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『デジモンアドベンチャー』:1999、日本

 八神太一が初めてデジタルモンスターと出会ったのは、4年前のことだった。光が丘団地に住む7歳の太一が夜中に目を覚ましてトイレに行こうとすると、父親の部屋のドアが少し開いて光が漏れていた。
 部屋に入ると、4歳の妹・ヒカリがパソコンの画面を凝視していた。声を掛けると、ヒカリは「卵」と呟いた。すると、パソコン上に出現した卵が、画面の外へと抜け出した。

 翌朝、太一が目を覚ますと、ヒカリがラグビーボールぐらいの大きさの卵を抱いて眠っていた。母親が外出した後、太一は朝食の用意をした。
 朝食を食べようとしたヒカリは、抱えていた卵を床に落とした。すると卵は、意志があるかのように勝手に動き回った。卵の殻が割れて、中から見たことの無い生物が誕生した。ヒカリは食事を与えて、その生物を可愛がった。

 電話が掛かってきたので、太一は受話器を取りに行く。だが、ピーッという機械音がするだけだった。部屋に戻ると、生物の形が変わっていた。ヒカリは、飼い猫であるミーコのキャットフードも、その生物に与えた。するとミーコが怒り、その生物は引っ掻かれた。
 夕方、その生物は人間の言葉を語り始めた。彼はコロモンと名乗り、「友達の印だよ」と言って太一とヒカリの顔に抱き付いた。

 その夜、眠っていた太一は、ヒカリの笛で起こされた。太一がヒカリのベッドを見ると、コロモンが汗をかいて震えていた。やがて彼は少しずつ大きくなっていき、頭でっかちな恐竜のような形に変化した。
 帰宅した父が部屋に入って来ようとしたので、慌てて太一はドアを閉めた。ヒカリは窓を開け、コロモンの背中に乗った。するとコロモンはベランダからジャンプして地上へと降り立ち、町を移動し始めた。太一は家を飛び出し、ヒカリを捜しに行った。

 コロモンは火の玉を口から吐き、電話ボックスを破壊した。ヒカリは「やめて」と叫ぶが、コロモンは言うことを聞かない。町のあちこちでは電子機器が異常な動きを示し、団地に住む数名の子供たちがベランダから外の様子を眺めていた。
 その時、天上を覆い尽くすぐらい巨大な卵が出現し、そこから大きな鳥が出現した。コロモンは、その巨大鳥に向かって火の玉を発射した。

 巨大鳥は空を飛び回り、そしてコロモンの近くに降り立った。太一はヒカリを発見し、「逃げるぞ」と言う。しかしヒカリはコロモンに戦いをやめさせようとして、そこから離れようとしない。コロモンが火の玉を放つと、巨大鳥は電撃を放って反撃した。
 瓦礫の下敷きになったコロモンだが、さらに巨大化し、凶暴な姿に変化した。偶然にもコロモンの下にいた太一と光は、瓦礫に潰されずに済んだ。コロモンと巨大鳥は、組み合っての戦闘に突入した。ヒカリは怯えて泣き出した。

 巨大鳥の電撃を浴び、コロモンは倒れ込んだ。ヒカリは笛を吹いてコロモンに呼び掛けようとするが、肺活量が無いために小さな音しか出ない。
 太一は笛をくわえ、思い切り吹き鳴らした。するとコロモンは立ち上がり、強力なブレス攻撃を浴びせた。まばゆい閃光が生じ、太一は目を閉じた。閃光が消えると巨大鳥はいなくなっており、コロモンも姿を消していた…。

 監督は細田守、原案は本郷あきよし、脚本は吉田玲子、製作は高岩淡&玉村輝雄(集英社)&泊懋、企画は関弘美、製作担当は山口彰彦、撮影は安藤茂、編集は吉村泰弘、録音は波多野勲、美術監督は徳重賢、キャラクターデザインは中嶋勝祥、作画監督は山下高明、プロデューサー補は有原美千代、音響効果は奥田維城、選曲は西川耕祐、音楽は有澤孝紀、主題歌「Butter-Fly」は和田光司。

 声の出演は藤田淑子、荒木香恵、坂本千夏、石丸博也、榊原良子、冬馬由美、尾小平志津香、菊地祥子、杉本ゆう、永野愛。

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 1999年3月から放送された2000年3月まで放送された同名TVアニメのパイロット版映画。東映アニメフェアの一作として公開された。
 TVシリーズの4年前、1995年の出来事が描かれる。ここで起きた事件がTVシリーズでは「光が丘爆弾テロ事件」と呼ばれ、それを目撃した8人の子供たち(八神兄妹を含む)とデジタルモンスターの4年後の物語が描かれる。

 わずか20分の短編だが、細田守が抜擢されて初監督を務めた映画として、アニメ界においては大きな意味を持つ作品と言ってもいい。
 ちなみに、その後のTVシリーズにおいて、細田守は第21話の『コロモン東京大激突!』を演出しただけだ。しかし、劇場版では第2作『ぼくらのウォーゲーム!』も監督し、これが高い評価を受けて、彼が注目を浴びるきっかけとなった。

 細田監督と言えば、演出において大きな特徴が幾つかある。その内の1つが、影を無くす作画だ。
 通常のアニメでは、キャラクターに影を付けて作画を行うし、もちろん実写なら普通に影が付く。しかし細田監督の監督作品では、キャラクターに影が無い(キャラクター以外の物、例えば家具などの舞台装置には、影が付けられている)。
 その演出は、この映画でも既に見られる。実は、これは細田のアニメーター時代の師匠であり、本作品の作画監督を務めた山下高明のアイデアだったらしい。

 細田監督には他にも、基本的にカメラを振らず、同じカットを繰り返すという特徴がある。複数のカメラを固定し、そこに写り込んだ映像を観測していくというのが彼のスタイルだ。
 ただし全くカメラを振らないわけではない。少なくとも本作品では、オープニングでデジモンが走る場面や、ミーコがコロモンを追い掛ける場面でカメラがパンしている。また、ズームも使われている。

 ラヴェルの『ボレロ』をBGMに流して一本のラインを引き、子供たちと可愛いモンスターのファースト・コンタクト、そしてホノボノとした触れ合いから、「見慣れた風景の中の見慣れない事態」である凶暴化した怪獣のバトルへと一気に雪崩れ込んで行く。
 『ボレロ』はグッド・チョイスで、見事に雰囲気を作り上げ、戦闘へ向けて盛り上がって行く展開を煽っている。

 あえて引っ掛かる点を挙げておくと、デジモンがどうみても凶暴な奴に変化しているのに、ヒカリが「コロモン」と変わらずに友達として可愛がろうとしているのは、ちょっと理解し難い部分がある。
 でも、ここは「最初から最後まで、太一とヒカリのデジモンに対する感情が食い違っている」というコンセプトを貫くためには、やや仕方の無い部分なのかな。
 あと、冒頭で怪獣バトルを見ている太一の顔が微笑んでいるのも、ちょっと違和感。そこは圧倒されている表情にするか、もしくは何の気持ちも感じさせない表情にしておいた方がいいのでは。

 まあしかし、TVシリーズへ向けてテンションを高める効果は充分にあり、パイロット・フィルムとして充分すぎる出来映えだ。私はTVシリーズを全く見ていない状態で本作品に触れたのだが、これだけを単独で見ても、怪獣映画として大いに楽しめた。
 ぶっちゃけ、細田守監督の最高傑作はコレじゃないかと思うぐらいだ。

(観賞日:2009年12月7日)

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