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お好きでしょ、こんなのも……!?

お嫌いですか、ロボットは?#114 相性も大事、フィーリングはもっと大事

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? ご無沙汰してごめんね。いやぁ、今週もほんと疲れたわ。

――おやおや? 今夜もお疲れのようですね。復旧の応援に行かれた台湾はいかがでしたか?
 いや、そうじゃないんだよマスター。台北市内やその周辺の市はまるで何事もなかったかのように、日常が戻ってたんだけど、台北から新幹線で南に向かうと、ところどころで地震の影響かな、と思うような崩れた場所があってね。工場や倉庫がある台中も、まるで地震なんてなかったかのような、ふだん通りの生活だったよ。今週は市の中心部で、予定通りのお祭りみたいな催しもあったみたいだしね。だけど、工場に入ると植え込みが崩れていたり、工場の建屋では天井のパネルが外れたりとかの影響はあったね。倉庫の中はもうぐっちゃぐちゃ。天井まである保管用のラックが将棋倒しのように倒れてて、片付けが大変だったよ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「サワラとオリーブのソテー」かぁ。へぇ、サワラって今が旬なんだ。なんだか洒落てるねぇ。そうそう、台湾ってカラスミが有名なんだけど、これが高くなっててねぇ。4年前と比べて値段が1.5倍から2倍近くになっててびっくりしたよ。ポテトチップス2枚分ぐらいの大きさのカラスミが1万円もするんだ。箱に入った高級品なんか2万円とか2万5,000円ぐらいして、思わず2度見どころか3度見しちゃったよ。もう、手軽なおみやげとは言えなくなってたよ。だからはいマスター、個包装されたミニサイズのカラスミの詰め合わせを買ってきたよ。そうそう、個包装と言えばさ。ウチの会社、と言っても親会社からカネを引っ張ってきたんだけどね。食品機械のプラントを作る会社を買っちゃったんだよ。ついにSierとして、ロボットとの相性や相乗効果を、実証する時期がやって来たんだよなぁ……。


名古屋市の北、犬山城がある犬山市の南に江南市ってところがあってね。知ってる人は少ないんだけど、まっすぐの道が少ない市って、地元とその周辺市の一部では有名なんだ。

一宮に抜けるにはこの道を西へ、ってクルマを走らせるといつの間にか一宮の南にある稲沢市の方に抜けてしまってたり、逆に小牧へ行こうと東へ向かうと、なぜか犬山の山奥に連れていかれそうになったりと、とにかくまっすぐな道が少ない市なんだ。
 
 近くを木曽川が流れてるんだけど、川が氾濫する度に道を作ったり、町を整備するからそうなった、なんて地元の人は言うんだけど。とにかく東西南北に整備された道が少なくて、近くに移動するのにもいちいちナビを設定しないと、地元の人以外で目的地にたどり着くのは難しいんだ。

で、その江南市に飲料メーカー系列の工場があって、ジュースや缶コーヒーなんかを作ってたんだけど、今はさ、ほらみんなペットボトルじゃない。缶コーヒーすらペットボトルで売られてる時代だしね。しまいにはその工場も、今後どうするか? 売却するか閉鎖するか、なんて段階なのさ。

で、ここからが本題なんだけど、その工場の近くに、ジュースの生産設備を自社で開発し、生産ラインの設計と製造、アフターサービスまで面倒を見てきた会社があってね。そこを今回、買収することになったのさ。

ジュースやら缶コーヒーの工場って言うと、まぁ言っちゃあ悪いけど、衛生面ではうるさくても、そんな難しい仕事じゃないわな、って素人は思うじゃない。そうじゃないんだよ、これが結構、シブい仕事をこなしてきてたのが、今回よ~く分かったんだ。

缶詰みたいなもんだから、日持ちがするんだろ? って思われるかもしれないけど、コンビニ時代の今は、製造年月日を印字しなきゃならんし、賞味期限が何日を切ると返品とか、商慣習上のいろんな制約があるんだ。

だから、缶コーヒーひとつにしたって、結構シビアな需要予測の上で各商品が生産されているんだよ。ペットボトルの製品だってそう。よほどの人気商品は別にして、ラベルのデザインを変えたり、味だってちょいちょい変えているんだよ。飲んでる人でさえ、気づかないと思うんだけどさ。もちろんオレも知らなかったよ。

で、ウチの会社が注目したのは、その会社のシステムエンジニアリング能力なんだ。さっき言った、生産ラインの設計と製造、アフターサービスまで面倒を見るチカラのことだね。

ウチのSierとしての能力と掛け合わせたら、結構いい相乗効果が出るんじゃないか? ってね。食品業界は「三品(さんぴん)業界」なんて言って、ロボットやSierなんかが注目してる業界でね。パートやアルバイトが手作業でこなしてる分、自動化が遅れているって言われて、市場として注目されてきたんだ。

でもさ、少量多品種の製品を扱うけど、パートやアルバイトがこなしてくれているならそれでいいじゃないか? って、立場が変わればそれも正論なんだよ。わざわざロボットなんて入れなくたって、それで現場が回っているならそれいいじゃないか? ってことだね。

それじゃあ、いつまでたってもオレたちSierの出る幕がないから、じゃあ、設備の面倒を見てきたエンジニアリング会社が困っているなら、その会社を買っちゃえ、ってことになったわけさ。

そのエンジニアリング会社は食品やジュース類の生産プラントや包装機、一部では自動車部品の組み立て機なんかも扱ってきたけど、今後はその領域も広げていこう、新しい生産設備をサービスも含めて提供していこうってことなんだ。

もちろん、ウチで扱うロボットにも活躍してもらうし、ウチの会社が持つノウハウも組み合わせて、自社開発した生産ラインの設計と製造、アフターのサービスまで面倒を見て、顧客に満足してもらえるような提案型技術集団にしていこうってことなんだ。

エンジニアリング会社の全株式を取得して子会社化して、4月からは社名も変更したんだよ。なんかオレもその一員に組み込まれちゃったから、これからはもっと忙しくなりそうなんだよねぇ。

――へぇ、なるほど。たにがわさんの会社も、えらく手を広げられるんですね。たにがわさんに、そんな異業種の仕事が務まるんですか? ただでさえ、全国どころか海外まであちこち出かけられているのに。でも、そもそもがたにがわさんが断らなかったから始まった仕事ですもんね。お身体だけはご自愛くださいね。今夜もとことんお付き合いしたいところですが、そろそろカンバンです。またゆっくりお聞きしますよ。

■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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