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365日のわたしたち。

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365日。 自分にとってなんでもない1日も、 誰かにとっては、特別な1日だったりする。 反対に、 自分にとって特別な1日は、 誰かにとってどうでもいい1日だったりする。 い…
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2022年3月の記事一覧

【365日のわたしたち。】 2022年3月31日(木)

今年の3月31日は雨が降っている。 去年はとても晴れやかな1日だったな、とふと思い出す。 私は、隣の席でデスクの中を整理する先輩のガタガタという音を左耳で聴きながら、必死で仕事をしているふりをしていた。 海外転勤の決まった先輩は、来週出国するとのことで、最終出社日の今日、自分のデスクを片付けに来たらしい。 「デスクの片付けが終わり次第、また家に戻って荷造りをするので、これが出国前最後の挨拶になると思います。でもまぁ、またテレビ会議とかでお会いすると思うので、引き続きよ

【365日のわたしたち。】 2022年3月30日(水)

主人はいつも通り、ダイニングテーブルの定位置に座り、ズズッとコーヒーを啜った。 彼が定年退職を迎えてから、もうそろそろ一年を迎える。 彼が定年退職を迎える直前は、主人がずっと家にいるということで生まれる変化にビクビクした。 居心地が悪くなったらどうしよう。 もしかしたら、会話がほとんどないかも。 仕事を辞めると、男の人はボケるのが早いと聞くけど...。 長い間お疲れ様という気持ちももちろんある一方で、色々な不安が頭をよぎったのも事実だった。 しかし、そんな心配も

【365日のわたしたち。】 2022年3月29日(火)

「あーーーーーー、疲れたぁ!眠い、眠いけど気持ち悪い!」 そう言って同居人が玄関に倒れ込んできた。 「おかえりー。水飲む?」 「飲むぅ。」 そう返事はしながらも、今にも寝そうだ。 4年前に上京してきた俺は、ここ東京でホストとして働き始め、この部屋に数人の新米ホストと共同生活をしている。 ホストというと、なんだか闇深いイメージを持たれることも多いし、順位争いやいじめ、女に貢がせる、といった黒い印象を持つ人も多いと思う。 順位争いはまぁ仕事なのでもちろんある。 でも

【365日のわたしたち。】 2022年3月28日(月)

「明後日には出発だねぇ」 彼の手をブンブンと振り回しながら私は話しかけた。 「そうだね、受験終わってから、あっという間だったな」 そう返す彼の手は、私にされるがままに振り回されていた。 このまま彼の手を持って帰りたい。 なんて、恐ろしい願望が頭を掠める。 昨日から春らしい陽気となり、近所の公園の桜も一気に花を咲かせていた。 今日はそれを彼と二人で見にきたのだ。 これを最後に数ヶ月は会えないかもしれない。 「またこの桜を二人で見れるかなぁ」 「そうねぇ。まぁ、

【365日のわたしたち。】 2022年3月27日(日)

忘れかけていた頃に、その連絡は来た。 優しい春の空気を纏ったそのメッセージからは、幸せが滲み出しているように感じた。 高校生の頃の少し赤らんだ、落ちてしまいそうな程ぽっこりした彼女のほっぺは、15年経った今、少し落ち着いてしまったようだったが、それでもあの頃の彼女の名残はあった。 横に抱き抱えられた娘さんの頬も、生まれたばかりなのに彼女そっくりだった。 最後に会ったのは、2年前だった。 同級生の結婚式で再会したのだ。 その時、育児に仕事にと追われていた私は、堰を切

【365日のわたしたち。】 2022年3月26日(土)

週末の夜はいつも寂しい。 彼は、週末だけは絶対に予定を空けてはくれない。 最初から承知の上で始まったこの関係だけど、彼との関係が長くなるにつれて、それは不満となって私の心の一部を占めるようになってきていた。 「そういう約束だったじゃん。」 彼はコートを羽織りながら、ブー垂れた顔をする私に言った。 「それはそうだけどさ。じゃあ、この関係って意味あるのかな」 「お前は俺と一緒にいられて幸せじゃないの?」 「幸せだけどさぁ。だけど、週末は絶対会ってくれないし。あなただ

【365日のわたしたち。】 2022年3月25日(金)

流さなかった涙はどこにいくのか。 誰か教えて欲しい。 あの日、父は母の冷たくなった身体を目の前にしても、涙を流さなかった。 僕と妹が大泣きしている後ろで、ただじっと母を眺めていた。 「そろそろ...」 そう看護師さんに促された僕と妹は、看護師さんに支えてもらいながらなんとか病室から廊下へ出ようとした。 ふと横目をやると、父はまだ母のベッドの隣に立っていた。 父はゆっくりと手を伸ばし、母の冷たくなった小指と指切りをした。 そしてすぐに離し、僕たちの後を追って廊下

