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『猿の惑星:新世紀(ライジング)』:2014、アメリカ&イギリス&カナダ

 ジェネシス社の新薬開発が原因で猿インフルエンザが蔓延し、大勢の人々が死んで行政機関は機能不全に陥った。チンパンジーのシーザーは群れを率いて、ミュアウッズの森で暮らしていた。ある日、彼は側近のコバや息子のブルー・アイズたちと共に、鹿の群れを襲撃した。ブルーはシーザーの指示を無視し、傷付いた鹿に近付いた。
 そこへ熊が飛び出して襲い掛かったので、シーザーが助けに入った。コバが駆け付け、熊を退治した。シーザーが「動く前に考えろ」と忠告すると、ブルーは反抗的な態度を取った。コバはブルーに、「気にするな。傷がお前を強くする」と告げた。

 シーザーが集落に戻ると妻のコーネリアは男児を出産しており、ブルーは兄になった。シーザーはオランウータンのモーリスから「今でも人間を思い出すか」と問われ、「時々な」と答えた。
 モーリスが「ワシは良く知らんが、悪い思い出だけ」と言うと、彼は「良いも悪いも、どうでもい。人間は互いに殺し合った」と告げる。シーザーは群れの面々に、「エイプは仲間を殺さない」と教えていた。モーリスは2年以上も遭遇していないことから、もう人間は滅びたと考えていた。

 ブルーが仲間のアッシュと森に出掛けた時、人間のカーヴァーと遭遇した。カーヴァーは慌てて拳銃を構え、発砲して仲間を呼び寄せた。すぐにカーヴァーの仲間であるマルコムやエリーたちが駆け付け、シーザーも群れを率いて急行した。
 マルコムは相手が普通の猿ではないと感じ、「悪意は無い」と呼び掛けて銃を下ろした。シーザーは「行け」と怒鳴り、人間たちを追い払った。その際、マルコムの息子であるアレックスは鞄を忘れていった。シーザーはコバ、グレイ、ストーンに、人間を尾行するよう命じた。

 マルコムたちは人間が暮らす隔離エリアへ戻り、リーダーのドレイファスに「ダムは1週間で発電を再開できるが、問題がある」と告げる。彼が「槍を持った喋る猿と遭遇した」と報告すると、ドレイファスは「今後の方針を決めるまで誰にも喋るな」と釘を刺す。
 隔離エリアから戻ったコバは「人間を殺すべきだ」と主張するが、息子のアッシュが撃たれたロケットは「シーザーに従う」と告げる。シーザーは「戦争を始めれば、今まで築いた物を全て失う」と語り、翌朝までに方針を決定すると述べた。

 次の朝、シーザーは群れを率いて隔離エリアへ赴き、人間たちは強い警戒心を示す。マルコムだけがゲートから出て群れに歩み寄る中、シーザーは「我々は戦いを望まないが、必要なら戦う」と話す。彼は鞄をマルコムに返し、「二度と来るな」と通告して群れとと共に去る。ド
 レイファスは騒然とする面々に対し、「また戻ってきたら思い知らせてやる。武器はある。怖いのは分かるが、もうすぐ燃料が底を突いて電気が無くなる。それを解決するのがダムだった」と語った。

 仲間たちから「どうするのか」と解決法を問われたドレイファスは、「別の方法を考える」と言う。マルコムが「他の電力源は無い。あのダムだけだ」と指摘すると、ドレイファスは「では戦おう」と口にする。マルコムは「もう犠牲者は出したくない。3日くれ。奴と話す」と提案し、ドレイファスは「3日で戻らなければ戦う」と告げる。
 マルコムはカーヴァー、フォスター、ケンプを連れて、ミュアウッズへ行くことにした。恋人で医者のエリーは「カーヴァーが撃ったのに」と反対するが、マルコムは「ダムへの行き方は彼しか知らない」と言う。エリーとアレックスが同行を志願したので、マルコムは2人を連れて行くことにした。

