『死霊のはらわた』:1981、アメリカ
5人の男女が休暇を郊外の山小屋で過ごすため、テネシーの州境を越えて車を走らせている。そのメンバーは、アッシュ、妹のシェリル、スコット、アッシュの恋人のリンダ、スコットの恋人のシェリーという5人だ。
途中、対向車とぶつかりそうになり、スコットは慌ててハンドルを切る。3トン未満と重量が定められた橋を渡る時には、板の一部が外れて川へと落ちた。
5人は山小屋に到着し、中へ入った。夜、柱時計をスケッチしていたシェリルは、外から「来るんだ」という声を聞く。シェリルの手は勝手に動き、スケットブックを書きなぐった。床の板戸が、勝手に動いた。
5人が夕食を取ろうとすると、目の前で床の板戸が外れた。スコットが地下室へ降りていき、なかなか戻らないのでアッシュも後を追った。
アッシュが地下室を進むと、待ち伏せていたスコットが驚かせた。スコットとアッシュは、剣、テープレコーダー、それに1冊の怪しげな本を発見した。
2人はそれらを女性陣の元へ運び、テープを流す。すると、そこにはカンダールで遺跡を発掘していたという男の独白が録音されていた。彼は妻と2人で山小屋にこもり、研究を続けていたらしい。
その男は、遺跡で1冊の本を発見していた。古代サマリア人の埋葬儀式と弔いの呪文の集大成である「死者の書」だ。そこには、悪霊が息を吹き返し、古い家にはびこると書かれているらしい。そして、その本に書かれた呪文を唱えると、悪霊が蘇るのだという。
テープの中で、その男は呪文を唱えていた。シェリルは怯えるが、他の4人は本気にしなかった。
シェリルは「来るんだ」という声を再び耳にして、森へと赴いた。すると木の枝が触手のようにシェリルの体に絡み付き、彼女をレイプする。
何とか逃げ出したシェリルは山小屋へ戻り、アッシュを説き伏せて町まで連れて行ってもらうことにした。しかしアッシュが車を走らせて橋まで来た時、それが不可能なことが分かった。橋が崩落していたのだ。
スコットがテープの続きを聞くと、男は自分の妻に悪霊が憑依したことを語っていた。それを解くには体をバラバラに切断するしかないが、男には出来なかったらしい。
スコットの傍らでは、リンダとシェリーがトランプで遊んでいた。しかしリンダは悪霊に憑依され、「なぜ我々を起こすのだ。他のやつらと同じように死ね」と言い放った。
リンダは言葉を言い終えると気を失うが、今度は山小屋に戻ってきたシェリルが悪霊に憑依された。シェリルが暴れ始めたため、アッシュは彼女を地下室に閉じ込め、戸板に鎖を掛けた。
すると今度はシェリーが悪霊に憑依され、スコットに襲い掛かる。スコットは彼女を斧で殴り殺し、体をバラバラにして埋葬した。
スコットはアッシュたちを置いたまま、勝手に山小屋を出て行った。しかし、すぐに血まみれとなって戻ってくる。アッシュはスコットから、橋を使わなくても町に戻る迂回路があるが森を通らねばならず、そこで悪霊に襲われるのだと聞かされる。
アッシュはスコットからリンダを殺すよう求められ、銃を構える。だが、リンダの姿が元に戻り「私を助けて」と言うので、アッシュは銃を下ろした。
地下室からシェリルの「私も正気に戻った」という声が聞こえたので、アッシュは近付く。しかしシェリルは戻っておらず、アッシュに襲い掛かろうとする。アッシュは傷付いたスコットに水を飲ませようとするが、既に彼は息耐えていた。
リンダが襲ってきたため、アッシュは彼女を殺害した。しかしバラバラには出来ないまま、地面に埋葬する。その間に、シェリルは地下室から脱出する・・・。
監督&脚本はサム・ライミ、製作はロバート・タパート、製作総指揮はロバート・タパート&ブルース・キャンベル&サム・ライミ、撮影はティム・ファイロ、編集はエドナ・ルース・ポール、特殊メイクアップ効果はトム・サリヴァン、撮影特殊効果はバート・ピアース、音楽はジョー・ロドゥカ。
出演はブルース・キャンベル、エレン・サンドワイズ、ハル・デルリッチ、ベッツィー・ベイカー、サラ・ヨーク他。
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サム・ライミ監督のデビュー作。8ミリで撮った自主制作の短編映画『With in the Woods』が基になっている。「スプラッター」と呼ばれるジャンルの走りと言える作品。
盟友のブルース・キャンベルがアッシュを演じ、他にシェリルをエレン・サンドワイズ、スコットをハル・デルリッチ、リンダをベッツィー・ベイカー、シェリーをサラ・ヨークが演じている。