【365日のわたしたち。】 2022年3月24日(木)

それは数日前から感じていた。 ここ2週間ほど、夜の帰り道で必ず一緒になる人がいる。 というか必ず数十メートル後ろを歩いている人がいる。 最初は全く気づいていなかったのだが、携帯の充電が切れていたある日、自分の後ろを歩く人の足音が気になったのだ。 おそらく帰る方角が同じなのだろうと自分を納得させる一方で、申し訳ないがなんとなく不気味に感じて早足で家に帰った。 その次の日から自分の背後が気になるようになったのだが、なんと、その人は毎日、私の後ろを十数メートル離れて歩いて

【365日のわたしたち。】 2022年3月23日(水)

隣の席の人の、キーボードを叩く音が耳に付く。 さっきまで至福の温かさだったコーヒーも、ぬるくなってしまった今は、余計に気持ちを沈ませる。 朝のコーヒーショップは、これから会社に向かうであろうサラリーマンたちの朝活の場であり、 このコロナ禍で憩いの場を制限されている学生たちの集いの場所だった。 かく言う私も、45分後には会社のデスクに座っていなければならない。 「早起きして朝活💓 頑張るぞ!」とコーヒーカップと手帳の写真を投稿したインスタには、 「早起き、えらいです

【365日のわたしたち。】 2022年3月22日(火)

雨に濡れた傘を、傘袋にしまうのが嫌いだった。 それまで冷たい雨から守ってくれていたくせに、指先が冷たく濡れるのを感じると、最後の最後で裏切りを受けたような気持ちになる。 こんなこと、きっと誰に言っても「わがままだなぁ」と笑われて終わるのだろうと、誰にも話したことはなかった。 わがままに聞こえるかもしれないけれど、 もし胸の奥に「ココロ」というものがカタチあるのだとしたら、 その「ココロ」が、声も上げずにただ涙を一雫こぼすような気持ちになるのだ。 彼にはそんな気持ち

【365日のわたしたち。】 2022年3月21日(月)

「ファックション!」 隣の席の人のくしゃみが、教室中に鳴り響いた。 「...すみません」 隣の人は聞こえるか聞こえないかぐらいの声で謝り、持参の箱ティッシュから数枚ティッシュを引っ張り出し、マスクを少しずらして鼻をかみ始めた。 その姿を横目で見ながら、大変そうだな、と同情する。 私は花粉症ではないから、彼の苦しみはまったく想像がつかないけれど、こんな風に授業中に悪目立ちするのだけはごめんだなぁ。 そう頭の片隅で考えながら、板書をノートに書き移していると、消しゴムに

【365日のわたしたち。】 2022年3月20日(日)

三連休の中日の日曜日は、控えめに言っても最高だ。  平日に溜めに溜めた洗濯物を洗濯する。 ピー、ピー、という洗濯機の呼び声を聞きつけ、洗濯物を引っ張り出したら、ベランダに向かう。 カラカラと音を立てて網戸を開けると、そこには春先の眩しい日曜日の世界が広がっていた。 まだ風は少し冷たいけれど、日差しが地面を照りつけているのが確認できる。 手に抱えた洗濯物が風に吹かれているのを感じて、今日はとても気持ちよく乾きそうな予感がする。 一枚一枚洗濯物を物干し竿にかけていく途

【365日のわたしたち。】 2022年3月19日(土)

雨がしとしとと降る帰り道はいつも嫌いだ。 雨に濡れる手がだんだんと悴んできて、 横を猛スピードで過ぎ去っていく車が、私よりも早く暖かい家に辿り着くかもしれないことを想像すると、どうしようもなくやるせない気分になってくる。 だから、この傘を買った。 小さな星が一面に散らばって描かれたその傘は、20代後半の私が持つには少し可愛らしすぎると思った。 だから買う時も少し躊躇したのは、言うまでもない。 それでもなんだか諦めきれず、おずおずとレジのカウンターに差し出したのだっ

【365日のわたしたち。】 2022年3月18日(金)

雨の日は、偏頭痛がひどくなる。 気圧のせいとかなんとか聞くけれど、どうにかしてほしいものだ。 ただでさえ洗濯物が乾かないし、 子供達はきっとドロドロの靴とビショビショの靴下で帰ってくるだろうし、 旦那のスーツはクリーニングに出さなきゃいけなくなるだろうし、 イライラすることだらけなのに、 その上、頭痛で頭も体も重くなる。 早く買い物に行かなくちゃいけないのに、身体がいうことを聞かない。 そうだ、雨が小降りになったら向かおう。 そういう条件をつければ、きっと動