見出し画像

『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』:1993、アメリカ

 恐怖の町であるハロウィン・タウンに、今年もハロウィンがやって来た。カボチャの王である骸骨男のジャック・スケリントンがリーダーシップを発揮し、住民たちは「これまでで最も恐ろしいハロウィンになった」と拍手を送る。
 そんなジャックを離れた場所から見つめていたのは、ガールフレンドであるツギハギ人形のサリーだ。そこへ彼女の生みの親であるフィンケルスタイン博士が現れた。サリーは博士に毒入りのお茶を盛って、屋敷から抜け出していたのだ。サリーは博士に捕まるが、自分の右手を取り外して逃げた。

 町長が賞の発表をする中、ジャックはこっそりと広場を抜け出す。みんなが誉めても、彼としては毎年同じことの繰り返しだとウンザリしているのだ。幽霊犬のゼロと一緒に歩きながら、彼は変化の無い暮らしの虚しさを歌った。
 それを物陰から聞いていたサリーは「その気持ち良く分かるわ」と呟き、毒草のイヌホオズキを採取して博士の屋敷に戻った。博士は「お前はワシの物。ワシが作った」とサリーに言い聞かせる。ゼロが付いてくる中、ジャックは森の中を歩いた。

 翌朝、町長は来年のハロウィンの企画書を持って、ジャックの屋敷を訪れた。だが、ジャックは留守だった。ジャックは昨夜からずっと、森を歩き続けていたのだ。
 いつの間にか彼は、初めての場所に来ていた。そこは、扉の付いた木が何本も立っている場所だった。ドアの一つは、クリスマスツリーの形になっていた。気になったジャックがドアノブを捻ると、その中に吸い込まれてしまった。

 ジャックが辿り着いた先は雪景色で、近くにはカラフルに飾られた街が見えた。雪の積もる丘を滑り落ちたジャックは、楽しい笑い声が溢れる街の様子に衝撃を受ける。
 悪魔も魔女もおらず、子供は安らかに寝息を立てている。お化けもいなし、悪夢も見ない。悲鳴の代わりに笑い声が聞こえる。ジャックは「素敵だ」と感じた。そこはクリスマス・タウンという街だった。

 町長は心配して「ジャックを捜してください」と皆に呼び掛け、警報を出させた。そこへジャックが戻り、「集会を開いてみんなを集めてください」と町長に告げた。
 夜、ホールに集まったみんなに、ジャックはクリスマス・タウンのことを話す。「箱にプレゼントを入れる、キャンディーやオモチャを入れる大きな靴下がある」などと語るが、正しい情報ばかりではなかった。彼はサンタクロースに関して「ソリに乗って人を殺す、抱えた袋には死体が一杯。名前はサンディ・クローズ」という間違った情報を入手していた。

 集会を終えたジャックは、クリスマス・タウンで感じた素晴らしさを充分に伝えられなかったと自覚していた。彼は屋敷に戻り、クリスマスの研究に入った。サリーは監禁されていた塔の窓から飛び降り、バラバラになった体を自分で縫い合わせる。彼女が屋敷の中を覗くと、ジャックは部屋に閉じこもって研究に没頭していた。
 ジャックは様々な文献を読むが、なかなかクリスマスを理解できずに悩む。しかし、「出来ないことは無い、僕ならもっと上手く出来る」という考えに辿り着いた。

 ジャックは「今年は僕らがクリスマスをやるぞ」と町民に宣言し、それぞれに仕事を分担した。博士には、絵本に描かれたソリを作ってほしいと依頼した。ジャックはハロウィン・タウンが誇る悪ガキ3人組のロック、ショック、バレルを呼び寄せた。そして「他の奴らには内緒だ」と言い、サンディ・クローズを拉致するよう耳打ちした。
 「親玉のブギーにも内緒だぞ」と、ジャックは釘を刺した。ロックたちは「捕まえた」と戻ってくるが、袋に捕獲したのはイースター・バニーだった。ドアを間違えたのだ。

 クリスマス前日、ロックたちはサンタクロースを捕まえた。サンタの扮装をしていたジャックの元に、ロックたちはサンタを連れて来た。本物のサンタを見て、初めてジャックは手にハサミが付いていないのを知った。彼はサンタに「今年のクリスマスは休んでください」と言い、帽子を拝借した。
 ジャックから「彼をもてなすように」と言われたロックたちは、サンタをブギーの元へ送り込んだ。ギャンブラーのブギーはサンタの手首を縛り、巨大ルーレットの上に吊るした。

 クリスマス・イヴの夜、ジャックは骨のトナカイが引く棺桶のソリに乗って人間界へと出発した。彼は人間の街を巡り、ハロウィンタウンの面々が用意したプレゼントの箱を子供たちの部屋に置いていく。
 だが、プレゼントの中身は不気味な人形や大蛇、コウモリなど子供が怖がるような物ばかりで、しかも人間に襲い掛かってきた。警察には「クリスマスのオモチャに襲われた」という知らせが何件も届き、あちこちの家から悲鳴が響いた。

