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映画「子供はわかってあげない」プロダクションノート

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カントク沖田の妄想プロダクションノート 全部嘘です。嘘じゃないかもよ。
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#沖田修一

#5 脚本の国にて 上

前回、脚本の国について書いてから、このプロダクションノートが、嘘ではないかという人が続出しているという話を聞いた。 ・・・信じてほしい。ただ今は、そっと私の話に耳を傾けてほしい。 私は、ゆっくりと、時間をかけて、回想している。映画作りは長い旅である。過去の記憶をゆっくりとたどるように、私は思い出し、時には涙を流しながら、この原稿を書いている。今一度、このプロダクションノートに一切の嘘がないことを、誓おう。そして、願うなら、このプロダクションノートが、これからの若い映画監督

#6 脚本の国にて 下

原稿用紙が燃えている。おそらくボツになったものだろう。それを焚き火にして、彼ら兄弟が、肉を焼いている。見上げた空は満点の星。アパートのベランダで、私とN氏は、彼らから接待を受け、ご馳走を振る舞われている。酒もある。しかし、飲んだことのない味である。聞けば、頑張って書いたのに、映画やドラマにならなかった原稿をまとめて発酵させて作るものらしい。だからかな。少し悲しい味がした。 「あなたが会われたのは、おそらくみつ彦のことでしょう」 炎に揺らめいた、いち彦が、酒をつぎ、ゆっ

#7 渋谷にて

さて、冗談はともかくとして、「子供はわかってあげない」という原作を映画にするという話があり、私は脚本家にお願いすることにした。映像化ではなく、映画化を。映画として、よりよいものを。映画が漫画に似ていれば、それでいい、私はそれが嫌だった。まずは、原作にないセリフで、台本の会話を埋め尽くそうとしたのだ。セリフのうまい人、それで思い出したのが、ふじきみつ彦さんであった。以前、シティボーイズライブの台本を書いており、そのコントが面白かったのを覚えていた。なんだか、仕事をするのは、

#8 金の話

さて、今回は少し堅苦しい話になるかもしれない。金の話である。プロデューサー志望の方なら、読んでおいて損はないだろう。現在、日本映画の多くは、製作委員会方式が一般的となっている。いわゆる、出資企業の集合体である。一本の映画に対して複数の企業が事業費(製作費+配給宣伝費)を出資し合い、資金のリスクを分散する仕組みだ。各企業の出資金の額により、出資比率が決まり、映画公開後の収益から出資比率に沿った額が各企業に配分される。構成するメンバーには、出来上がった作品を映画館に営業する配

#9 先生

無事、佐渡から生還したT氏、そして、脚本の国へと渡り、いろいろあった私とN氏。そして、いよいよ人間の心を取り戻した、脚本の国のふじきさん。ようやく4人が揃い、今は、この小さな喫茶店で、せせこましくテーブルを囲み、コーヒーを飲んでいる。集まったのは他でもない、原作者の田島列島先生に会いにいくためである。集合時間よりかなり早めに待ち合わせした我々は、わずか10分で話すことは話し、ほとんど時間を持て余していた。約束の時間まで、まだ1時間近くある。今はただ、少しぬるめのコーヒーを

#10 親の小言と茄子の花には無駄がない

プロダクションノートとは、なんだろうか。実はよく知らないままに使っている。それも変なので、来週あたりから、もう少し、わかりやすい題名に変えようと思う。 『映画「子供はわかってあげない」ができるまで』にしようと思う。 映画ができるまでを書きます。 さて、田島先生との打ち合わせの帰り道、その出版社の最寄りの駅前に、私の母校があった。これは偶然である。その学校の横には、大きな寺があり、その更に横には、からあげメインの小さな弁当屋がある。高校生の頃は、よくここで、弁当を買い、学

#11 葬儀

沖田が燃えている。 葬儀は、都内の斎場にてしめやかに行われた。誰も彼もが、沖田の死を悼んだ。よほどの人だったのだろう、沖田という男は。全国各地からやってきた参列者は後を絶たず、彼を慕う若者たちや、付き合いのあった若い女たちが、いたるところで涙を流していたのである。さすがは沖田である。しかしながら、沖田を快く思わない者も少なくなかった。撮影現場での度重なる暴力、パワハラ、セクハラと、やりたい放題であった沖田を目の敵にする者は大勢いた。沖田に金をだまし取られた者もいる。また

