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喇叭亭馬龍丑。日記「なんでこんなに高いの?稲垣次郎」5/21 (火)

2024.5.21(火)

「なんでこんなに高いの?稲垣次郎」

 ディスクユニオンへ和楽器アフロビートバンド・アジャテのNEW LP盤『DALA TONI』を受け取りに行く。

 わざわざ来たからにゃディグらにゃ損損、ってなことでレコードを漁る。モダンジャズジャイアント達を通り抜け、日本人ジャズ棚に差し掛かる。レコードを持ち上げては(ゆっくりと)戻す、その行為の途中、戻したものに一瞬の違和感を覚え、もう一度持ち上げる。何が違和感を察知させたのか、その時点ではまだ分からない。ただ、俺のレコード脳の何処かにいつもと違う何かが引っ掛かったらしい。

 ジャケを仔細に検証する。タイトル、演奏者名、値段。…値段だ。稲垣次郎『インザグルーヴ』十九万八千円。

 ーーー十九万八千円、だと?

 約二十万なんて東京の平均家賃の二ヶ月分じゃないか。なんでこんなにも高いのだろう。レア盤?さっき見たリー・モーガン『EXPOOBIDENT』のオリジナル盤が一万円超で買うかどうか頭を悩ませていたのが馬鹿みたいじゃないか。(結局、買わず。というかディグ良心に照らし合わせて買えず。「イタリア盤持ってっし!」という酸っぱいブドウ理論)

 この二十年、米国ビバッパーばかり追いかけていたせいで、日本人ジャズメンは数えるほどしか知らない。稲垣次郎?知らない。多分、有名な人なのだろう。(ビッグバンドのおじさん達に聞いたら皆知ってた)

 人は値段が高ければ高いほど、その人となりを知らずとも権威を感じてしまう生き物だ。高級ブランドが文字通り高いのと同じように。

 稲垣次郎、気になる。聴いてみたい。「この人の何か他の安いレコードは無いものか」とレコード棚を漁る。

 『港町ブルース』という昭和歌謡集が一枚だけあった。あったが、問題もあった。レコードのジャケットが白人女性の裸体。つまり、おっぱいドーン!ケツプリーッン!のやつだ。昭和歌謡のジャケにありがちなエロジャケ。しかも、表面だけでなく、裏面は反転した写真だからどう足掻いてもおっぱいドーンのケツブリーンッ!

 聴いてみたいがコレを(文字通り)裸のままレジに持っていくのは気が引ける。店員は女性だ。

ーーー致し方ない。

 頭の片隅にレコードの場所を刻みつけ、他のレコード棚に移る。何か欲しくて、かつ安いものはないものか。

 そうして選んだ二枚。かのセロニアス・モンクにも影響を与えたハーレムストライドピアノの雄・JPジョンソンと(そんなに欲しくはない)ガトー・バルビエリのレコードで『港町ブルース』をサンドウィッチする形でレジへと向かった。

 昔の中学生がレンタルビデオ屋でAVを借りる時に、哲学的名作洋画でAVを挟むあのスタイルで。

 昭和歌謡のジャケがエロいのは他にも二枚レコードを買わせる為なんじゃねぇか、と踏んでいる。

*

 夜、YouTubeでムード歌謡を漁っていたら自然と目にするコメント欄。歳の頃は七、八十代の方々の丁寧な書き込みで埋まっている。曰く「十代の頃を思い出す」「先日亡くなった姉が好きだった」「妻の在りし日の面影が云々」

 年代に染み付いた音楽。それを思うと、読みながら危うくも泣くところだった。


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