スウェーデン留学記#28 Stockholmへ弾丸旅行
11月初旬、私はある目的があってルンドからストックホルムへ向かっていた。
水の都、ストックホルムを初めて訪れたのは21歳の時。夏休みにUppsala International Summer Sessionという短期の語学スクールに通うために初めてスウェーデンを訪れた。語学スクールがあったウプサラから電車で1時間ほどの距離にあるストックホルムへは観光のために何回も通った。大小14もの島々からなり、青空を背景に、あたかも水面から立ち上がっているかのように見えるこの都市を初めて見た時の感動は忘れられない。こんなに美しい都市があるのかと、一瞬で心を奪われた。
ルンドに来た時は、デンマークのコペンハーゲン経由でスウェーデンに入国したのでストックホルムとは二年ぶりの再会となる。じっくり歩き回りたいところだったが、実は今回の小旅行の最終目的地はストックホルムではなかったので、ストックホルムに滞在できる時間はほとんどなかった。ストックホルムへ向かうのはパスポートを更新するためだ。パスポートの更新は一年以上前には出来ないので、日本から出国するときには更新できなかった。長期留学の場合は1年以上前に更新できる場合もあるが、ルンド大学からの入学許可が降りたのが出国前ギリギリだったこともあり、手続きが間に合わなかった。そんな訳でストックホルムの日本大使館に行く必要があったのだ。
朝5時くらいのまだ真っ暗なうちにルンドの家を出て、ルンド駅に向かった。ルンド駅からストックホルムまではSJという国営のスウェーデン鉄道に乗り込み、5〜6時間ほど。前もって座席券を購入してあった。前日にライ麦パンで作ったサンドイッチを朝ごはんに食べ、あとはひたすら音楽を聴きながら窓の外を眺めていた。最初はまだ暗くてところどころにぽつんぽつんと家の光が見えるだけだったのが、夜が開けるにつれ徐々に広大な大地が伸びやかに広がっているのが見えてくる。空がどこまでも高い。日本列島を新幹線で横断していると窓の外は目まぐるしく風景が移り変わり、どこに行っても人の暮らしの気配があり、大抵どこかに山が見えている。“母なる大地”を感じるスウェーデンの広大な風景も、八百万の神の気配を感じる日本の自然も、私は好きだ。
お昼前にはストックホルムに着き、地下鉄に乗り換えKarlaplan駅で降りると、徒歩で日本大使館へ向かった。日本大使館があるLadugårdsgärdetのエリアには王立都市公園の一部であるKungligaDjurgårdenが含まれ、広大な緑地公園が広がっている。
大使館へ着くと、ほんの15分程でパスポートの更新手続きをしてもらった。久々の"日本空間"に少し嬉しくなる。スウェーデンで暮らすこと自体は楽しかったけれど、異国に住むということはその国で"外国人"として暮らすということだ。文化やしきたりの違いだけでなく、社会の中で"外国人"として暮らす心細さを感じないことはなかった。だから、大使館の受付で日本人と日本語で話し、周りに日本語で書かれた書類が置かれている状況につかの間の安心感を覚えたのだ。受付の方も「学生さん?」などと話しかけてくれる。「ルンドから来たの?」「はい、ルンド大学に交換留学で来ているんです。」「遠かったでしょう?パスポートの更新がコペンハーゲンでもできるのは知っている?」「…!!!」
私の人生には何度か盛大な"うっかりミス"というのがある。これはその中でもトップ5に入る"うっかり"だ。私はパスポートの更新をコペンハーゲンでもできることを知らなかった。調査不足だ。コペンハーゲンはルンドから電車で40分程である。気分としては、東京から新幹線に乗ってはるばる博多まで何かの事務手続きをしに行ったら、実は横浜でも出来ました、と判明するようなものである。呆然とする私は相当情けない顔をしていただろう。受付の方もなんと言っていいか分からないようで、「あら…」と言ったきり黙ってしまった。
後悔先に立たず。とりあえず受付の方にお礼を言い、大使館を後にした。すっかり秋模様の空は高く、青く透き通り、緑地公園の奥の方には黄葉した木々が見える。落ち込んでた気分が吹き飛ぶくらいのいいお天気なのだ。気を取り直して再びKarlaplan駅まで向かい、途中で見かけたパン屋に入り、お昼ご飯を買った。
ストックホルムに戻り、今度はLinköping行きの鉄道に乗った。先ほど買い込んだパンを頬張る。選んだのはライ麦パンと粉砂糖が振られた渦巻きパンだ。やっぱりスウェーデンのパン屋さんはレベルが高い。噛めば噛むほど味がするライ麦パンも、甘くてふわふわの渦巻きパンも私の心とお腹を満たしてくれた。
さて、Linköpingに着くとローカル電車に乗り換え、さらに数時間ほど揺られようやくたどり着いたのが、私の今回の旅の目的地Vimmerbyだ。何を目指してVimmerbyに来たのかは長い話になるので、また今度。