#12 閻魔

閻魔が、まさか「横道世之介」を観ていたとは思わなかった。 映画が好きらしく、「テネット」も、2回観たという。IMAXレーザーがおすすめらしい。閻魔は、そういうと、私に天国か地獄か、どちらかを選んでいいと言った。普通は、閻魔の独断と偏見で決めるらしいのだが、たまたま「横道世之介」を観ていたらしく、好きに選んでいいと、情をかけてもらう形となった。いい閻魔だった。去り際に、「滝を見にいく」もいいよね。と閻魔は言った。武蔵野館でおばさんに囲まれて観たという。閻魔め。よほどのマニアらし

#13 新しい朝 〜沖田と芸能界〜

ある朝、N氏は思った。そうだ。沖田修一なんて、顔知ってる人、ほとんどいない。 そうだ。映画監督なんて、名前ばかりで、顔なんて、みんな知らないんだから、誰か沖田さんになっちゃえばいいんだ。まさに、青天の霹靂といったところか。N氏はそれから、ベッドから起き上がると、起き抜けに洗面所で自分の顔を見た。 「はじめまして、沖田です」 と、声に出してみた。 いける。いける気がする。 今日から俺は、沖田修一だ。N氏は心を決めた。映画はまだ終わりじゃない。俺は誰だ。そうだ。俺はあきらめの悪

#14 オーディション

さて、沖田が死んだなんて冗談はさておき 台本は、書き直しつつ、撮影の準備はしていかなくてはいけない。ここから、主に、キャスティングとスタッフィングをしていくことになる。誰が出て、誰と映画を作るのか。まず、何はなくとも主役である。主人公の美波は、オーディションという形をとった。いろいろな可能性の中から、美波を選びたかった。来てくれる女優さんと直接、話をして、それで決めることができるなら、それが一番だと思ったのだ。 ただこちらも、のべつまくなしに集めるのではない。出演した作品を

#15 もじくんのオーディション

さて、この映画に出てくる、もう一人の若者。それは門司(もじ)くんである。門司くんは、書道部で、絵も上手。繊細だが、内に秘めた力強さも持っている。さて、一体この役を誰がやればいいのか。美波と同じように、こちらもオーディションで選考することにした。美波と同じように、こちらもオーディションで選考することにした。 募集をかけたところ、まず、書類が2万通ほど届いた。そこから、だいたいざっと目を通して、軽く1万人くらいにふるい落とす。そして、その1万人に、今度は東京ドームまで自費で来て

#14(の裏) 地獄にて1

橋の上で、ドローンを操縦している骸骨がいる。帽子をかぶり、りんごのマークの電子機器に囲まれている。この地獄の風景を、だいぶ高い所から俯瞰で撮影しているようだ。恐る恐る話かけてみた。物静かだが、聡明な感じの人だった。オズさん、という名前らしい。オズさんは、昔、映画の仕事をしていて、生前はかなり低い位置にカメラを据えて撮っていたので、その反動から今はこっちの世界で、すっかり、ドローンにハマってしまったのだという。ドローンのオズさんに映画のことを話すと、ぜひ参加したいと言ってくれた

#16 撮影前

ロケハン。聞いたことがある人もいるかもしれない。いわゆる、ロケットハンターの略である。この地球上から飛び立つ、無数のロケットを探し、それを飛び立つ前に食い止める。映画の撮影隊は、まず、これをやることになる。ロケハンはだいたい、撮影の1、2ヶ月前には、始まり、主に制作部と呼ばれる人たちが行う。ロケットがありそうな場所をみつくろい、探し、それを監督やスタッフたちが、大きな車に乗り込み、そして、実際に見にいくのである。ロケットを。基本的には、これはNASAが行う仕事であるため、撮影

#17 撮影

いつの間にか、公開が近づいてきた。 1年は早い。公開が延期になったので、その間、なんとなく忘れられないために、コツコツと書いていたこのプロダクションノートだが、前回から急に更新が途絶えた。それには訳がある。まず、私は、#16「撮影前」を書いた直後、何者かに連行され、古い城の牢獄に閉じ込められた。高い塔のような円柱状の牢獄の底で、私は、ロープにつるされた毎朝と毎晩のわずかな食事を与えられ、そして、何者かの声に、尋問され続けていたのである。 「おい、いい加減、認めろ」 「何を