エンドロールで大勢の人物が「Fake Shemps」として列記されるが、これについて少し説明を。
「Fake Shemp」とは「偽者のシェンプ」の意味だが、このシェンプというのは三バカ大将の一員シェンプ・ハワードのこと(カーリーが抜けた後に加入した。厳密に言うとカーリー加入前の初代メンバーでもあるので再加入ということになる)だ。
シェンプが1955年に心臓発作で死亡した時、コロンビア映画とは4本分の契約が残っていた。そこで代役を起用し、作品を完成させた。
だが、この代役が全くシェンプに似ておらず、そこから「Fake Shemp」という言葉が生まれた。サム・ライミは三バカ大将のファンだったので、化け物を演じたメンツを「Fake Shemp」と呼んだわけだ。
実際、この「化け物の中の人」が、シェリルやリンダ役の俳優とは全く似てないんだ。
当然のことながら当時は無名だったメンツによって作られているわけだが、その中でも何名かは後に名を成している。
サム・ライミやブルース・キャンベルは言わずもがなだが、例えばコーエン兄弟のジョエル・コーエンが編集助手として参加している。
また、第二班の照明と音響を担当したジョシュ・ベッカーは、後に『地獄部隊サム・ライミ/虐殺ヒーロー』『ファンキー・ヘッド/僕ってヘン?』の監督と脚本を務めることになる。
「Fake Shemp」のメンツの中では、後に『ダークマン』『キャプテン・スーパーマーケット』の脚本家となるサム・ライミの兄アイヴァンと弟テッド。
他に、『ルーキー』の脚本を書いたり『フロム・ダスク・ティル・ドーン2』の監督を務めたりすることになるスコット・スピーゲル。
それに『バッドサンタ』などのプロデューサーとなるジョン・キャメロンといった面々が参加している。
劇中、カメラが森の悪霊の視点になり、空を猛スピードで飛んで山小屋へ向かうという場面がある。
モンスター視点のカメラ映像というだけなら『ハロウィン』でもやっていたし、そう珍しいものでもない。しかし、それが猛スピードで移動するとなれば話は別だ。
手持ちカメラで撮影しようとすれば確実にブレが生じるはずだが、それは無い。
で、そのシーンを撮影するためにサム・ライミがどうやったかというと、なんと自分で「シェイキーカム」というステディーカムを作ったのである。
ステディーカムは『シャイニング』でもキューブリック監督が効果的に使っていたが、この「走るカメラ」の映像は当時としては画期的と評され、後の映画に確実に影響を与えている。
個人的に印象的なのは、リンダの変身シーン。
トランプで遊んでいたリンダが「超能力がある」と言って、無邪気な態度で次々とカードを当てていく。ところが喋っている内、その声があっという間に低くなっていき、そして化け物の顔になってワァーッと立ち上がって威嚇する。
そのシーンに代表されるように、基本的にはコケ脅し系の恐怖描写で御機嫌を伺う。
ただ、恐怖よりも、気味の悪さという部分に傾いているという印象が強い。うめき声やメイクアップなども含め、そのグロテスクっぷりがステキだ。
それが顕著なのが、悪霊に憑依された面々が殺される場面。例えば切断された手首の切り口、あるいは口から、白い液体(血ではない)を噴出させる。スコットがシェリーを斧でメタメタに殴り殺す容赦の無さも素晴らしい。
特に終盤は、そこまでやるのかというぐらい、ゲショゲショに化け物の体が削げ落ち、ゲロゲロに溶けていく。
あと、この映画で強く感じたのは、「感情表現の旺盛な化け物、特に笑う化け物は、男よりも女の方が遥かに怖い」ということだ。
リンダが狂ったように笑う場面が何度かあるが、それは女性の甲高い声が効果的なのだと思う。
試しに、女性の笑い声を繰り返し録音して、夜中に1人の部屋で聞いてみるといい。かなり恐いと思うよ。
逆に、感情の無い化け物は男がいいのかも。完全にゾンビ化してしまうと、もう性別は関係が無くなっちゃうしね。
それと、この映画は「ホラーが行き過ぎると笑いに変化する」ということも教えてくれた。
この映画、1つ1つのシーンとして恐さを感じる箇所はあっても、全体として恐いという印象を持つ人は、たぶん多くないんじゃないだろうか。どこかしら、可笑しさのようなモノを感じてしまうのだ。
サム・ライミ本人も察知していたのか、第2作以降はコメディー色が強くなっていく。
(観賞日:2006年7月31日)
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