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『デッドゾーン』:1983、アメリカ

 教師のジョニー・スミスは、同僚のサラ・ブラックウェルと交際していた。ジョニーはサラと遊園地へ遊びに行くが、急に体調の異変を感じた。ジョニーはサラを家まで送り、求婚して同意の返事を貰った。車で帰路に就いたジョニーは、居眠り運転で横転したトレーラーに衝突し、病院に運ばれた。
 ジョニーが目を覚ました時、そこはサム・ワイザックのクリニックだった。ジョニーは昏睡状態に陥り、5年間も意識が戻らなかったのだ。彼は病室を訪れた両親から、サラが他の男と結婚したことを聞かされる。

 ある日、様子を見に来た看護婦の腕を掴んだジョニーの頭に、ある映像が飛び込んできた。それは、看護婦の自宅が火事になり、彼女の娘エイミーが悲鳴を上げている様子だった。ジョニーはそのことを看護婦に伝え、急いで家に戻るよう告げた。看護婦が自宅に戻ると、実際に火事が起きていた。しかし間一髪の所で、エイミーは助かった。

 後日、ワイザックと話していたジョニーは、彼の腕を掴む。するとジョニーの頭の中には、少年時代のワイザックが戦地にいる様子が見えた。ワイザック少年は母であるヨハンナの手で荷馬車に乗せられ、戦地を離れていった。ワイザックは母が死んだと思い込んでいたが、ジョニーは彼女が生きていると断言し、居場所を教えた。ワイザックが電話を掛けると、確かに母は生きていた。

 クリニックにサラが現れ、デニーという息子がいることをジョニーに語った。さらに彼女は、ジョニーの超能力が新聞に出ていることを告げた。記者に追い回されるのを嫌ったジョニーは、それを終わらせるために会見を開いた。
 ジョニーは挑戦的な質問をしてきた記者の腕を握り、彼の妹が自殺した原因を知った。それをジョニーが語ろうとすると、記者は「化け物」と告げて逃げ出した。テレビで息子が化け物呼ばわりされるのを見たジョニーの母のヴェラはショックで倒れ、病院で息を引き取った。

 クリニックを退院したジョニーは、父のハーブと2人で暮らし始めた。そんなある日、バナマン保安官がジョニーの元を訪れた。バナマンはキヤッスル・ロックで発声した連続殺人事件を捜査しており、協力を求めてきた。だが、自身の能力に嫌気が差しているジョニーは、その依頼を断った。
 数日後、サラがデニーを連れて訪れ、ジョニーは楽しい時を過ごした。ジョニーはまた来て欲しいと願ったが、サラは一度だけの訪問で終わらせるつもりだった。

 ジョニーはテレビでバナマンが記者に答える様子を見て、捜査に協力することを決めた。ジョニーは新たな犠牲者であるアルマの手を握り、保安官補ダッドが彼女を殺す映像を目にした。ダッドは自宅へ逃亡し、ジョニーはバナマンと共に彼を追い掛けた。
 息子は家にいないと言い張るダッドの母、ヘンリエッタの手を握ったジョニーは、彼女が息子の犯行に気付いていたことを知る。ダッドは自殺し、ジョニーはヘンリエッタに狙撃されて怪我を負った。

 ジョニーは実家を出て、一人で暮らし始めた。ジョニーの元を訪れたワイザックは、超能力が強くなると体は弱っていくことを告げた。ジョニーはワイザックに、助けを求める多くの人々から手紙が届き、自由が無いと感じていることを語った。
 ジョニーはスチュアートという男から、彼の息子クリスの家庭教師を依頼された。クリスは内気な少年だったが、ジョニーに良く懐いた。

 スチュアートは上院議員候補のスティルソンと親しく付き合っていたが、ジョニーには対立候補に投票することを勧めた。将来の大統領を目指しているスティルソンは、秘書ソニーと共に、自分の醜聞を明るみに出そうとした記者の元に乗り込み、脅迫して記事を握り潰した。
 ジョニーがクリスの面倒を見ていると、サラと夫のウォルトが現れた。2人は、スティルソンの選挙運動を手伝っていた。

 スチュアートは明るくなったクリスのために、ホッケーの試合を開催することにした。しかしクリスの腕を掴んだジョニーは、氷が割れてクリスが池に沈む映像を見た。ジョニーはスチュアートに、試合の中止を要請した。スチュアートは渋々ながらも中止すると告げるが、その約束を守る気は無かった。
 クリスは怖がって出掛けるのをやめたが、スチュアートは試合を開催した。新聞を読んだジョニーは、ホッケー会場で2人の少年が溺死したことを知った。

