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プロ野球監督論

今回の記事は最初の記事と同様、プロ野球について語っていきます。

最初の記事で現在のプロ野球は、固定された中継ぎの時代から、監督・個の時代へ変わりつつあると分析しました。そこで、現在のプロ野球で重要性を増す監督についてより深堀して語っていきます。

それについて、最近面白いやり取りを見かけたので紹介します。それは2024年5月19日放送のTBS系列サンデーモーニングで、元中日ドラゴンズ監督の落合博満氏と、元横浜DeNAベイスターズ監督の中畑清氏が当時不調にあえぎ自力優勝がシーズン早々に消滅した埼玉西武ライオンズについて語っているシーンです。中畑氏は要約すると「こういったチーム状況が悪い時には、監督が積極的に動いて、選手とともに何かをやっていくぞというシグナルを送ることが大切だ」と述べます。それに対して、落合氏が「チーム状況が悪い時に動くことは逆効果になる可能性がある。選手が疲れていると思って、打順を変えたり、休ませたりすることが悪循環にもなりえる」と全く中畑氏と対照的な意見を述べます。私はこのやりとりがお二方の監督としての考え方の違い、またお二方が監督をした2つのチーム状況の違いをよく表しているなと感じました。

このやりとりのように、プロ野球の監督には、2つのパターンがあると私は考えます。1つ目のパターンは、①中畑氏のように選手の育成を重視する監督、2つ目のパターンは、②落合氏のようにチームの勝利を重視する監督です。

①の監督の特徴として、弱いチームの再建を任されることが多い、プロの世界に入って数年燻っていた選手を一流選手に辛抱強く鍛え上げる、選手起用がダイナミックといったことが挙げられます。
②の監督の特徴として、常勝を期待されるチームの指揮を執り実際に常勝という結果を出す、即戦力選手を重視する、選手起用が固定的といったことが言えます。

①の監督の実例は、中畑氏や、高橋由伸監督、今のプロ野球監督で言えば新庄監督などが挙げられます。
②の監督の実例は、落合氏や、原辰徳監督、今のプロ野球で言えば岡田監督などが挙げられます。

ここからはこの2パターンの監督を実例を交えながら、より深堀します。
中畑氏の場合、2012年から球団の親会社がDeNAに変わると同時に監督招聘され、TBS時代万年Bクラスだった横浜ベイスターズの再建を託されます。その時、横浜高校から鳴り物入りでプロの世界に入るも、なかなか結果を残せていなかった筒香嘉智に目をつけ、4番に固定。筒香は2014年から4番として結果を残し、2017年のWBCでは日の丸の4番をつけるまでに成長しました。中畑監督時代のベイスターズは4年間全てBクラスでしたが、ラミレス監督に交代後チームは2016年に初めてクライマックスシリーズに進出し、現在では、常勝球団とはいきませんが、Aクラスに度々入るほどの球団にベイスターズは成長しました。おそらく中畑監督時代のベイスターズは、挨拶さえままならない、プロ野球選手である前に社会人としても能力不足の選手が数多く在籍しており、監督がこうしていくぞと方針を示してあげないとなかなか自分から率先して動けない選手が多かったため、先のテレビ番組での発言のような考え方になったのだろうと推察されます。
高橋由伸監督も同様に、2016年の監督就任前年2位に終わった巨人の監督を任されます。当時の巨人は弱いチームではありませんが、時代はインターネットの時代となり、ソフトバンクや楽天、DeNAといったネットを主戦場としたビジネスを行う企業を親会社に持つ球団との有力選手の獲得競争に今後巨人が資金面で劣る可能性は非常に高く、育成が急務の状態で、育成なしで巨人が浮上することはあり得ない状況での監督就任でした。そこで高橋監督にとっての筒香嘉智枠は、入団して3年間1軍フル出場のない岡本和真でした。2018年の監督最終年に高橋監督は岡本を4番に固定し、岡本は見事その期待に応え史上最年少での3割30HR100打点を記録します。その後岡本は4番として現在まで2度のリーグ優勝に貢献しています。高橋監督も監督在任時はBクラスを経験し、苦い思いを味わったでしょうが、岡本の育成は高橋監督の最大のレガシーでしょう。
そして、現在日本ハムの指揮を執る新庄監督も2022年から直近5年間で4度のBクラスに沈むチームの指揮を任されました。新庄監督も栗山監督時代になかなか出場機会に恵まれなかった松本剛や、万波中正を粘り強く起用し続け、松本剛は2022年に首位打者に、万波中正も2023年HR王にあと1本差に迫る活躍を見せました。新庄監督も就任して2年間は打順を日替わりにしたり、常人には分からない選手起用や采配を行ったりと批判を集めましたが、2024年6月現在チームはAクラスと奮闘しています。

