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HRテック?HRハック?日本型人事システムとマネジメント理論、HRテックの活用などについて考える

米国のギャラップ社が2017年に公表した従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査によれば、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%しかいないことが分かった。GAFA等の企業によるイノベーションが生まれる米国の32%と比べると大幅に低く、同社が調査した139カ国中132位と最下位クラスとなっている。

また、パーソル総合研究所が行ったアジア・太平洋地域14カ国を対象とした「はたらく意識」の調査結果では、日本は「勤務先以外での学習や自己研鑽」を実施していない者が46.3%となっており、ビジネスパーソンがダントツで自己研鑽を実施していない国となっている。

日本は従業員のエンゲージメントが低い上に、従業員が全然勉強をしていない国である。「メシ、風呂、寝る」という昭和・平成型のサラリーマンから令和型モデルを創ることも重要だろう。

持続可能なエンゲージメントのレベルが高い企業は、エンゲージメントが低い状態の企業と比較して、営業利益率の伸びが高いという調査結果もある。エンゲージメントの高低は従業員の年齢やその従業員が属する組織内のコミュニティ等で変わってくるだろう。また従業員のエンゲージメントを長期間にわたり高い状態で維持することも難しいだろう。しかし、企業のイノベーションには従業員のエンゲージメントや自己研鑽が与える影響も考えられるだろう。

当文中では日本企業の人事システムやマネジメント理論等からHRテックと呼ばれる技術の活用などについて考えてみることとしたい。

■ HRテックとピープル アナリティクス

HRテックは、リストバンドや首から掲げる形の機器などを通じ、従業員の心拍やまばたきの回数、細かい体の動きや位置情報、脳波など様々なデータを集めて、ストレス値や集中力、感情の動きなどを分析する技術とされる。これに対して、ピープル アナリティクスと呼ばれるものも存在する。

ピープル アナリティクスとは、人事に関する慣行、プログラム、プロセスなどをデータに基づいて理解することを指します。レポートの作成、予測分析用の指標の設定、実験的調査といった分析手法を使って、新たなインサイトを明らかにしたり、人事上の問題を解決したり、人事部に指示を出したりすることができます。Googleでは、社員を採用、育成し、定着させるための基盤としてピープル アナリティクスを活用しています。
(「re:Work」Googleホームページより引用)

HRテックとピープル アナリティスクスは明確に区別されるものではないが、HRテックは組織や従業員の情報を収集し・管理し、労務管理等にの作業を効率化させるツールの名称として用いられることが多いのに対して、ピープル アナリティクスはより付加価値が高い業務に関する事例で用いられる。たとえば、HRテックで収集したデータを分析し、より高度なアウトプットにするといったものである。

■ 日本型人事システムとHRテック

故青木昌彦スタンフォード大学名誉教授は、「組織が効率的であるためには、情報構造が分権的である組織は集権的な人事システムで、情報構造が集権的である組織は分権的な人事システムで補完することが必要である」とする「双対原理」を述べている。米国企業に典型的にみられるものはA型組織モードと呼ばれ、情報システムでは集権化され、人事管理では分権化されている。一方、日本企業に一般的であるものはJ型組織モードと呼ばれ、情報システムでは分権化され、人事管理では集権化されている。

日本企業に一般的であったJ型組織モードは1980年代までは効率的な人事システムであったと評価することもできるだろう。しかし現在では情報構造や意思決定の仕組みは集権化へシフトさせ、人事部は権限を分権化する必要もあると考えられる。たとえば、人事部の主な権限は人事管理からHRテックの活用による組織の健全性のモニタリングなどへのシフトである。HRテックの活用は、日本型人事システムの在り方に変化を迫るものと考えられる。

■ マネジメント理論について

20世紀初頭、フレデリック・テイラーは自身が工場監督者あるいはコンサルタントとしての現場での実践に基づいて、現場作業員の作業能率向上のための方法である科学的管理法(テイラーリズム)を提示した。科学的管理法やフォード社の科学的管理法を応用した生産システムであるフォーディズムにより、大量生産・大量消費の時代につながったとされる。一方、科学的管理法は従業員の感情や職場の人間関係が生産性に与える影響を考慮しておらず、非人間的であるという批判もあった。

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たとえば、ダグラス・マクレガーによるマネジメント理論のX理論、Y理論では、性悪説的なX理論と性善説的なY理論の人間観がある。性悪説的な考え方であるX理論では、人間は生まれつき仕事が嫌いで、ほっておくと仕事をしなくなるとされる。X理論によるHRテックの活用では、従業員はほっておくと仕事をしないから、従業員の行動は監視しておこうとなるだろう。これは科学的管理法のデジタル版である「デジタル・テイラーリズム」の懸念も考えられるだろう。また、性善説的な考え方であるY理論では、人間は進んで仕事を行い、進んで問題解決を行うとされる。Y理論によるHRテックの活用では、たとえば疲れがたまってきているから、ちょっと昼寝をした方が生産性が向上するだろうと考えるかもしれない。すなわち、HRテックの活用のためにはマネジメントの科学化なども重要になってくると考えられる。

さらに、ロナルド・バードによる仲介者のポジションによるコンストレインの考え方なども参考になるだろう。HRテックの活用は組織内における人間関係のネットワークの見える化を通じて、誰が組織内のハブとして機能しているかが分かるようになる可能性もある。数字には表れない、職場の潤滑油として機能する人材の登用も考えられるだろう。

HRテックの活用は日本型人事システムに新たな変化を生じ、マネジメントの科学化等を通じて、生産性向上のために従業員の行動を変容させる可能性もある。

■ まとめ

これまで日本的人事システムやマネジメント理論について確認してきた。企業が従業員の内面のデータを集めてそれぞれの集中力やストレス値などを算出する技術を導入することに対して賛成か反対かで回答するならば、個人的にはどちらでもないと回答することになると考える。

データを利用したHRテック等は管理の強化の懸念等はあると考えられる。一方、データの活用により、たとえば1日の労働時間が6時間の方が従業員のウェルビーイングの向上や企業の利益が増加すると分かるかもしれない。

データはあくまで使う人次第であり、心理学や行動経済学等によるアプローチを用いた人を中心としたマネジメントを実行するべきであると考える。

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