 ミュアウッズに入ったマルコムはエリーたちに「車から出るな。2時間で戻らなければ町へ帰れ」と指示し、1人で猿の集落へ赴いた。彼は猿の群れに包囲されると、シーザーに「話があるんだ。近くに見せたい物がある。見てくれれば分かる」と訴えた。
 シーザーは承諾し、マルコムはダムへ案内した。マルコムが「ダムが稼働すれば安定した動力源になる。ここを奪う気は無い。ただ発電所を再開させる作業をされてくれ」と頼むと、シーザーは銃を引き渡す条件で承諾した。

 コバはシーザーの考えに反対し、「人間は電気を持つと、もっと危ない」と主張する。シーザーが「追い返せば人間は攻めてくる」と言うと、コバは「攻めさせろ。弱い内に滅ぼす」と告げる。シーザーは「どれだけの仲間が死ぬ?平和になるチャンスだ」と語り、コバの意見を却下した。
 ブルーは「コバは人間を憎めと言ってる」と告げ、シーザーに反発した。仲間が殺される現場を見ているカーヴァーは猿への憎しみを隠そうとせず、マルコムやエリーが諭しても考えを変えなかった。

 翌朝、マルコムたちは作業に出向き、シーザーも数名を率いて近くまで同行する。コバはグレイとストーンを連れて隔離エリアへ侵入し、人間たちが銃を装備して戦いの準備を進めていることを知った。コバは射撃練習をしていたマクヴェイとテリーに見つかるが、知能の低い振りをして立ち去った。
 マルコムとカーヴァーは作業中の事故で危機に陥るが、シーザーが駆け付けて救助した。エリーとアレックスがカーヴァーの傷を手当てしていると、シーザーの赤ん坊が2人に懐いた。

 赤ん坊の猿が道具箱を漁ると、カーヴァーが慌てて殴り掛かった。彼は道具箱に隠してあったライフルを構えるが、シーザーが奪い取った。シーザーはカーヴァーを殴り付けようとするが、マルコムが制止すると思い留まった。シーザーはライフルを湖に投げ捨て、マルコムに「出て行け」と怒鳴った。
 彼が集落に戻ると、コーネリアが病気で苦しんでいた。マルコムはエリーと共に集落へ行き、「カーヴァーを追い払う」と告げて作業の続行を許可してもらおうとする。エリーはコーネリアが病気だと知り、「抗生物質がある。恩返しさせて」と持ち掛けた。シーザーは1日だけ猶予を与え、人間が集落に留まることを承諾した。

 集落に戻ったコバはブルーと話し、シーザーが人間と一緒にいると聞かされる。アレックスを見たコバが襲い掛かると、モーリスが制止した。シーザーはコバから「仲間より人間を大事にしている」と批判され、カッとなって殴り掛かる。
 「仲間を殺さない」というルールを思い出した彼は、我に返った。コバはブルーに「人間への愛がシーザーの目を曇らせている。ここに人間がいたら、シーザーが心配だ」と語り、シーザーを守るよう説いた。

 次の日、アレックスは昨日の礼としてモーリスに本を渡し、内容を読み聞かせた。コバは隔離エリアへ忍び込み、マクヴェイとテリーを殺害した。ダム付近の電力が復旧したのを確認したマルコムは、街へ戻るとシーザーに話す。車で待機していたカーヴァーは、コバに抹殺される。コーネリアの病状は回復し、シーザーは安堵した。
 コバは他の猿たちに気付かれないよう、自分たちの家に火を放った。シーザーが気付くと、コバは発砲した。シーザーが倒れて仲間たちが騒然とする中、コバは「人間が撃った」と叫ぶ。モーリスはマルコムたちに、逃げるよう指示した。コバは群れを率いて、隔離エリアを襲撃する…。