落合氏の場合、監督を引き受けた中日ドラゴンズは前任の山田久志監督やその前の星野仙一監督のおかげもあり、優勝やAクラスを達成することが度々ありました。そんな常勝中日にあって、落合中日時代は8年間で全てAクラス、4度のリーグ優勝、1度の日本一とさらに常勝の名をほしいままにした時代と言えます。そんな落合監督時代は、2021年発刊の「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」にもあるように、粗削りな高卒の選手よりも即戦力の大卒・社会人選手をドラフトで優先的に指名しました。例えば、2008年のドラフトでは、注目の高卒の大田泰示ではなく、社会人上がりの野本圭を欲しがったように、実るかどうかわからない高卒の素材型よりも、堅実な大卒・社会人選手を優先的に欲しがっています。また、最初の記事にも述べたように、中継ぎは7回浅尾、8回高橋、9回岩瀬で固定し、アライバ鉄壁二遊間をレギュラーとして使い続けました。
原辰徳監督も高橋由伸監督とは違い、ネット企業がプロ野球に参入する前の2000年代前半の資金力豊かな常勝巨人で初めて監督に就任しました。原監督は2024年現在まで3度巨人の監督に就任し、通算17年間で9度のリーグ優勝、3度の日本一に輝くという異次元の監督成績を残しています。原監督時代に巨人生え抜きで活躍した選手には、坂本勇人や菅野智之らがいますが、彼らは入団してすぐにレギュラーを掴んでいるため、原監督が育成したとは言えないでしょう。原監督時代は、その育成で賄えない戦力を補強でカバーしました。グライシンガーやクルーン、小笠原道大、ラミレス、杉内俊哉、ホールトン、村田修一、丸佳浩と原監督時代の巨人が他球団から獲得した主力選手は枚挙にいとまがありません。選手起用は柔軟に打順を組み替えることもありますが、中継ぎ起用は第一次政権は7回越智、8回山口、9回クルーン、第二次政権は7回マシソン、8回山口、9回西村と固定的でした。
そして、現在の阪神岡田監督も阪神第1次政権は優勝直後の2004年に、阪神第2次政権は直近10年間で8度のAクラスの2023年に監督を任されます。監督就任初年度こそ4位に終わりましたが、2023年までの阪神監督時代6年間で5度のAクラス、2度のリーグ優勝、1度の日本一を飾っています。岡田監督も阪神第1次政権期にJFKを作り上げた張本人で、中継ぎ起用は固定的でした。

ここまでで、①と②のそれぞれのパターンの監督を実例を交えながら、紹介しました。それぞれのパターンの監督も一長一短があると思います。
①の監督は主に彼らが監督就任している時代はなかなかチームの勝ちに恵まれていないところがあります。その一方で、彼らが育てた選手がチームの主力となり、彼らが監督退任数年後にチームは優勝したりAクラスに入ったりしています。
一方で、②の監督時代は、監督として素晴らしいチーム成績を収めています。しかしながら、今勝つということは、今優秀な選手を使いつぶすことと同義です。それに加え、育成も補強もしなければ、その後のチームは衰退まっしぐらです。例えば、落合監督や原監督時代が典型的ですが、どちらも彼らが監督時代は素晴らしいチーム成績を上げていますが、落合監督退任後10年間、中日ドラゴンズは優勝はなく、Aクラスは2度しかなく、8度のBクラスに沈んでいます。また、原監督第1次政権終了後、堀内監督が巨人を引き継ぎましたが、堀内監督時代の2005年に、26年ぶりに巨人は5位以下に沈みました。さらに、原監督第2次政権終了後の、高橋由伸監督時代の2017年には巨人は11年ぶりのBクラスに沈みました。当然、全てが全て彼らの責任ではないでしょうが、全く責任がないとは言い切れないでしょう。
これは、一般の職場でもそうではないでしょうか。仕事ができる人だけで業務を回せば、ミスもなく、当面は円滑に組織は回るでしょうが、もしその仕事ができる人が急な怪我や病欠、転職などでいなくなった場合、組織はすぐに立ち行かなくなります。そのような事態に備えて、仕事ができない人も辛抱強く育成し、誰かがいなくなっても、代わりが出てくる状態を作る。これが永続的に発展していく組織の作り方だと思います。

上記の文言は、①の監督は監督時代勝てないことが多く、批判されることが多いため、私が彼らの気持ちを代弁したものです笑。私が好きなのも①の監督です。
ちなみに、私がファンである広島東洋カープの現在の監督である新井監督はどちらのパターンか。新井監督就任前、私は新井監督自身が選手時代、どんなにミスをしても、三振をしても、カープに使い続けてもらったことから、①の監督になるのではないかと勝手に想像していました。ですが、ここまでの約1年半の起用などを見ていると、②の監督に近いと思います。中継ぎ起用は島内、栗林と固定的であり、菊池や松山、田中広輔といった経験あるベテランをよく使っています。逆に2023年前半精彩を欠いていた若手の小園海斗を、すぐ2軍に落とすなど意外にも、新井監督は②の監督に近いと私個人は思っています。だからこそ、2023年下馬評を覆し、2位に躍進できたのでしょう。これから新井監督のスタンスが育成寄りになるかもしれませんが、そこは見守っていきたいと思います。


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