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パフェを食すことは、美術鑑賞に似ているという話。

ひとりでパフェを食べるのが好きだ。というより、味を想像しメニューを選び、運ばれてきたそれの構成の説明を受け、説明書きと照らし合わせながらスプーンで最下層まで掘り進めていく、という一連の儀式が好きだ。どうせチョコレートアイスとコーンフレークの組み合わせ、SNSで映えるカラフルなものが主流だろうと侮るなかれ、いつからかパフェは進化を遂げ、美術品の域に達している。私がひとりでパフェを愛でるようになって約1年。今回はそう考えるに至った経緯とパフェの楽しみ方についてお話ししたいと思う。

パフェの記憶

人生で初めてパフェを食べたのはいつだったか、高校生の頃、部活動帰りに某ファミレスで食べたのが最初だった。生クリームとアイス、サクサクしたパフのようなものやスポンジがみっちり詰まった大きなチョコレートのパフェを友人とワイワイ分け合いながらつっついていた。パフェというスイーツには好きなお菓子がこぼれるほど入っているぞと、とても甘く美味しく、一瞬でグラスから消えて無くなった。パフェの第一印象は、その名前の由来の通り、完璧なスイーツだった。

 パフェという名前の由来はフランスのパルフェ(Parfait)、つまりパーフェクトの語源から来ている。他の有名フランス菓子たちを押し退け完璧という大層な名前を手にしたパフェは、10cm以上ある背の高い透明なグラスに、アイスクリームやフルーツ、生クリームなどを層にし重ねたものが主流だ。甘いものをこれでもかと詰め込んだ巨大なパフェを誰かと食べる時間は幸せなものだが、大人になった私の胃袋では徐々に受け止めきれなくなり、一緒に分ける友人もライススタイルの変化とともに疎遠になっていった。つまり、10年ほど私とパフェも疎遠になってしまったのだった。

「パフェバーagari」の金柑パフェ。

パフェとの再開「元気だった?」

そんな中、完璧なスイーツと再び出会ったのが去年。外出自粛のあの頃、多くの飲食店が導入を始めたイートイン完全予約制がきっかけだった。残暑厳しい季節に何気なくSNSを開くと、なんとも水々しく美味しそうなパフェの写真と共に、イートインを完全予約制で実施するという投稿が目に飛び込んできたのだ。暑い日に涼しげなパフェの写真、予約は今日から、しかも会社からも近い、という好条件が3つも揃い、予約するしかない!と目が冴え、ソファから飛び起き、即行動に移したのである。カウンター席もあるようだし、パフェをひとりで楽しむのも良いな、と思い予約したこの日が全ての始まりだった。 

予約当日の日。楽しみがあると仕事は早く終わるものだ。いつもより早く仕事を片付けお店に向かうと、既に女性客数人がお店の前でイートインの案内を待っている様子だった。予約した時間まで5分ほど。みんなこのお店のパフェが好きで早く来ちゃった常連さんなのかしらとマスクの下で微笑みながら案内を待つ。検温とアルコール消毒を済ませると、カウンター席に案内された。隣のひとり客とはパーテーションで区切られ、少し離れた厨房では予約された人数分のパフェグラス。パティシエが手際良くアイスクリームをすくい、フルーツをカットし、何やら細長い焼き菓子をアイスに差し込んでいる。目の前ではセットドリンクのコーヒーがドリップされ、湯気と共に良い香りがふわりと店内を満たす。少し上質で、非現実的な空間を独りで静かに味わうのは久しぶりの贅沢だな、と感動していたところにパフェが運ばれてきた。

こちらは、実際に10年ぶりに出逢ったパフェ。
代々木上原にある小さなパティスリー「ビヤンネートル」

「お待たせしました」
 
目の前に置かれたパフェ。さぁ食べようとマスクを外しスプーンに手を伸ばそうとすると、
 
「下から赤ワインのジュレ、マスカルポーネのブランマンジェ、ヌガティーヌ、グラニテ、シュトロイゼル・・・です」
 
あれ。10年前と違う。もりもりの生クリームもコーンフレークもない。スタッフがパフェの構成を底の方から丁寧に説明してくれるのである。パフェってこういうものだっけ、シュトロイゼルってなんだ、と記憶を探りつつ、まずスプーンでアイスを一口。濃厚でひんやりとしたアイスの向こうから、ほのかにスパイスの香りがする。掘り進めていくと、先ほど厨房でアイスに差し込まれていた細長い焼き菓子、生姜風味のメレンゲが冷えた口にぴりりと最高のタイミングでやって来る。このレシピを考えたパティシエの狙いを想像しつつ、自分がいま何を食べているのかをメニュー表と照らし合わせながら食べ進める。この日のパフェは合計16の食材で構成されており、パフェを上から横から鑑賞しながらじっくりと味わった。完璧に計算されたスイーツを食べ、胃袋よりも心が満たされる感覚で家路についたのは初めてだった。

パフェとアートが似ているかもしれない話

つまり、パフェを食べることは美術鑑賞と同じではないかと思うのだ。芸術家の想いや情景を現実世界に落とし込んだものが美術品(アート)であるとするならば、パティシエが作り上げるパフェは美術品であり、それを解説するスタッフは学芸員。それを愛でて食す我々はパフェを通じ美術鑑賞をしている。友人と食べる山盛りパフェはもちろん素敵。でもちょっとひとり時間ができたなら、美術館を訪れるように、ひとりパフェを楽しんでいただきたいと思う。美術鑑賞をするように、心が満たされるに違いない。

上野毛にある「ラトリエアマファソン」では、芸術的なパフェを静かな空間で味わえる。
まさに美術館のような空間だ。

※こちらの文章は、WEB天狼院(メディアグランプリ)様に掲載いただいたものを、再編集したものです

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