 監督はマット・リーヴス、キャラクター創作はリック・ジャッファ&アマンダ・シルヴァー、脚本はリック・ジャッファ&アマンダ・シルヴァー&マーク・ボンバック、製作はピーター・チャーニン&ディラン・クラーク&リック・ジャッファ&アマンダ・シルヴァー、製作総指揮はトーマス・M・ハメル&マーク・ボンバック&ジェノ・トッピング、撮影はマイケル・セレシン、美術はジェームズ・チンランド、編集はウィリアム・ホイ&スタン・サルファス、衣装はメリッサ・ブルーニング、シニア視覚効果監修はジョー・レッテリ、視覚効果監修はダン・レモン、音楽はマイケル・ジアッキノ。

 出演はアンディー・サーキス、ジェイソン・クラーク、ゲイリー・オールドマン、ケリー・ラッセル、トビー・ケベル、コディー・スミット=マクフィー、カーク・アセヴェド、ジュディー・グリア、ニック・サーストン、テリー・ノタリー、ジョン・アイズ、エンリケ・ムルシアーノ、カリン・コノヴァル、キーア・オドネル、ケヴィン・ランキン、ジョッコ・シムズ、ドック・ショウ、リー・ロス、アル・ヴィセンテ、マット・ジェームズ、リチャード・キング、スコット・アレキサンダー・ラング、ディニーン・タイラー、ムスタファ・ハリス、ロンバルド・ボイアー、マイク・シール、J・D・エヴァーモア他。

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 『猿の惑星』シリーズをリブートした2011年の映画『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』の続編。前作を監督したルパート・ワイアットが製作期間の短さを理由に降板したため、『クローバーフィールド/HAKAISHA』『モールス』のマット・リーヴスが起用された。
 脚本は前作のリック・ジャッファ&アマンダ・シルヴァーニに『アンストッパブル』『ウルヴァリン:SAMURAI』のマーク・ボンバックが加わっている。

 キャストで前作から続投しているのは、シーザー役のアンディー・サーキスのみ。コバとコーネリアは前作からのキャラクターだが、演者がそれぞれクリス・ゴードンからトビー・ケベル、デヴィン・ダルトンからジュディー・グリアに交代している。
 マルコムをジェイソン・クラーク、ドレイファスをゲイリー・オールドマン、エリーをケリー・ラッセル、アレックスをコディー・スミット=マクフィー、カーヴァーをカーク・アセヴェド、ブルーをニック・サーストンが演じている。

 前作でジェームズ・フランコが演じた主人公のウィル・ロッドマンが登場しないのは、かなり大きな痛手だ。ジェームズ・フランコがオファーを断ったとか、スケジュールNGだったということではなく、最初からウィルは登場しない内容だったのだ。これはルパート・ワイアットの降板とは無関係で、続編の構想が始まった当初からウィルは関与しないシナリオだったようだ。
 続編を見る時に「知った顔がいる」ってのは、作品に入り込む上では絶対にプラスだ。しかしウィルだけでなくヒロインのキャロラインも登場せず、人間サイドで続投しているキャラは存在しない。猿の方でも続投の演者はアンディー・サーキスしかいないけど、こっちはそもそも「顔の判別が難しい」という問題があるしね。

 マルコムが群れの説得に向かう時、カーヴァーを運転手として同行させる。カーヴァーがアッシュを撃ったせいで揉め事が起きているので、エリーが反対するのは当然だ。それに対してマルコムは、「ダムの行き方はカーヴァーしか知らない」と説明している。
 人間サイドでダントツのトラブルメーカーはカーヴァーなので、こいつを積極的に関与させたいのは分かる。「ダムへの行き方は彼しか知らない」というのが上手い言い訳だとは思わないが、「カーヴァーを同行させるための口実」を用意するのは理解できる。でも、その直後にマルコムがシーザーたちをダムまで案内しているのよね。なので、「だったらカーヴァーは要らないじゃねえか」と言いたくなるのよ。