 「サンタクロースの真似をしたペテン師がクリスマスをぶち壊した」とラジオニュースの報道を聞いて、本当のクリスマスを知らないハロウィン・タウンの面々は大喜びする。ジャックは眼下の光を見て、「サーチライトだ、お祝いの花火だ」と呑気に喜んだ。
 しかし、それは警察の要請で出動した軍隊の砲撃だった。ソリに砲弾が命中し、ジャックは撃ち落とされた。ようやく自分の犯した大きな過ちに気付いたジャックは、サンタの救出に向かう…。

 監督はヘンリー・セリック、原案&キャラクター原案はティム・バートン、翻案はマイケル・マクドウェル、脚本はキャロライン・トンプソン、製作はティム・バートン&デニーズ・ディノヴィ、共同製作はキャスリーン・ギャヴィン、製作協力はダニー・エルフマン&フィリップ・ロファロ&ジル・ジェイコブズ&ダイアン・ミンター、撮影はピート・コザチク、編集はスタン・ウェッブ、美術はディーン・テイラー、アニメーション・スーパーバイザーはエリック・レイトン、音楽はダニー・エルフマン。

 声の出演はダニー・エルフマン、クリス・サランドン、キャサリン・オハラ、ウィリアム・ヒッキー、グレン・シャディックス、ポール・ルーベンス、ケン・ペイジ、エド・アイヴォリー、スーザン・マクブライド、デビ・ダースト、グレゴリー・プループス、ケリー・カッツ、ランディー・クレンショー、シャーウッド・ボール、カーメン・トゥイリー、グレン・ウォルターズ他。

―――――――――

 『シザーハンズ』『バットマン』のティム・バートンが物語とキャラクターの原案を構想したアニメーション映画。
 ジャックの声をクリス・サランドン、サリー&ショックをキャサリン・オハラ、博士をウィリアム・ヒッキー、町長をグレン・シャディックス、ロックをポール・ルーベンス、ブギーをケン・ペイジ、サンタをエド・アイヴォリー、バレルをダニー・エルフマンが担当している。
 ジャックの歌声は、クリス・サランドンの歌唱力に問題があるということで、ダニー・エルフマンが担当している。

 ティム・バートンの監督作だと勘違いしている人もいると思うが、彼はメガホンを執っていない。彼がディズニー・スタジオで働いていた頃から企画していた念願の作品なので、自分が監督することを望んでいたが、『バットマン・リターンズ』の撮影時期と重なってしまったために不可能だったのだ。
 そこで、ディズニー・スタジオ時代からの盟友ヘンリー・セリックにメガホンを委ねている。

 ストップモーション・アニメーションにデジタル技術を組み合わせ、1秒12コマで撮影された人形たちが画面狭しと動き回る。手足だけでなく、表情も細かく変化を付けている。全編76分の作品が完成するまでに、3年の歳月が掛かっている。
 ティム・バートン監督作だと間違えるのも納得できるほど、ヘンリー・セリックはティム・バートン的イメージ、彼が一貫して描き続けている「フリークスへの共感」をしっかりと表現している。

 ミュージカル形式になっており、何度も歌唱シーンを入れながら、物語はテンポ良く進んで行く。使用されている楽曲もグッド。「作ろう、クリスマス、楽しいクリスマス」と歌っているのに、メロディーや伴奏はちっとも楽しいものじゃなく、完全にホラーだったりするのもイイ感じだ。
 まあ、「いつものダニー・エルフマン節だろ」と言われたら、その通りなんだけど。
 ちなみにブギーはキャブ・キャロウェイを意識したキャラなので、その歌もキャロウェイのテーマ曲『ミニー・ザ・ムーチャー』を連想させるものになっている。

 とにかく映像の力が素晴らしい。キャラクターだけでなく、街の景色や屋敷などの背景も細かく作り込まれており、その独特の世界観が見事に表現されている。
 キャラクター・デザインは、決して可愛いとは言えない不気味な外見だが、それが魅力的に感じられるものとなっている。グロテスクでありながら、しかし紛れも無く本作品は、心が躍るファンタジーなのである。

 ハロウィン・タウンの面々は、みんな魅力的だ。恐怖の王でありながら明るい性格で、悪意は無いがクリスマスに人間界で騒ぎを起こしてしまう骸骨男ジャック。ジャックを心配する優しさを見せる一方で博士には何度も毒を盛る残忍さも併せ持ち、体をバラバラにして自ら縫い合わせるツギハギ人形サリー。頭部を180度回転させて笑顔と泣き顔を入れ換える町長。
 ツギハギ女のサリーが、いじらしく、とてもキュートに見えるんだから、いかにキャラクターとして魅力的に描かれているかってことだよ。

 ハロウィンにしろ、クリスマスの準備にしろ、ハロウィン・タウンの面々は「恐ろしいことをやろう」「みんなを怖がらせてやろう」という意識でやっているのだが、みんなウキウキしている。
 不気味な外見の面々が、間違った知識によるクリスマスの準備を進める様子は、とても楽しそうだ。ロックたちなんて、サンタクロースを拉致するという犯罪をやらかすのに、「熱い湯に放り込んで煮えたらバターを塗っちまえ」「殴り付けろ」「切り刻め」と楽しそうに歌っている。
 その無邪気な感じがイイのだ。

(観賞日:2010年4月12日)

この記事が参加している募集

#アニメ感想文

12,576件

#映画感想文

67,412件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?