的な好みの叶わない部分が気になりました。

 というかそもそも、よく使われる世界と趣向を選んだ時点で他の作品と比較されることは致し方ない気もするのですが、似たような世界と趣向の作品の中に熱烈に好きなものがある人ほどノイズを感じながら見てしまうような気がしました。なにせ19世紀末〜20世紀初頭のヨーロッパを「世界」とするフィクションはミュージカルに限らず無数にあります。

 さらに私は宮崎駿作品によって情緒を育てられたので「ルパン」「クラリス」「カリオストロ」と言われたらどうしても脳内を宮崎駿にハイジャックされるのですが、まさにルパンと伯爵夫人とクラリスのキャラクターの中身や関係性がルパン三世と不二子ちゃんとクラリスを思い起こさせてきたので、宮崎駿作品の好きな部分とびっっっくりするくらい比較しながら見てしまいました。あのルパン三世のかっこいいところは命懸けで助けてあげたクラリスにこれからも一緒にいたいと言われるのに、やっと縛られることがなくなった無垢な少女の人生に泥棒のオジサンは似合わないからと去っていくところなのですが、今作のルパンとクラリスがロマンティックな王道なラブに終始するのに「ええ、、そうですか、、」と若干なってしまうのです。今作はそもそも他と比べなくても驚くほどロマンティック王道ラブの要素が強かったです。にも関わらず、さらにあのルパン三世のロマンと比較してしまうとなったら……だいぶお腹いっぱいという感じです。

 そもそも、今回のルパンとクラリスのロマンティック王道ラブも少々イマイチだと感じるところが多かったです。どうにかこうにかルパンにとってクラリスがトロフィーワイフにならないようにセリフをなんとかしようとしているところが鼻についてしまいました。クラリス、本当に泥棒と結婚するかなあ…?(たぶん「明日のナージャ」の見過ぎ)そしてキスシーンそんなにいる???カリオストロ伯爵夫人の秘密というタイトルにしては伯爵夫人の秘密もルパンとの関係も弱いと感じました。

 19世紀ヨーロッパに現れるタキシード姿の怪盗の物語を見ていると、ドーヴアチアの素晴らしい音楽の数々が流れてくるのに一旦それらをすべてオフにして大音量でムーンライト伝説を流してほしくなってしまったり、「明日のナージャ」のキース・ハーコートを思い出したりと、これまで触れてきた似たような世界と趣向を持つ作品の登場人物が観劇中に頭の中でマラソン大会を始めてしまい思考回路がショート寸前でした。

 作品単体として満足度は個人的には高くはなかったのですが、役者のパフォーマンスは本当に素晴らしかったです。帝劇の幕開きで太めの声で伝説を歌い語る真彩希帆さんをみて「そろそろ白いドレスの似合う清純なヒロイン以外をやってくれ(個人的にきいちゃんのルーシーは無知な女の子がはじめて助けてくれる素敵な人に出会えたというあたりでおんなじカテゴリ判定です)…キムとか…」と思いました。柚希礼音さんも大変なハマり役で、スタイルがいいのに肉感のある艶やかな姿とハスキーな声がたまりませんでした。マタハリの円盤を持っているのにちゃぴちゃんしか見たことがなかったんですよね…何やってんだろ私…。加藤清史郎くんもこんなに歌も踊りもお上手だったんですね!個人的にはカテコでオケにむかって他の誰よりもたくさん拍手をしてらっしゃる姿がとても好印象で好きになりそうでした。そして何より、あらゆる姿を演じ分け、振り幅をこれでもかと見せつける古川雄大さん。本当に素晴らしかったです。


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