 人間サイドと猿サイド、双方に憎まれ役は存在するが、純然たる悪とは言えない。カーヴァーは問答無用でアッシュを撃ち、その後も猿に対する攻撃的な態度を貫き続ける。だが、それは恐怖が強いからだ。人間は恐怖を抱いたら、その対象を排除しようとするものだ。そう簡単に受け入れ態勢を取れないのは、ごく普通のことだ。
 しかも相手が武器を使ったり喋ったりする猿という想像を超えた生物なので、そりゃあ恐怖は相当なモノだろう。それにカーヴァーは猿が仲間を殺す現場を目撃しているんだから、憎むのも当然だろう。

 カーヴァーの行動や考え方を、全面的に正当化しようとは思わない。しかし、「殺される前に殺さないと」という考えに至るのは、理解できる。むしろマルコムのように最初から喋る猿を受け入れる態勢を取れる方が、珍しいだろう。
 実際、隔離エリアの面々も、喋る猿を見てパニックに陥っているし。ドレイファスは「猿と戦おう」という考えになっているが、仲間を統率して生活を守るためには、そういう考えになるのも理解できる。

 コバはシーザーの指示を破って人間を攻撃したり、罠を仕掛けてシーザーを陥れたりする。だから裏切り者ではあるのだが、彼は自分を救ってくれたシーザーに恩義を感じて忠誠を誓っていたのだ。
 決して最初から野心に満ちていたわけではないし、シーザーを排除して自分が群れを支配しようと目論んでいたわけではない。シーザーへの忠誠心よりも、人間への憎しみが勝ったということだ。シーザーを愛しているからこそ、そんな彼が人間を信頼し、自分の意見を無視したことが許せなかったのだ。

 コバは前作で研究所に監禁され、実験材料として酷い目に遭っていた。つまり残酷な人間しか見ていないので、そりゃ信じろと言われても無理だろう。シーザーだって、前作におけるウィルとの関係が無かったら、人間を信じて受け入れようとはしなかったはずだ。
 彼はコバに比べて理知的で冷静だから、人間を信頼して戦争を避けようとするわけではない。優しく平和的な人間と最初に会っているから、信じようとするだけだ。シーザーもコバも、ベクトルは大きく異なるが、感情や経験が行動や考え方を左右しているのは同じなのだ。

 前作では人間であるウィルの側から、「猿と分かり合おうとしたけれど、最終的には拒絶された」という話が描かれた。今回は猿であるシーザー側から、「人間と分かり合えるかもしれないと思ったけれど、やっぱり無理だった」という話が描かれる。ザックリ言うと、前作と似たようなテーマだが、裏側から見せているような感じだ。
 コバにしろカーヴァーにしろ、憎しみによって「敵を殺そう」という気持ちが高まっている。我々の世界と同じように、憎しみの連鎖が戦争や悲劇を招くことになる。今さら言うまでも無いだろうが、このシリーズは人間社会における争いのメタファーとなっている。

 「猿と人間は絶対に分かり合えない」という答えを導き出そうとしているわけではない。シーザーの赤ん坊がエリーやアレックスに懐くシーン、シーザーがマルコムとカーヴァーを救うシーン、モーリスがアレックスをコバから守るシーン、お礼としてアレックスがモーリスに本を読み聞かせるシーンなど、共存の可能性は幾つか示している。しかし、ほんのわずかな慈愛の精神は、強烈な憎悪によって簡単に打ち消されてしまうのだ。

 前述したように、今回はコバがシーザーを裏切り、人間の仕業だと見せ掛けて襲撃したり、群れを率いて人間を全滅させようと目論んだりする。それはシーザーにとって、望ましくない方向だ。つまり今回は、「猿にとって最大の敵は人間ではなく猿だった」という話になっているわけだ。
 そして映画のラスト、シーザーは自分で定めたルールを破り、コバを「もう仲間ではない」と突き放して殺害する。皮肉なことに、人間と同じ行為に及ぶことで、人間との戦争へと突き進むことになるのだ。

(観賞日:2018年8月14日)

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