 ある日、ジョニーは自宅の窓からスティルソンの選挙運動を手伝うサラの姿を見つけた。ジョニーはサラに会いに行こうとして、目の前に来たスティルソンから握手を求められた。その途端、ジョニーの頭には、大統領となったスティルソンが核ミサイルの発射ボタンを押す映像が飛び込んできた。ジョニーはスティルソンを殺すことを決意し、ライフル銃を手にして演説会場に身を隠した・・・。

 監督はデヴィッド・クローネンバーグ、原作はスティーヴン・キング、脚本はジェフリー・ボーム、製作はデブラ・ヒル、製作協力はジェフリー・チャーノフ、撮影はマーク・アーウィン、編集はロナルド・サンダース、美術はキャロル・スパイアー、衣装はオルガ・ディミトロフ、音楽はマイケル・ケイメン。

 出演はクリストファー・ウォーケン、ブルック・アダムス、マーティン・シーン、トム・スケリット、ハーバート・ロム、アンソニー・ザーブ、コリーン・デューハースト、ニコラス・キャンベル、ショーン・サリヴァン、ジャッキー・バロウズ、ゲザ・コヴァックス、ロバータ・ワイズ、サイモン・クレイグ、ピーター・ディヴォースキー、ジュリー=アン・ヒースウッド他。

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 スティーヴン・キングの同名小説を基にした作品。『クローネンバーグのデッド・ゾーン』という別タイトルもある。
 アヴォリアッツ国際ファンタスティック映画祭で批評家賞、ヒッチコック・サスペンス賞、黄金のアンテナ賞の3部門を受賞した。アンクレジットだが、製作総指揮はディノ・デ・ラウレンティスが担当している。
 ジョニーをクリストファー・ウォーケン、サラをブルック・アダムス、バナマンをトム・スケリット、ワイザックをハーバート・ロム、スチュアートをアンソニー・ザーブ、ヘンリエッタをコリーン・デューハースト、スティルソンをマーティン・シーン、ドッドをニコラス・キャンベル、ジョニーの両親をショーン・サリヴァン&ジャッキー・バロウズが演じている。

 デヴィッド・クローネンバーグといえば、一般人にはとっつきにくい難解な作品を撮る監督だ。しかし、この作品には彼特有の不条理感が無く、非常に分かりやすい内容となっている。
 「さすがの彼も、原作を無視して内容を捻じ曲げるのは遠慮した」ということではなく、オリジナル脚本じゃないので変に力を入れず気楽に作ったということなんだろう。

 クローネンバーグといえばグチョグチョのグロテスクなシーンが好きな監督だが、この映画には彼の得意なグロテスク表現は出てこない。そんなわけだから、クローネンバーグが苦手な人でも、おそらく抵抗感を抱かずに受け入れることが出来ると思う。
 「クローネンバーグの映画」というよりも、「キング原作の映画」という色の方が濃くなっている。

 監督がクローネンバーグで原作がスティーヴン・キングとくれば、ホラー映画と考えるのが普通だろう。しかし、これは表面的にはホラーではあるものの、「超能力者の悲劇」という印象が強い。
 エピソードは串刺し式で関連性は非常に薄いし、幾つもの出来事を経ていく中で主人公の気持ちに変化が生じていく感じが薄いというトコロもあるが、最終的には切なさボロ~ンである。

 この作品のクオリティーを高めている要因は、もちろんクローネンバーグの珍しくも美しい映像表現はあるのだろうが、何といってもキャスティングだろう。
 クリストファー・ウォーケンを主役に据えたことは、大成功だったと断言していい。薄気味悪くて、それでいて悲哀を秘めているという雰囲気を醸し出している彼の貢献度は非常に高い。

 キングはホラー小説の大家として高く評価されているのに、映画化されると感動ドラマばかりが高く評価されるという現実がある。
 そんな中で、これは「キング原作のホラー映画」としては、ベスト3に入るんじゃないだろうか(あと2つは『キャリー』と『ミザリー』あたりかな)。まあ繰り返しになるが、ホラーと言ってしまうには悲劇性の方が強いのだが。

(観賞日:2006年3月28日)

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